9-1 帝都
ヤルン・マルンへの尋問を終えて、俺達は地下の旧拷問部屋を後にした。
階段を上り隠し扉を開き1階の通路へと出ると、何やら騎士たちが世話しなく走り回っている。
「何かあったのかな……ちょっと話を聞いてきても良いですか?」
俺が返事をしようとしたところで、ムーアがこちらへ向かって走ってきているのが見えた。
騎士団長ともあろう御方が城内を走り回るなんて余程のことが起きたのだろうか。
「アイナ!探したぞ!!」
「ムーアさん!そんなに慌てて…何かあったんですか?」
「シラー帝国より通信の魔道具にて緊急の連絡が入ったのだ。」
シラー帝国…まだ行ったことの無いところだな。敵対国家ではあるが魔王が現れたときは手を取り合うとか何とか聞いたことある気がするけど……まさか魔王でも現れたのか?
「帝国……まさか!」
「魔の手により強襲を受けている。救援を求むとのことだ。恐らくは我々の元へ攻めてきた者達と同類であろう。私は否定したのだが、王命だ。アイナ……行けるか?」
「………はい!!」
なんてこったい。魔王どころの話じゃ無かったか。
しかし騎士団長であるムーアが否定したというのに、無理矢理の王命ということは王様の独断なのか?まさかシラー帝国に貸しを作りたいなんてくだらない理由じゃないだろうな。
政が大事なのも分かるが、もし本当にそんな理由からならアイナを道具のように使わないで欲しいな。
「アイナ……俺達の行き先決まったぞ。ルカ、シロ、いいな?」
「もちろんです、ハルト様。」
「シロに任せて-!やるよー!!」
これで俺達の行き先は決まった。シラー帝国で奴らの暴挙を止めてやる。
「ハ、ハルトさん!!もしかして一緒に来てくれるんですか!?」
「いや、一緒には行かない。帝国の事は俺達に任せてアイナは王都に残ってくれ。」
「へ?ちょっ……何でですか!!!」
「王都を守りたいんだろ?いつまた奴らが来るか分からないからな。だから残っていてくれ。これはチームハルトのリーダーからの命令だぞ。」
恐らく次は聖教国だろう。シラー帝国が終わったら急いで聖教国へ行った方良さそうだな。ヤナタ達の事も気になるし。
アイナは必ず地球へ連れて帰る。その為には出来るだけ安全なところにいて欲しい。
それにしてもチームハルトってだせぇな。
「……分かりました。3人共!宜しくお願いします!!!」
「つーことでムーアさん。俺達が行くから王様黙らしといて下さい。ついでにアイナに無理強いしたらハープルム滅ぼすからなって加えといて。」
「とんでもない奴だな。……ハルト殿、頼んだぞ。」
「あいよ。アイナ、落ち着き次第報告しに戻ってくるからな。」
「はい!お願いします!!」
「マジック・クリエイトを使えば一瞬で行けるけど……相手の強さが分からないから出来れば魔力を温存したいんだよなぁ。ルカ、ここからシラー帝国まで俺達だとどの位かかるか大体分かる?」
「馬で約1日の距離なので、飛んでいけば1時間程度で到着するかと思います。」
「飛んで1時間ならハルルシアをかっ飛ばしても変わらないか。……よし、じゃあすぐにハルルシアで出発しよう。」
ムーアに見送られ、アイナの短距離転移でハルルシアまで送って貰って俺達はすぐにシラー帝国へと向かった。
☆
「このままなら補充しなくても溜めていた魔力だけで辿り着きそうだよ。」
「あっ!また何か飛んでた!!」
シロは出発直後には速さに興奮し、途中からは景色を眺め何かを見つけては喜んでいた。暢気だなぁ。
「ハルト様、あの山を越えたらシラー帝国の領土となります。ここから帝都まではあと10分もかからないと思います。」
「分かった。じゃあそろそろ気持ちを切り替えよう。現地に着き次第俺が大まかに指示を出すけど、状況に応じて臨機応変に動いてくれていい。もしピンチになったら無理はしないでくれ。」
「はい。ハルト様。」
「あい!!シロ頑張るけど無理はしないー!!!学んだー!!!」
山を越えシラー帝国の領地をハルルシアは進む。やがて帝都と見られる巨大な建造物が遠くに見えてきた。
だがその風景はあまりにも異常だった。
黒煙を上げる帝都へ向けて歩み寄っていく山ほどある巨人がいたのだ。
「デカいにも程があんだろ。」
「ですが私達にとっては良い的です。」
「シロあいつ倒す-!!!!」
「既に帝都は襲撃されているみたいだから、あのデカいの奴の他にもいる筈だ。油断しないでいこう。」
近付けば近付く程に巨人はデカさが際立ち迫力が増していく。そしてサーチや魔力感知に複数引っ掛かる。一際大きな魔力が一つ。そしてその次にそこそこの魔力を多数感知した。
「やはり他にも強い反応があるな。どれが敵かは分からないけど、とりあえずあいつに一発お見舞いしとくか。」
ハルルシアに備えられている主砲を巨人へと照準を合わせる。そして少し飛べるだけの魔力を残してすぐに発射させた。
「おお。主砲というより波動砲だな。」
魔力の塊が真っ直ぐ巨人の側頭部へ飛んでいく。当たれば結構なダメージがあるんじゃなかろうか。
タイミング的に確実に捉えた筈だった。だが、突如シールドが張られるとハルルシア砲は防がれてしまった。
「やるな。ハルルシアを壊されても嫌だから早めに降りるとするか。」
ハルルシアを地上へ下ろし、そこからは飛んでいくことにした。シロは俺の背中に乗りルカは俺のすぐ後を続く。
巨人の手が届きそうなところまで来ると、突如巨人の肩にもう一つの影が現れた。
陰の正体は赤黒いローブを身に纏った男だった。
「まさか本当に現れるとはな。信じてみるもんだ。」
「聞くまでも無いだろうが……邪神の欠片に関与してる者か?」
「はっ。だったら聞くなよ。仕方ないから自己紹介くらいしといてやるか。俺はミルヴリアン。そしてこいつがゴース。でけぇだろ?」
確かにデカイ。デカすぎてそれだけで脅威なくらいに。
「お前がハルト・キリュウだな?」
「そうだ。」
「ここの雑魚勇者で遊ぶのにも飽きてきたから助かるぜ。簡単に滅ぼしちまったらお前を誘き寄せる事が出来ねぇからな。」
やっぱりそういうことだったか。俺が目当てならずっと俺だけをピンポイントで狙ってくれたらいいんだけどな。
「ところで王都を魔の手から守り切った気分はどうだ?英雄扱い受けてさぞ良い気分だったんだろうな。」
「……くだらない事言ってないでとっとと始めるぞ。」
「余裕だな英雄さん。ところで……お前大切な人間を王都に残してきただろ?聞き耳を立ててた奴がいてな。」
聞き耳……クロトワか。やっぱり聞いていたか悪趣味な奴め。
「あぁ?何が言いたいんだ?」
「はっ。英雄さんは強いみてぇだが頭は空っぽの脳筋だな。帝都を攻めた理由がわかんねーか?」
まさか。
だとすると、マズい。マズいぞ。……王都が狙われている。
「ようやく気付いたか。まぁ早かろうが遅かろうが関係ないけどな。……そろそろ黒槍が王都を滅ぼした頃合いだろ。」
「このーーー」
『ハルト様!落ち着いて下さい!!』
急激に脳内が熱く粟立ち、この屑がと叫び今すぐにこいつを嬲り殺してしまいたい衝動に駆られたがルカが念話を飛ばしてくれたおかげで踏み止まる事が出来た。
こんな奴に時間を割いてる余裕も無いのかもしれない。もしかしたら俺とルカ達を分断させる為の嘘の可能性だって考えられる。
『ルカ……どう思う?』
『安心して下さい。この二人は私とシロちゃんで充分です。ハルト様はアイナの加勢に向かって頂いて構いません。』
とは言ったものの、ルカとシロだって心配なのには変わりない。ミルヴリアンとやらはハルルシアの砲撃をいとも容易く防ぐほどの実力者だ。
俺が決断をするまでの僅かな逡巡。
その一瞬の間にそれは起きた。
『ルカ…………アイナから魔力が届いた。』




