8-24 ヤルン・マルンへの尋問
喫茶店・静かなる丼を後にし、猫人族に尋問出来る場所へ向かおうとしたが異世界の地理に疎い俺が思い付くわけも無く、またしてもアイナに託すこととなった。
アイナに連れて来られたのは城の地下牢から隠し扉で入れる拷問部屋だった。
現在では使用する事も無なり、あくまでも過去の遺物とのことだ。
多少のホコリはあるが、血なまぐさくも無いし衛生的にも問題無さそうなので拷問部屋でネコミミの尋問を決行する事にした。
念の為、内外部共に出入り不可と転移不可の結界は張った。モフミミは長距離転移してた気がするからな。
「では、これより創造の女神でアーセナル……ゴホン。あらせられるリスキア様の為になるであろう正義の尋問を執り行う。ではアイナ君。」
「はい。覇王の恋人Ⅱの麗しき勇者アイナが奇跡の覇王ハルト様に変わり進行させて頂きます。私はこれより尋問の為に猫人族の悪女、ヤルン・マルンニャーをここへ解き放ちます。」
「アイナ君。ヤルン・マルンだ。ニャーは語尾だ。」
「……失礼致しました。猫人族ヤルン・マルンを解き放ちます。暴れる可能性もありますので皆様お気を付け下さい。」
「はぁーい!」
「ありがとうございます。では我らが希望である愛の化身ハルト・キリュウ様。準備は宜しいですか?」
「あぁ。アイナ君、頼むよ。」
「リストレイントホール。」
アイナが詠唱を終えて魔法を発動させると異空間へ繋がる穴が生まれ、そこからヤルン・マルンがペッと吐き出されて出て来た。
受け身も取らずに地面へと叩きつけられたのだが、それでも目を覚ます様子は無い。
「アイナ君。こいつは間違いなく死んでいないのだな?」
「はい。ハルト・キリュウ様。」
「そうか………。」
だが、俺の目は誤魔化せない。今うっすらと眼を開けてすぐにパチッと閉じたのを見たぞ。
こいつやっぱり抜け目ないのにどこか抜けてる奴だな。
「アイナ、悪いがお遊びはここまでだ。」
「えー。折角楽しくなってきたのにー。秘密結社ごっこのお願い聞いてくれたんだから最後までやりきって下さいよー。」
「もう充分付き合っただろ。おい、猫人族。」
名前を呼んでも起きる様子は無い。しかしどこか冷や汗を流してるような感じがする。
悪夢でも見てるのかな?なんて思うわけないぞ。だってバッチリ薄目で見てたの確認したからな。
「ルカ。こいつ死んだみたいだから、悪いんだけど燃やすの手伝ってくれる?」
「はい。直ちに燃やしましょう。」
「ミャンッ?!ふ、ふわぁーあ!…あれー?ここどこニャー?今目が覚めたばかりだからビックリだニャー。目が覚めたばかりは眩しいニャー。」
し、白々しすぎるだろ。大根役者にも程がある。
「よぉ。生きてたんだな。危うく消し炭にするところだったぞ?」
「こ……こんにちわニャ。」
「あぁ。こんにちわヤルン・マルン。」
ニコニコと笑顔を見せはするが、弱めの覇王の威圧を放ち続ける。
猫人族はダラダラと汗を流し始め眼を泳がせて動揺した様子を見せていた。
「ゴッドイーターとか言う魔法をくらった記憶があるんだけど、どうなってるニャー?お前嘘ついたのかニャー?!」
「猫人族。口を慎みなさい。もう一度ハルト様をお前などと呼べば即座に殺します。」
「は…はいニャ!申し訳ありませんハルトさみゃー!!」
「謝らなくていい。お前は既に謝っただけでは済まされない罪を背負っている。」
すると猫人族はガタガタと目に見えて震えだしてしまった。またチビッたりしないだろうな。
「………………まさかウチを殺すのですかニャ。」
「そうだ。ゴッドイーターはこの世で最も惨く、残酷な魔法だ。あまりの激しさにあそこで使っては周囲に迷惑が掛かりそうだったから仕方なく中断した。だがここなら何の問題も無い。どうした?お前震えているぞ?まさか今更死にたくないとかほざくつもりじゃないだろうな。」
普通に考えたらダンジョンの深部で周囲に迷惑がかかるわけないのだが猫人族はパニック状態の為、何の疑いももっていない様子だった。
「うぅぅ…………ひぐっ、えぐぅ……死にたくニャいでずぅ。」
「……あぁ?聞こえねぇぞ!!」
「死にたくニャいでずッ!!!!」
顔中を涙や鼻水でビチョビチョにしながら死にたくないと叫ぶ。お調子者もふざけて誤魔化す事もないだろう。
これで舞台は整った。
「…………仕方ない。ならば一度だけチャンスをやろう。邪神の欠片についてお前が知っている事を全てを話せ。嘘はこの漆黒の魔眼には通用しない。もう一度言うがチャンスは一度きりだ。」
「うぅぅ……魔眼…。ぐすっ…分かりましたニャ。ぐすっ…。」
ただの日本人の黒目に掛かったかチョロ猫め!!猫人族の返答を聞き、すぐにコウアーションを消す。
「よし。いいだろう。ではまず一つ目だ。今まで何人かの邪神の欠片を持つ者に襲われた。お前を入れて5人だ。あと何人いるか答えろ。」
「はい。その前に一つお願いがありますニャ。遮音の結界を張らないと聞いているかもしれないですニャ。」
かなりの小声で猫人族は囁く。誰かに聞かれることを余程怯えているようだ。
だが、王城の地下において聞き耳を立てる奴などいない筈だが……そんなスキルを持った奴でも仲間にいるのかもしれないな。
「いいだろう。」
すぐにマジック・クリエイトで音を外部と遮断する結界を創り上げた。
「結界は張った。じゃあ続きだ。答えろ。」
「…はいニャ。邪神の欠片は8つあると聞きましたニャ。いるとすればあと2人ですニャ。」
「曖昧だし数が矛盾している。正確に答えろ。」
「は、はいニャ。まず曖昧にニャるのはウチが会ったことあるのは3人だけですニャ。ガンマダという精霊の老人と聖教国の勇者、あと黒槍と呼ばれる女ニャ。それ以外は覚醒した者が既に存在しているのか、まだしていないのか分からニャいニャ。」
ランスロット、ガンマダ……あと黒槍の女ってのはクロトワに間違いないな。
「数の矛盾に関しては………残りの一つは邪神の欠片をウチ達に下さった方が所有しているだろうという推測があったからですニャ。」
「丁度良い。その大ボスについて知っている事を全て話せ。」
「はいニャ。ウチは勿論会ったことなんてニャいですけど……その方は元々地上に生きる者では無く、天にいたのだと聞きましたニャ。あと……今は眠っていると聞きましたニャ。邪神の欠片を取り込み、覚醒しようとしてるんだと思いますニャ。」
天にいた……ということはその大ボスが神界から持ち出したに間違いない。そして神界へ立ち入る事が出来る力を持つ者ということだな。
「分かった。それで全てか?」
「あと……1つだけありますニャ。黒槍の強さは本物ですニャ。適当そうでいて狡猾。軽そうな態度とは裏腹に残酷で非情。あの女は一緒にいると生きた心地がしないですニャ。任意で決めた特定のキーワードをどこかで会話していると、自動で黒槍へ聞こえるようになる遠聴というスキルを持って監視してますニャ。それ以外の戦いのスキルは分からないですニャ。分からないけど敵対してはいけないのだけは感じましたニャ。」
やだ何それ。ハルトをキーワードにされたらたまったもんじゃないな。プライバシーの侵害で訴えるぞ。
「他にはないな?」
「……今思い付く全て話しましたニャ。」
「分かった。約束通り殺すのは止めてやる。処遇はアイナに任せる。」
「任せて下さい!」
ヤルン・マルンも死なないだけマシだと大人しくなっていた。その後連れて歩くの面倒くさいからアイナの魔法の中に入っとけというと自ら異空間へ入っていった。
俺のことが嫌で逃げたんじゃないだろうな。




