8-23 充填率200%
礼をしたいとひたすら食い下がるヨルティナ第2王女と執事から逃げるように蔵書庫を出た俺達はアイナとムーアを連れて通路を進んでいく。
「ところでハルトさん!こんな所でなにやってるんですか?」
「アイナに用があったから来たんだよ。そしたら会議中みたいだから観光してた。」
ハルトさんらしいなぁと頷くアイナに何故か同調してムーアも頷く。観光が俺らしいのか?
そしてムーアが溜め息混じりに口を開く。
「ハルト殿のことだ。またしてもとんでもない事を口にするのであろうな。」
失敬な。王都を想う善意から来てやってんのに。
「今回の件で王都の結界が発動していたけど、あれがどうなったのかなと思って。」
「あの結界は王都全域に埋め込まれた魔道具によるものだ。一定以上の破壊力を持った攻撃に対して自動的に発動する結界である。」
ムーアの話によると結界を壊されても魔道具を壊されない限り、再び魔力を溜め込めば繰り返し使用できるらしい。
埋め込まれた魔道具の大元が城内にあり、そこで日々少しずつ魔力を充填しているようだ。
溜め込まれた魔力の総量によって結界の強さも変わるらしい。
だが、今回の襲撃で溜めていた魔力がほぼ空になったので、王国の魔道騎士団や官廷魔道士等が必死になって魔力を注いでるらしい。
「なるほどね。壊れてたら直そうかと思って来たんだけど手間が省けたよ。ついでだから魔力注ぐの手伝っていこうか?」
「古の魔道具を賢者様が長い時をかけ組み合わせ造り上げた代物を直すだと?そんなことまで出来るというのか?」
質問に質問で返してきたムーアに、「え、ハルトさんなら楽勝でやると思いますよ?」とアイナが答えるとムーアは黙って目を瞑る。
ムーアとのやりとりは面倒くさいから助かった。するとアイナが折角来てくれた事だし、申し訳ないけど魔力の補填を頼みますとお願いしてきた。
俺が了解しムーアとアイナについて歩いていくと1階にある隠し扉へ通され、それを潜ると地下へと下りていく階段があった。
階段を下りると想像していたよりも広い空間に出たが、少し薄暗い感じがする。
そしてその部屋の中央には直径1メートルはありそうな巨大な水晶のような物が台座の上にのせられ、4人の男達がそれを囲み魔力を流し込んでいた。
「これが全ての核となっている。今は透明だが魔力を溜め込むにつれてうっすらと青みがかっていくのだ。」
手を当てて魔力を流し込んでいくだけで良いということなので、早速水晶に手を当てる。
すると水晶の向こう側に金色の毛のような何かがぴょこぴょこ動いている。なんだろうと思い回り込むとシロがいた。
「なんだ、シロだったのか。どうして?」
「んー?ご主人様、ルカちゃんとシロもやるよー?」
「ハルト様、私もお手伝いします。」
何も言わずとも参加してくれるとは。2人ともほんとーに出来た子達や。
すると慌てた様子でアイナまで混じってきた。
「仲間外れにしないでよー!!ハルトさん、私も参戦致しまーす!!!」
「じゃあ、始めようか。3人とも半分以上は魔力残してくれ。……せーの!」
3人の返事と同時に魔力を流し始める。すると水晶は眩く輝きだした。
どんどんと魔力を流し込んでいく。何だかぽっこんぽっこん聞こえてくるけど大丈夫かな。爆発しないよな?
皆で集中して魔力を注ぐこと3分程。俺は10分の1も魔力を消費していないのでかなり余裕だったのだが、突然ムーアが騒ぎ出した。
「ちょ、ちょっと待て!!それ以上は危険だっ!!」
魔力を注ぐのを止めると水晶の輝きが少しずつ治まっていく。そしてそこには真っ青に染まった水晶があった。
「一体この短時間でどれだけの魔力を送り込んだのだ?!ハッキリ言って異常だぞ!こんなにも濃い青は見たことが無い!今にも爆発しそうではないか!!」
まだまだ俺は行けるし、みんなもかなり余力はありそうな感じだけどな。
やはり官廷魔術士達と言っても、俺達とは比べものにならないほど魔力量が少ないのだろうな。
ムーアはピーピー騒いでいたが面倒くさいので無視して皆で魔力充填完了の喜びを分かち合った。
☆
その後もムーアはいい加減王と会え!と騒いでいたが丁重に断らせて頂いた。何故なら散々言ってきたように面倒くさいからだ。
どうせ王とやらに会ったところで言うことなんて決まっている。我が国を救ってくれたことを感謝するとかハルト・キリュウに爵位を授けるとか褒美をくれるとかだろう。
今の状況で大金持ちになったり爵位を貰ったところで意味は無い。王都にだって長居はしないし、金だって最低限でいい。全て解決した後も地球に帰らないといけないからやはり爵位に価値は見いだせない。
要するに王とやらに用は無いって事だな。
ということをムーアに伝えたら真っ赤な顔をして怒っていたがそれこそどうでもいい。
そんな暇があるなら困ってる子供でも助けてる方がまだマシだからな。
そんなこんなでアイナを城から連れ出して、適当にゆっくり話せそうなところへと向かう。
でも俺は王都をよく知らないので結局アイナに紹介してもらった。
そこは……静かなる丼という店だった。丼屋なのか、それともヤバい人が経営してんのか。どちらにしてもアイナは随分と過激な名前の店を選択したものだ。
しかし中へ入ると俺の予想していたどちらでもなく、普通の喫茶店だった。
俺はコーヒーを頼みルカはフルーツケーキと紅茶を、アイナはチーズケーキのようなものと紅茶を頼み、シロはかなり重たそうな食べ物を中心に大量注文していた。
「買い物も終わったし、道路や結界のことも無事済んだ。これで王都でやれる事は済んだな。」
「……そうですか。」
「アイナ-。シロ寂しーよ-?一緒にいこー?」
「シロちゃん、私も寂しいよ。」
「アイナはやっぱり王都に残るんだよな?」
「…………はい。」
アイナは目を瞑り手を強く握り締めていた。
共に居たい気持ちは俺達と一緒なのだろう。だがあれだけの思いを述べたのにも関わらず、ここで容易く一緒にいくなんて答えてしまうほどアイナの芯は脆くない。
しつこくすればするほどアイナは辛くなるだろうな。
「分かった。じゃあ、とりあえずこれだけ渡しておくよ。」
「これは……指輪?」
「緊急時ハルト呼び出し魔道具だ。王都やアイナに危機が迫っていたらこれに直接魔力を流してくれ。出来るだけ早く駆けつけるようにするからな。」
「きれい-!!!アイナ、よかったねー!!!」
「アイナはプレゼント欲しいと言ってましたから、良かったですね。」
「うん!!!ありがとうございます!!!」
俺が極秘裏に用意しておいた指輪を渡すとアイナは驚いたあと瞳に涙を浮かべていた。
この指輪に魔力を流すと俺の魔力に干渉してきて何かあったことを知らせることが出来る付与を加えておいた。
さすがに遠距離の念話となると相当容量を必要とするようで付与することは出来なかった。
「これでとりあえず安心して王都を離れられるかな。……アイナも頑張れよ。」
「はい。………がんばりまずぅ。」
こうして俺達とアイナは感動のお別れをしたのだ……と思いきやもう一つ最重要なことを忘れていた事に気が付いた。
あぶねー。サヨナラ~とか送り出される前に気付いて良かった。
「アイナ。泣いてる所悪いが猫人族の女から話を聞き出すの忘れてたんだけど……今からでも大丈夫か?」
「あっ。そういえばそうでしたね。私はフリーでありフリーじゃないような存在なんで、時間は作れますよ?」
「じゃあお茶をしばき終えたら移動するか。」
飲みかけだったコーヒーを飲み干し、静かなる丼を後にしようと立ち上がる。するとシロが秘かに注文していたプーのムニエルが4皿運ばれてきた。
まだ食うのかよ。……まぁいいか。焦っても猫人族は逃げないし。




