8-22 勝手に昭和ノブシコブシ
牢屋で泡を吹いて気絶したミルール様を置き去りにして、来た道を戻る。
1階へと戻り、曲がり角を曲がって歩いて行くと途中で階段を見つけたので、1階には大した部屋は無さそうなので2階へと上がってみる。
何個かの扉を通り過ぎ進んでいくと、ようやく装飾された扉を発見した。
扉を開くと長いテーブルと少しの円卓が並んでいた。食堂のようなものだろう。
忙しなくメイドさん達が食事の準備を行っていたので邪魔してはいけないと思い立ち去ろうとしたところで、一人のメイドさんがこちらに気付いた。
「すみません。まだ準備中でして……。」
申し訳無さそうに謝る少女に「いえ、何となく立ち寄っただけなので。」と言ってすぐに食堂を後にした。
プレートを見たにも関わらず落ち着いて対応したあたりはプロフェッショナルに感じた。プロメイドだ。
食堂を通り過ぎ地味な扉を無視して進んでいくと、また装飾の施された扉を見つけた。
だが先程見つけた食堂の扉よりもシックで落ち着いた雰囲気の扉だった。
「次は何の部屋かなー?ご主人様!ワクワクするねー!!」
シロが可愛い笑顔で喋りながら扉を開く。
「アイナの言っていた蔵書庫のようですね。」
扉の中は図書館のように棚が並び、本が所狭しと並んでいた。医学書のようなものから歴史書、絵本や魔法の本など様々なジャンルに分けられていた。
「シロでも読める-?」
シロが絵本に興味を示すと、ルカがシロの選んだ絵本を読み聞かせ始める。
なんて素敵な絵面なんだろうか。
そんな二人に癒されていると、蔵書庫の1番奥の方に少女が1人座って本を読んでいるのに気付いた。
こちらに気付いたようでしばらくこっちを見詰めた後に、席を立ち上がり歩いてきた。
「こんにちは。見ない顔ですね。」
「こんにちは。王城には初めて参りましたので。」
少女は自己紹介をしてくれた。
名はヨルティナ・ハープルム。まだあどけなさが抜けぬ少女はハープルムの第2王女だった。
驚きつつも俺達の自己紹介をすると今度はヨルティナ第2王女が驚きの表情を浮かべる。
「まぁ!では貴方達がハープルムを救って下さったのですね!!」
アナログな異世界では顔は知らなくても、名前が知れ渡るのは早いようだ。
まぁ王女なら知ってて当たり前か。
少女は今回の襲撃の内容が気になるようで、どんな敵でどんな戦いだったのかを詳しく聞きたがった。
面倒くさいので適当に誤魔化していると、白髭を蓄えた執事のような男が蔵書庫に入ってきた。
「やはりここでしたか。ヨルティナ様、このような所にいてはお体に障ります。部屋に戻りましょう。」
「いやよ。まだハルト様に冒険のお話しを聞けてませんもの!」
ヨルティナは目を盗んで読者しに来ていたようで執事が連れ戻しに来たのだが、頑なに拒んでいた。
体に障るって事はどこか悪いのだろう。
「ヨルティナ様はお身体の調子が悪いのですか?」
「貴方様は……ハルト・キリュウ様で宜しいですか?」
執事さんは俺達を知っているようで、本来は言え無いことだが俺達なら他言無用でという前置き付きで答えてくれた。
どうやらヨルティナは心臓が弱いらしく、医者曰く症状は悪化の一途を辿っているという。それは国政にも関わるため知ってるのはごく一部の者だけらしい。
執事は本なら幾らでも部屋に持っていくと伝えるのだが、ヨルティナはどうしても蔵書庫で読みたいようで抜け出してしまうらしい。
試しに鑑定パイセンの能力で見てみると、普通に心臓病となっていた。
回復魔法では生まれつきの病を治すのは難しいらしく、血眼になって治療法を探しているとのことだ。
普通に魔法で治せそうなもんだけどな。ヤナタの父親の不随を見放されてた感じからして、通常レベルの回復魔法だと傷以外には案外シビアなのだろうか。
「なるほど。多分……治せます。ヨルティナ様に魔法を使ってもいいですか?」
「ま、真でございますか!?治せるのですか!?」
執事は目を見開き歩み寄ってきた。執事は是非ともと言ってくれたのでヨルティナ本人に確認をしてみるとお願いすると言ってくれた。
「マジック・クリエイト。」
部位再生だと失敗するかもしれない為、心臓の機能を正常にするイメージをした魔法をすぐに使う。
すると鑑定結果も異常は表示されなかった。心臓は完全に治ったようだ。
だが、見た目に変化が無いため執事はキョトンとしているだけでどうなっているのか分からないといった顔をしていた。
するとヨルティナが椅子から立ち上がり、右手を胸に当てて涙を零した。
「デューイ……胸が……息も苦しくない。苦しくないよ!!」
「ヨルティナ様!!!」
デューイと呼ばれた執事とヨルティナは抱き合って喜びを噛み締めていた。
涙ながらに2人は感謝を伝えてきて、たまたま蔵書庫へ来て良かったぁと思いながら感動していると蔵書庫の扉が強く開かれた。
「やっぱりハルトさんですよ。あの優しくて温かい感じは間違いないですからね!!」
慌てた様子で蔵書庫へ飛び込んできたのは騎士団長のムーアと強面の見知らぬ男達だった。
ムーアに遅れヒョコッと顔を出したアイナは私は知っていたぜ!!って感じのドヤ顔をしていた。
「ハルト・キリュウ殿。前触れも無く城内であれ程の魔力を放つなど正気の沙汰か?」
ムーアはちょっとイラッとした態度で俺に詰め寄る。だが、それを制したのはルカやシロでは無くヨルティナと執事だった。
「ムーア。私の恩人に無礼を働くのは止めて下さい。前触れがあろうが無かろうが私の身体を治したのは事実です。私の恩人に無礼をはたらくつもりですか?」
「ヨルティナ様の身体を?ハルト・キリュウ殿……真事か?」
ヨルティナに制されたムーアは俺へ問う。真実に決まってるが、証明出来るもんは今のところ持ち合わせてない。ムーアも鑑定パイセンを使えれば早いんだが。
すると執事のデューイが一歩前へと出る。
「ムーア様。私は目の前で確認しております。ハルト・キリュウ様は間違いなくヨルティナ様の為に魔法を行使しただけであります。そしてヨルティナ様はこれまでに無く顔色が良くなられました。」
「……うむ。勇者や氷龍姫さえも夢中になるのだ。普通の男な訳があるまいか。だがハルト殿、破天荒もほどほどに頼むぞ。」
破天荒というか地球出身だから異世界の常識に疎いだけだけどな。むしろ俺は協調性の達人だと自負しているぞ。
流石にここで「誰が吉村じゃい!」などとツッコむ勇気は無いため、すみませんねと破天荒さの欠片も無い返答をしておいた。




