8-20 握手会
「付加って悩むよね。」
「はい、とても。」
「確か、ルカのブルーアクラには殆ど基礎能力の上昇しか付加してなかったよね?」
「そうですね。ハルト様限定のサーチと念話以外はそのようになっています。」
「アイナのシス・ルーンのネックレスは神装備だから異常だったけど、グレートドラゴアイもブルーアクラより付加出来そうじゃない?素人目だけど。」
「…………でしたら、アイナの破壊特性や転移のように特別な力が欲しいところですが。」
特別な力。……アイナの能力以外で一番最初に浮かんだのは、クロトワの再生不可だった。
目には目をで試しにやってみるか?
「回復出来ないみたいな、再生不可の能力なんてどうかな?」
「それならばちょっとした傷が致命傷に成り得ますね。ではそれでお願いします。」
俺は早速イメージを創り魔力を練り上げる。
結果から言うと失敗した。というか容量オーバーのようだった。
「ルカ、再生不可は容量オーバーみたいだ。」
「そうでしたか。」
「うーん。ルカの戦闘スタイルにあったものっていうとどんなのがいいのかなぁ。」
ルカは全体的に能力も高いし、神力のある今は破壊力にも問題ないだろうし。
「今は思い浮かばないので、少し考えさせていただいても宜しいですか?」
「そうだね。急いでもしょうがないし、とりあえず腕輪は買えたしね!」
そういえばアイナは会議とやらに行くために強制連行されてったけど、やっぱり城にいったかな。
「ルカ、そういえば城って行ったことある?」
「いえ、ハープルムの城には入ったことありません。」
「なら折角だから見に行ってみない?結界のこともアイナに聞いてみたいし!」
「シロは良いと思う~。」
いつの間にか起きていたシロが寝ぼけ眼で返事してきた。
「シロちゃんが行きたいみたいですし、行ってみましょうか。」
「じゃあ、早速行ってみますか!」
メインストリートをひたすら真っ直ぐ進んでいくと、徐々に城へ近付いてきた。
遠巻きで見てはいたが近くでみると想像していたよりも遥かに大きく迫力があった。
城の敷地には王都の門のようにもう一つ門があり、そこには門兵が3人立っていた。
「すみません。城に入ってみたいんですけど自由に入れるんですか?」
「田舎者か?入れるわけがなかろう。」
「あー、やっぱり入れないか。」
「田舎者?ハルト様、直ちにこの者達を排除いたし「大丈夫です!」そう……ですか?」
ルカが迷うこと無く一歩を踏み出そうとしたところを、どうにか制して門兵と会話を続ける。
「勇者アイナに用があって来たんですけど連絡は取れます?」
「勇者殿は確かに王城にはいるが……名を申せ。」
「ハルトが来たと伝えてもらえれば分かると思いますけど。」
「!?ハ、ハルト・キリュウ様であられますか?!」
「そうですけど。」
ついさっきまで威圧的だった門兵が、名前を聞くなり慌てたように丁寧な対応をしだした。
だったらいつ誰が来るか分からないんだから、初めから丁寧に対応すればいいのに。
「失礼致しました!!ハルト・キリュウ様はいつでも通せとの事ですので、ご自由にお通り下さい!!」
「そうっすか……なんかすみませんね。」
誰からの命令かは知らないが気の利いた奴だ。アイナでは無いだろうな。
ピシッと敬礼をした後に門兵は頭を90度に下げる。こういうの慣れてないから気まずいな。
「因みに何処に行けばアイナに会えます?」
「勇者殿は現在会議中のようですので、城内三階の奥の間に居られます!!私がご案内致します!!!」
「んー、適当に聞きながら行くから大丈夫です。」
「では、代わりにこれをお持ちになって下さい!」
門兵が手渡してきたのはハープルム王国の紋章がほられた銀色に輝くプレートのようなものだった。
「本来ならば案内せねばならないのですが……それを持っていれば自由に城内を動けますので!!本来ならば私が案内を!!」
「ありがとうございます。」
門兵の意気込みを躱して颯爽と歩き出す。あー、また頭下げてるよ。俺はただの平民なのに。
門を潜ると庭園が広がり、一際美しい大きな城が引き立っていた。
ネズミーランドのシンデレラ城を初めて見たときの感動に似ているな。
「ご主人様!おっきいねー!!」
「そうだな。」
アイナは自力でここの一室に住める位に努力してきたんだと思うと感慨深いものがあった。
横を見るとルカとシロも城を見上げていた。
庭園には木々や花々が美しく咲き誇っていた。噴水の周りには3人の子供が紙に何かを書いて遊んでいる。城の関係者の子供達なのだろう。
時折すれ違うメイドさん達も俺達を怪しむ様子も無く頭を下げて通り過ぎていく。
敷地内を巡回している兵もプレートを見るなり敬礼をしてくる始末だ。外したいなこれ。
「王城だからもっと要塞っぽいのかと思ってたけど、入ってすぐに綺麗な庭園があるなんて意外だったよ。」
「ハープルムの城は美しいと言うのはよく耳にしました。ですが自然を取り込んでいるとは思いませんでした。」
「シロはこのお庭好きだなー!!水出てるところで泳げる-?」
シロが純粋で奇抜な質問を投げ掛けてきた。泳げるわけないだろ。
庭園を散歩するようにゆっくり進み、やがて城の入り口の傍へと辿り着いた。
大きな門の横には普通のサイズの扉があるが、どちらも正門なだけあって立派な造りであるのは流石は王城といったところだ。
立会者も無く、ズカズカと城に入って行くかと思うと何だか無断で侵入しているようなドキドキがある。
立ち止まりドキドキにワクワクしながらウキウキ楽しんでいると、門の横の小さな方の扉が開いた。
すると扉からシルバーの鎧を着た二十代後半くらいのイケメンを先頭に、ゾロゾロと銀色鎧軍団が出て来た。
副団長のおっさんと同じ鎧っぽいからハープルム王国の騎士団だろう。
俺なら片腕で全員倒せるのは分かっているが、それでもその迫力に感動してしまう。
先頭のイケメンは他の騎士団の連中とは一人だけマントの色が違っていた。役職でもついているのだろうか。
俺が異世界感動キラキラアイで見詰めていると、イケメンがこちらに気付き近寄ってきた。
見過ぎて不審者だと思われたのかと思ったが、イケメンに敵意は無いのは表情ですぐに気付いた。
しかしイケメンだなこいつ。ルカに近づくなよ。
「こんにちは。」
イケメンは会釈とともに爽やかな笑顔で挨拶をしてきたので、俺も会釈する。
「特別許可証……もしかしてハルト・キリュウ様でしょうか?」
イケメンはプレートを見ると俺の名を言い当てた。
俺はとても驚いていた。名前を言い当てたことにではない。他の兵達と違いイケメン君の余裕ある態度にだ!
イケメンはあたふたしない生き物なのか?
「はい。あなたは?」
「これは失礼致しました。私はハープルム王国騎士団のレーラシッドと申します。ハルト・キリュウ様。我等がハープルム王国を、我等の家族を救って下さりありがとうございました。このご恩は末代まで忘れず、語り継がれるでしょう。」
イケメンは心までイケメンだった。
余裕ある態度から、てっきり自信満々の自意識過剰な自尊心高いキザな嫌な奴かと思い込んでいたが、嫌味を一切感じさせない丁寧さで深々と率先して頭を下げた。
それに続いて後ろに控えていた騎士団全員が頭を下げた。
「あー。……どう致しまして。でも恥ずかしいんで普通にしていて下さい。」
と伝えても中々レーラシッド率いる騎士団は頭を上げてくれなかった。
ようやく頭を上げてくれたかと思ったら、騎士団の人達が個々に感謝の念を伝えてきた。
長い。アイドルの握手会の辛さを初めて知ることが出来たな。
全員との挨拶を終えて逃げ出すように歩き出す。全員ニコニコと嬉しそうに笑ってこちらへ敬礼をしてくる。
苦手だ。苦手だよこういうの。アイドルに俺は絶対なれないな。




