8-17 アスファルト
「ん……朝か。」
両隣にはルカとシロ……と何故かアイナまで寝てる。狭いだろうに。
昨晩アイナとの会合が終わり石化された俺は意識の無いうちに夕泉亭へと戻っていた。
ニコニコしている3人に何となく居心地が悪くて先に寝たのだ。
ルカは寝相良く寝ていて寝姿まで美しいって感じ。シロは頭が俺の足元にある。
アイナは起きている時よりも幼く見える少女のような寝顔だ。
3人とも可愛いな。
そんなことを考えながらボーッと見詰めていると、ルカが目を覚ました。
「おはようございます、ハルト様。すみません、すぐに朝食の用意を。」
「おはようルカ。大丈夫だよ、ここ宿屋だからね。」
「そ、そうでした。すみません。」
ルカ寝ぼけてるのかな。貴重な姿を見れた。
俺が顔を洗っているとアイナの起きた声がした。
「ルカおはよー。あれ?ハルトさんは?」
「ハルト様ならもう起きてますよ。」
「あっ、ハルトさんおはよー!」
「お、おぅよ!」
お、おぅよ!じゃねぇよ。まんせーよりはマシだけど朝からテンパるなよ俺!
「ハルトさんは可愛いですなぁ~。思ってたよりもシャイなんですね。」
クスクスとアイナは笑い出した。あれ……立場が逆転してね?でも普段通りの敬語に戻ってるな。
「うっさい。」
俺が細やかな抵抗をしていると、俺達の部屋をノックする音が聞こえてきた。
「すみませーん!朝食がもうすぐラストなんで、食べるなら早めに来て下さいねー!!」
ミーナがドアから顔を覗かせて伝えに来てくれた。どうやら寝坊したみたいだな。
「すぐにいくよー。」
はーいと言ってミーナは扉を閉めた。腹減ったな。
「シロちゃん起きてー。朝だよー。おーいシロちゃーん。」
「ムニャムニャ。あと二時間だけー。」
あと二時間も?らしいっちゃらしいけど。
「シロちゃん起きて-!ちゅりゃ!!」
「ぴゃ!!やめてよー!!くすぐったい-!!」
「ようやく起きたなー!シロちゃん、朝ご飯食べれなくなっちゃうから早く準備しなさーい!」
「朝ご飯!!急がないと!プーに逃げられるー!!!!」
朝から皆元気だなぁ。
皆の支度が整い食堂へ下りていくと、既にテーブルには朝食が用意されていた。
「いただきまーす!!」
「やっぱりプーだ!匂いで分かってたもーん!プーが挟まってるー!アイナのプーちょうだい?」
「プー抜いたらただの野菜パンになっちゃうじゃん!!」
「シロ、プーの料理なら出してあげるよ。だからおとなしく食べるんだぞ。」
「はーい!!」
シロは食いしん坊だなぁ。朝から良くあんなにガツガツいけるな。
「アイナ、今日は王城で仕事か?」
「いえ、今日は騎士団の人達と一緒に道路の復旧作業です。王都の正門前が特にひどいみたいなんで、馬車などが通れるように整地したりします。」
「正門前ねぇ。」
シロだな。
「……もちろん手伝うよ。な?シロ。」
「うー。シロがはんにんー。シロも手伝う-。」
「ハルトさん達が手伝ってくれたら一瞬ですね!!ありがとうございます!!」
「ルカ、すぐに終わると思うから買い物頼んでもいい?」
「はい。」
シロの尻拭いに行くと決まったので、急いで朝食を終えて正門へと向かった。
☆
「うわぁ……こりゃずいぶん派手にやったなー。入ってきた時は真っ暗だったから気付かなかったよ。」
「ごめんなさいー。」
「俺が頼んだ仕事をきっちりこなしてくれたんだ。気にするなよ。」
シロは珍しくシュンとしていた。すると先に作業していた騎士団の一人がこちらへ歩いてきた。
「シロ殿、体調は戻ったかな?」
「おっちゃんかー。ひゃくぱわーだよー。心は2だなー。」
「アイナ殿も来られたか。」
「マシスさん、ご苦労さまです!」
シロやアイナと話していたのはマシスという名の騎士団の副団長だった。
40歳くらいの男らしい顔立ちをしたガチムチ系おっさんだ。ヒゲが凛々しくてシブいがどことなくホモ臭が漂っている。気のせいだろう。きっと。
「シロ殿、そちらにいるのがご主人様と言っていた者か?」
「そうだよー!!」
「どうも。ハルト・キリュウです。」
「あれ?マシスさん、ムーアさんから何も聞いてないんですか?」
「あぁ、私はずっとここの復旧作業をしていたからな。ハルト殿、私はハープルムの騎士団副団長のマシスだ。ハルト殿も今回の魔族との戦いに参加して頂いたのだな?」
「まぁ、はい。」
「ていうかマシスさん。ハルトさんがいなかったら今頃王都も城も消し炭になって、王国は確実に滅んでますよ?」
「そうだよー!ご主人様は偉いんだよー?」
「………そうであったか。我らは王都を救って頂いたことを心から感謝している。ただ、一つだけ質問があるのだが。」
質問?なんだ?
「ハープルムの勇者であり、ハープルム最強のアイナ殿の姉であるシロ殿から聞いたのだが……。」
アイナの姉?シロが?何言ってるんだこの人。
「あははは。シロちゃんとは血は繋がってないし、年齢も私の方が上ですよ。多分姉貴分みたいな事じゃないですか?」
「シロはアイナのお姉ちゃんだよー?シロの方が先にご主人様といるもーん。」
俺と出会った順番か。となるとシロは太古の森で一度会ってるからルカも妹ってことか?
「ルカちゃんはシロよりも先にご主人様と旅してたからお姉ちゃんだよー!アイナは末っ子ー。」
なるほど。共に旅に出た順番か。確かに出会った順だとフォル爺が長兄になってしまうもんな。
「姉にしては若いとは思っていたが、やはりそういう事だったか。」
信じてたのかよマシス。天然かよマシス。
「質問って何ですか?」
「あぁ、シロ殿の強さは目の前で見させてもらったのだが、私の知る限り群を抜いて強い。だが、そのシロ殿が最強だとハルト殿のことを言っていたのだが……真実なのか?」
最強ねぇ。本気のシロと戦ったこと無いし、戦いたくもないからどちらが強いかなんてわからないな。
「ハルトさんは謙虚な人なんで、自分で最強なんて答えないですよ?ただ、勇者の名にかけて……最強に可愛いです。」
ぶふぉ!不意打ちはやめてくれ!!そしてなんかマシスめっちゃ睨んでるんですけど!
「ご主人様は最強に可愛くて優しくて強いの!!」
「可愛くて優しいのは分かった。だが最強ということの答えが聞けていない。ハルト殿、一つ私と手合わせして頂けないだろうか?」
何でその流れで手合わせになるんだよ。やっぱりゲイなのかな。
「いえ、お断りします。」
「何故だ。」
何故だって面倒だからに決まってるだろ。
「マシスよ。ハルト殿の強さを戦わねば計れぬようでは到底勝ち目などないぞ。」
「ムーア様!」
「油を売ってないでとっとと道路を復旧させるぞ。私も少し手伝っていく。」
「あっ、ムーアさん!それなら大丈夫ですよ?ハルトさんがぜーんぶ直してくれますから!!」
「ハルト殿一人でか?」
「まぁ、やってみます。土魔法も得意ですんで。」
「マシスよ、ハルト殿の力量が見れるらしい。是非ともお願いしよう。もちろん対価は払う。」
対価ってまたポケットマネーじゃないだろうな。
「アイナの手伝いなんでお金はいりません。では。」
土魔法と言ったが、整備する為の土魔法なんて知らないからな。結局マジック・クリエイト頼みだ。
割れた氷河のように隆起した地面をならして馬車等がスムーズに走れるイメージ。
これは簡単そうだな。早速魔力が地面へと流れ出したので、土魔法っぽい演出でもするか。
「あー、大地よ…我が意思に沿い姿を変えよ。サカンアース!!」
仕方ないんだ。仕方ないんだよ。魔法の名前なんて突然考えられないんだから!!
地に手をつき魔力を流していく。すると数百メートルの範囲の地面が淡い光に包まれていく。
ガタガタと隆起した地面は溶けるように変化していき、左官職人の方々は帰っていった。だけど、どうやら職種が違っていたようだ。
「な、なんだこの黒い道は!?」
ムーアさんとマシスおじさんが驚くのも無理は無い。俺だって驚いている。だってサカンアースの左官職人さんの筈が舗装職人さんが仕事してしまったのだから。
て、手が痛くて執筆が……。健康第一ですね。




