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8-14 癖がすごい



 屋台を後にして、俺達は宿屋を探すことに決めた。


 メインストリートを歩いていくと、路地の先にもチラホラと店が建ち並んでいるのが見える。


 メインストリート以外は住居が多いが、路地裏の隠れた店も多いようだ。


「ルカはどこか良い宿知ってる?」


「ハルト様がお気に召すかは分かりませんが、もう少し進んだところに古陸のマリスミゼルという宿があります。宿泊費は高いですが、高級感があり広々としているので寛げるかと。」


 なにそれ。

 異世界のネーミングの基準がよく分からない。

 地球に居た頃に読んだ小説に登場する宿屋や食べ物はもっとハイセンスな感じがしたんだが。


「んー、金をケチる訳じゃ無いんだけど、もっと平凡な感じの宿知らないよね?」


 あまり豪勢な部屋に泊まると折角の異世界の情緒が楽しめない気がしてならない。


 1階が食堂になっていて、恰幅の良い女将さんとその旦那さんが豪胆な料理人兼宿長。その娘が看板娘で料理を運んできたり、その子目当てで冒険者が集まっていたり。


 さすがにそんな恥ずかしいイメージを伝える度胸は無いけど。


「王都に来るときは父が同行していたので、あまり色々なところで泊まることはありませんでした。お役にたてなくてすみません。」


「もー、そんなんで謝らないでいいからね?ルカにはいつも笑顔でいて欲しいんだから。」


「ハルト様……。」


 あまぁーーーーい!!!台詞を言ったは良いが、キザっぽくて鳥肌が立った。ルカがキモいとか言う子じゃなくて良かった……。


「ご主人様-。あれも泊まるところー?」


 俺が自分のキモさに身悶えしているとシロが袖を引いてきた。指を指している方を見ると、ベッドのマークの看板が見えた。


「そうみたいだな。ちょっと見てみるか。」


 近付いてみると、そこはまさに中の中といった感じの建物だった。看板の下には、宿屋・創聖のアクエリアスと書いてあった。


「創聖のアクエリアスねぇ。名前は格好良くした感じだけど中はどうなんだろ。」


「入ってみるー!!」


 シロが一人で潜入捜査を決行した。そしてあっという間に出て来た。


「シロは宿屋知らないから分からないけど…中の中なのかなぁー?」


 おぉ!まさに俺が求めていたのは中の中だぞ!これは入って確かめる他ないな。


 シロの手を握り、創聖のアクエリアスの戸を開く。中を覗くとイメージとは違いすぐ目の前にカウンターが現れた。


 思っていたよりも狭い。ていうかロビーが三畳ほどしか無いってどうなのよ。


 ハルト・キリュウの異世界宿ナビというアプリが存在していたら既に減点対象となるな。


 だがまだロビーしか見ていないので、減点対象とはなるが減点にするにはまだ時期尚早だ。


「……。」


「ご主人様-。ひまー。」


 前言撤回。ロビーしか見ていないが減点だ。


 一つ星から五つ星まで評価があったとして、平均が☆3つだとしたらロビーだけで既に☆2つだ。 


 待てど暮らせど従業員が来ない。既に10分は待っている。どおりでシロがすぐに戻ってきたわけだ。


 もしかしたら呼び出し用のボタンか何かあったするのかと思い、カウンターを確認しようと近付く。


「うう゛ぅ。」


 するとカウンターの向こう側から呻くような声が聞こえた。


 誰か倒れて苦しんでいるのかもと思い覗き込むと、禿げたおっさんが涎を垂らして寝ていた。

 

「あのー。」


「ばぁ~?ふぉぉわぁ-。あぁー?なんだ客か?」


「はい。」


「見ねぇ顔だな。素泊まり金貨一枚な。飯付きだと金貨二枚。うちは男女別部屋だから最低金貨二枚から。はい、帰った帰った。」


 何なんだこいつ。飯がついただけで金貨一枚(十万)増やすなんてボッタクリもいいところだろ。


「一応部屋を見てから決めたいんですけど……。」


「あぁ?……金持ってんのかぁ?うちはオメェみたいなヒヨッコが泊まれるような低レベルな宿屋じゃねぇんだよ!ほら、帰れ帰れ!!」


 こいつ商売する気あんのか?態度悪すぎるだろ。


「その位の金ならあるけどな……。」


「あぁ?なんだ、甘ったれの金持ちのクソガキか。冒険者の真似事なら母ちゃんのぼへらぁっ!!!!」


 母ちゃんのぼへらぁと訳の分からない事を言いながらおっさんは壁に突き刺さった。


「死んで償いなさい。」


 犯人はルカだった。


 俺が罵倒されたときの憤然としたルカは誰にでも公平らしい。例えそれが一般人だとしても。


 さすがに一般人にはマズいから注意した方がいいのかな。でも想いを踏みにじるようであまり言いたくないな。


 言いにくい……よし!やめよう!!


「じゃあ……出ようか。」


 誰かに見られて衛兵を呼ばれても面倒くさいからそそくさと創聖のアクエリアスを後にした。


 一応死にはしないように回復魔法はかけたけど、即死してないよな。


 そんなことを考えてサーチで生存を確認している俺はチキンだ。


「ご主人様-、ルカちゃん暴れたよ-?いいのー?」


「ルカはちゃんと手加減出来るからな。シロは駄目だぞ。」


「わかったー。」


「すみません……。」


「いやっ、気にしないで。あれはルカの優しさからの行動だってのは分かってるから。」


 そんなことを喋りながら路地裏を歩いていく。やがて店も無くなり人とすれ違う事も無くなった。


 すると曲がり角を曲がろうとしたところで怒声が聞こえてきた。


「暴れんじゃねぇ!!いい加減諦めろや!!」


「いやっ!離して!!」


 うーん。仕方ない。


「すみません。ここ何処ですか?メインストリートに戻りたいんですけど迷っちゃって。」


「た、たすけ「あぁー?今忙しいからどっか消えてくんねぇかなぁ!!」……。」


 先程聞こえた怒声と同じ声で、190センチはありそうな大男が凄んできた。

 そして、大男の周りには見るからに子分といった奴等が5人いた。


「アニキが消えろって言ってんだろーが!!!早く消えろや!!」


 マズい!!このままではルカが必殺仕事人になってしまう!


覇王の威圧(コウアーション)。」


 俺はルカの手を汚さない為に率先して魔法を放つ。するとルカが一歩目を踏み出すタイミングで、男達は白目を剥いて気絶した。


「ふぇ?な、なにが起きたの?あなたが魔法を使ったの?」


「そうです。慈愛溢るるハルト様が貴女を守りました。」


 俺が返事するよりも早くルカが返事した。


「ご主人様は慈愛溢るるるるだよー?」


 俺が言葉を呑み込んでしまった隙を突いてシロがルカをパクりだした。


「余計なことしないでよ!!」


「ん?」


「ド・ハシビロコウファミリーにうちを潰されちゃうじゃない!!あんたのせいで………お父さん…お母さん…。」


 ド・ハシビロコウファミリー?なんだそりゃ。


 ほんと異世界はネーミングセンスの癖が凄い。


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