2-5 勇者ランスロットと氷龍姫
「あー途中で引き返せば良かった。やっぱり失敗だったかなぁ。」
俺はハルトの村(笑)を出てからというもの、サーチを使わないで勘に頼った旅をしていた。
意味はないが、何となく旅っぽい感じがしたからだ。
気付けば見渡す限りの岩山で、その中の一つの山の頂上まで辿り着いていた。
途中で引き返そうかと思ったが、何となく負けな気がして、突き進んでしまった結果だ。
急ぎの旅ではないとはいえ、無駄な時間を過ごしたかもしれないことに少し後悔した。
「無駄な事なんてないさ。勉強になったじゃないか。これも運命だ。」
無理やり自分に言い聞かせ丸め込み、眺めのいい場所で昼飯を食うことにした。
「それにしても、随分遠くまで来ちゃったなぁ。」
眼下には平地が随分遠くに見えた。ここまでくるのにどれ程心が後ろを振り返ったことか。
街道に出た時に右か左で悩み、左を選択した。あの時はどちらを選んでも街にたどり着ける気がしていた。
しかし、ひたすら街道を歩いて行くが、誰とも遭遇する事は無かった。それだけでも大部ネガティブな考えをし始めていたが、街道の辿り着いた先が、木で封鎖された廃坑だったのだ。
そこで引き返せばよかったのだが、戻るのが悔しくて、山を越えていくためにあるような道があるのを横に見付けてしまったのだ。
そうなると山の向こうの村だか街だかまで行ってやろうと思ってしまったのだ。そして、冒頭へ至る。
途中から焦り始めて、かなりスピードを出していた気がする。そのせいか少し腹が減ったので、昼休憩を取ることにした。
街道が終わってからは、魔物が現れ始めたが、デカイミミズは食べる気がしなかったし、石像みたいな狼は硬くて食えなそうだった。
新たな獲物での調理は無理だったので、ラドゥカ達に振る舞ったこともあり、大部減ってしまったが仕方なくインベントリから魔物の肉を取り出して食べることにした。
調味料が欲しいなぁなどと考えながら火魔法で肉を焼いてると、山の向こうから突然地響きが聞こえてきた。
ずっと暇だったせいで最早正常な判断は出来なくなっていた。ようやくイベント発生だ!などとアホな考えをして、昼飯の肉も食わずに仕舞い込み、急いで火を消して、わくわくしながら走りだした。
音がしたのは、ここからそれほど遠くない距離のようなので、走ればそれほどかからずに辿り着く。全力で走りだし、途中で前を塞ぐ魔物(雑魚い石ののキノコの群生)に遭遇したが、ちぎっては投げちぎっては投げて、超特急で向かった。
そして、音のした辺りに辿り着き見たのは、たった二つの存在がそこら中の岩山にクレーターを作り、目にもとまらぬ速さでぶつかり合ってる姿だった。
「なんだあれ……ほんとに人間なのか?」
片方は氷の魔法を止めどなく放ち、もう片方は空を駆け剣閃は残像を残して先を行く。それは人型の男女だが、距離もあり動き回るので正確な姿は確認出来なかった。
ついつい二人の戦いに見とれてしまっていたが、鑑定のことを思い出し使ってみる。すると男の胸元でネックレスっぽい何かが輝き、鑑定がレジストされてしまった。
「鑑定が通じない……そういう魔道具でもあるのか?」
その時、鍔迫り合いをしている男と目が合ってしまった。そこでようやく隠蔽を使い忘れてるのに気付いた。どうやら、暇をもてあましていた為に興奮しすぎていたようだ。
いや、むしろ場数の足りなさや、ステータスなどによる過信から油断しきっていた。
「鑑定スキルか。そんな遠くから覗き見るなんて悪趣味なんだね。」
気付いたらさっきまで鍔迫り合いしていた男が背後にいた。
「え?」
全く動くことが出来なかった。そして何より焦らされたのは気配察知があるのに、背後を取られるまで気付けなかった。
「鑑定は気を付けて使った方がいいよ。覗きと同じで、気付かれれば敵とみなされるから。強者なら気付かれるから尚のことね。へぇ……ハルトって言うんだぁ。なっ……!マッチレスヒューマンだって?!君は……くっ!!」
どうやら鑑定スキルを男も持っているようだ。男が話しているうちに少女が俺も巻き込む形で男に魔法を放った。氷の波動が丸呑みするかのように襲いかかる。男が瞬時に消えるのが見えた。
訳が分からぬ内に男に背後を取られ動揺していたようだ。気配察知が反応したのに、完全には避ける事が出来ずに足に魔法が当たる。
吹き飛ばされている最中、両足が凍り付いてるのが見えた。そして地面に打ち付けられると同時に、両足が体から離れていった。
「ぐあぁあぁーーーー!!!!」
あまりの痛みに血の気が引き意識を失いそうになる。
どこかで二人が戦っている音がする。
慌ててフォル爺に教わったヒールを使うが、地面に打ち付けられた時に出来た体中の傷が癒えるだけで、手足の傷は治らなかった。
ヒールより高位の回復魔法はまだ知らない。
「くっ……。ま、マジッククリエイト…部位再生……。」
なんとか魔法を発動すると、ちぎれた両足の付け根から足が生え始めた。
「な、なんとか間に合った…。」
凍りつき、千切れていた足元を見ると、血溜まりが出来ていた。あの魔法が直撃していたらと想像したら、鳥肌が立つ。そしてちょっと無理矢理魔力を練りすぎたようでクラクラする。
二人の様子を見てみると、男が明らかに優勢だった。
少女の方は満身創痍といった様子だ。
「氷龍姫さん、いい加減諦めておとなしく捕まりなよ。そろそろ飽きてきたから遊びはお終いにしようか!」
男の魔力が途端に膨れ上がると、銀色に輝く剣が周りに現れ、男は呟く。
「貫け。聖封剣アルミナス・ヒュンティア!」
異常なほどの魔力を宿す3本の白銀に輝く剣が少女へと突き進む。
「ガァアァァーーーーー!!!!!!」
少女が人間の声量とは思えない咆哮を上げると、巨大な氷柱が地面から飛び出し1本の剣を凍てつかせる。
そして少女の持つ剣でもう1本の剣を何とか受け止めるが、最後の1本が少女の心臓を貫いた。
「ガッ…ハッ……。」
剣の勢いのまま、女は口から血を吐きながら地面に落ちて行った。
俺はその戦いに見入っていた。そして少女の頬を伝う涙に気がついてしまった。
男は追撃をすべく片手を上げ魔法を構築する。すると男の頭上に5メートルはありそうな巨大な炎の塊が形成された。
「灼熱の業火よ、その者を焼き尽くせ!ギガフレイア!」
炎の塊が大気を焦がし動き出した。
「てめぇ、殺すつもりかぁ!!」
俺は雷の魔力を体に纏い瞬時に女の元へ全力で走り出した。




