8-9 ハルト流剣術
「それぞれ始めたようだな。ハルト・キリュウ。我々も始めようではないか。」
ルカも変な女を追い掛けて行ったし、アイナも戦闘を開始しているようだ。シロは既に暴れ回ってる。
「お前は強い奴と戦いたいんだよな?」
「その通りだ。我が求めるのは力のみである。それ故に我の力を試すに値する者を求めている。」
「だったら少し移動するぞ。さすがに王城の上じゃ戦闘に集中出来ないからな。」
「ふむ。良かろう。では貴様が力を発揮できる場所を好きに選べ。」
「着いてこい。」
戦闘狂はチョロインが多いのか?おかげで誘導に手間がかからなくて済んで助かった。
俺が空へ飛び立つとクェンティンは黒い粒子のような状態となりすぐ後ろをついてきた。
かなりの速度を出していた筈だが、離されること無くピタッと追走してくる。
やはりこの能力はかなりヤバそうだ。
「そろそろ良いのでは無いか?」
「あぁ、じゃあこの辺でいいか。」
このスピードに着いてこれるかな?みたいなノリで飛んでいたら、ついつい遠くまで来てしまった。
「貴様は武器を使うのか?」
「まぁ特にこだわりは今の所ない。相手によって変えている感じだ。」
「ふむ。では我が気にする事ではないようだ。ならば我はこの黒蓮の剣を使うとする。構わぬな?」
「あぁ、好きにしてくれ。」
こいつは何なんだ?いちいち遣り取りしてくるから、ほんとペース狂うな。
「ではハルト・キリュウよ。一撃で死ぬことは赦さぬぞ。」
「ぬかせ。」
とは言ったものの未だどう戦うか何のイメージも出来ていない。だがクェンティンの黒剣からは今までの敵の中でもトップクラスの魔力を感じる。
これは相当魔力込めてやがるな。
クェンティンがどんな戦い方をし、どれだけの技量と隠し球があるか。ちまちま考えてる位なら全力で先制攻撃をした方がいいのだろうか。
しかしそんなことを考えても行動には移さず、とりあえず安パイで雷の魔力を身に纏う。
チキンだぜ。
そういえばこの金色の鎧バージョンハルト君の技名を決めた気がするのに完全にど忘れしてしまった。
若年性のアレかな。若年性のアレって魔法で治るかな。
クェンティンは俺の雷の鎧を見ると驚きながらも嬉しそうな顔をした。
「ほぅ。これは面白い。人族の若者が雷属性の魔力を纏うことが出来るとはな。そしてエーシェンの紫雷より遥かに濃密だ。」
「エーシェンってだれだ?」
「うむ。我の妻の名だ。そろそろ小さき娘の所へ着いた頃だろう。貴様程では無いが、エーシェンに勝てる者は貴様の仲間にはおらぬであろうな。」
「小さき娘……シロか。」
シロの所にまでクェンティンの仲間が現れたか。しかも嫁1号が。
下級魔族も普通の冒険者には強敵なのだろうが、まるで雑魚のようにワラワラといたし、その上に嫁1号が登場してしまってシロ大丈夫かな。
まぁシロなら力技でどうにかしてくれるだろう。今は信じるしかない。
「妻達では貴様の相手は荷が重かったようだ。我は運が良い。その雷で我が剣を止めてみせよ。……いくぞ。」
片手剣と大剣の間くらいの長めの剣を片手で構えるとクェンティンは走り出した。
塵になっていなくてもかなりのスピードがある。身体能力は高いし、隠し球も沢山ありそうで油断出来ない。
様子見で遠距離攻撃からにするか。
「雷光砲!!」
光属性を混ぜ込んだ雷を掌から放出させる。雷のようにギザギザとした動きでクェンティンへと向かっていく。
「どこへ向けて放っているのだ?我と戦っているのだろう?」
「ッ!?」
突如クェンティンは背後に現れると勢いよく黒剣を振り下ろしてきた。俺は即座に纏った魔力から雷の剣を創り受け止める。
間違いなく雷光砲の先にクェンティンはいた。魔力の動きも無く転移した様子も無かった。
これは何かあるな。
「危ねーな。また手品か。ドキッとするだろうが。」
「よくぞ受けきった。久しく見ぬ強者だ。更なる力を手に入れた我の今の一撃は魔王でも受けきれぬであろう。見事だ。」
「誉めてくれたところ悪いが、近付きすぎだぞ。」
体全体を覆う雷の魔力を増幅させ一気に放出させる。これなら背後だろうがどこだろうが避けきれないだろ。
と思ったら、雷がクェンティンを呑み込む瞬間に黒い粒子になったのが見えた。
「ふむ。普通ならば決定打となるところだ。良い攻撃だな。」
「……クェンティンさーん。質問がありまーす。」
「気味の悪い話し方をするな。なんだ?」
誰が気味悪いだ。冗談の通じない奴だな。
「その黒い粒子みたいなのって攻撃されると自動的に発動するんですかー?」
「ふむ。良いだろう答えてやる。本来ならば我の意思によるものだったのだが、更なる力を手に入れた我が気高き血がそうさせているようだ。」
なるほどね。MTがATになったのか。攻撃に対して死角無しって事だな。
こいつの身体能力とこの無敵モードは厄介だな。
んー、あの黒い粒子に神力って効くのかな。
「うーん。どうしようかなぁ。」
「む?戦いの最中にそのような気の抜けた声を出すものでは無いぞ。どうしたのだ?」
「いやー。お前を倒すには魔力を凄く使いそうで嫌だなーと思って。」
「ほう。それ程に強力な技があるというのか!ならば我に使ってみせよ!!」
強い技!?使って使って-!!ってこいつ変態なのか?
「でも初めては毎回疲れるしなぁ。ダルくなるからあまり魔力使いたくないんだよなぁ。」
「それだけの力を持ちながら何を弱気な事を言っている。それに戦いというのはそういうものであろう。貴様は勝つつもりが無いのか?それとも最終手段であり、それが我に効かぬ場合打つ手が無くなるということを恐れているのではあるまいな?」
「いや…クェンティンを瞬殺出来る自信はあるし、別に効かなくても他の手を使えばいいんだろうけど、やっぱり反則かなーとも思うし。」
「ほう。瞬殺ときたか。ならばその強気、我がへし折ってみせるのみよ。」
とりあえずほんとに疲れたくないので、神力としょぼめのマジック・クリエイトの合わせ技で行こう。
「マジック・クリエイト。神力大蒜剣。」
俺が創ったのは、無属性の魔力に神力を込めた魔力の剣。それが大蒜剣だ。
「またしても珍妙な魔法を使うのだな。だが感じた事の無い程の力を感じる。良い、それで良いのだ。」
「……じゃあ、斬るぞ。」
俺が全力疾走というか、ひとっ飛びでクェンティンの元へと辿りつくと、クェンティンは真正面から突きを繰り出してきた。
すると普通の剣の形をしていたクェンティンの剣先が五つに割れて伸びると、まるでイカやタコの捕食シーンのように俺を喰らおうとしてくる。
だが、俺はイカもタコも大好物だぞ!!
「ハルト流剣術即興剣技!!大蒜斬り!!!!」




