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8-8 想いと怒り



「顔を崩せば醜女が少しはまともになるかと思ったのですが……どうやら私の気のせいだったようですね。」


「……血?お前が私の美しい顔を蹴ったのかしら?」


 私の蹴りをまともに顔面に受けて吹き飛んでいったオルタネイトを追うと、オルタネイトは呆然と座り込んでいた。


 額から血を流し、それを震えた手で拭う。


「私がその醜い顔を蹴りましたが…何か?」


「……ふーん、随分と綺麗な顔をしてるじゃない。もちろん私には劣るけれど。お前はキリュウ・ハルトの恋人?それとも妻かしら?」


「どちらでもありません。それが何か?」


「はっ!だったら何をムキになってるのかしら!!」


「ムキになっているつもりはありません。醜いあなたの為に顔を修復しようとしただけですが。」


「油断していたとはいえ、私の一番大切にしている顔に触れることが出来るだけの力がお前にはある。キリュウ・ハルトの何でも無いというのならば、クェンティン様の力になりなさい。お前ならば私の次くらいにはなれるはずよ?」


「断ります。可能性としては零です。」


「……悲しい女。愛される喜びも知らないのね。ハルト・キリュウも罪深い男だわ。こんな女を弄んで悦に入って何が楽しいのかしら。」


「……ハルト様が罪深い?」


「ええ、そうよ?好きで好きで堪らない癖に素直に表現もさせてもらえず、ただ利用されるだけ。だったらいっそのことクェンティン様に身を委ねればいいのよ!そうすれば幸せになれるというのに!」


「そうですね。」


「だったら「そうです。」……。」


「ハルト様のことが好き。堪らなく好きです。朝から晩までハルト様のことばかり考えている位ですから、愛しているのでしょう。確かに…愛される喜びはまだ分かりません。ですが愛される為に努力する心地良さと、心から愛する喜びは知っています。ですから……ハルト様を侮辱した貴女を私が裁きます。」


「はっ!何を言うかと思えばとんだ戯れ言を!!まさかそんな青臭いものが純愛とでも思っているのかしら?本当の純愛は愛し愛され求め合うこと!お前のくだらない恋愛感とは全くの別物!!吐き気がするわ!」


「わかり合えなくて良かったです。わかり合えてしまったら、自分が分からなくなるところでしたから。」


「この性悪女めっ!やってやるわ……本当はあの醜男からめちゃくちゃのぐっちゃぐちゃにして、二度とクェンティン様に見せられないような顔にしてやるつもりだっバハァッ!?」


「黙りなさい。その口でハルト様の名を呼ぶことを死ぬまで禁止します。すぐに解かれる約束ですが。」


「……やったな。やってくれたなぁ!!!!絶対ゆるさん!!!ハルト・キリュウの前に腫れ上がった顔で引き摺っていってやる!!!!」


「禁じた筈です。死をもって償いなさい。」


 ハルト様を侮辱したこの女を私は決して赦さない。


「…遍く生ける吹雪の精よ、凍土を統べし氷精よ、仇なす魔の源を絶つ力を与えよ。白氷武装。」


「氷のドレス?馬鹿にしてるのかしら?ガクにゲルマ、お出でなさい!!!」


 オルタネイトが両手を広げる。すると足元に二つの黒い影が生まれ、そこから何かが這い出してきた。


「お待たせ致しました、オルタネイト様。」


「ご機嫌いかがですか?」


「最悪よ。この女が蝿のようにプンプンプンプンと耳障りな言葉を聞かせてくれるの。」


「この娘ですね。」


「どう致しますか?」


「嬲り殺しなさい。今すぐに。」


「「畏まりました。」」


 陰から出て来てオルタネイトと会話をしていたのは二人の男だった。


 恐らくは魔族なのだろうが、下級魔族ではない力強さを感じる。


「二人とも待ちなさい。折角だから今から殺すこの醜女に絶望を感じてもらう為に自己紹介したいの。」


「「畏まりました。」」


「この二人は魔族の中でも特別よ?私の直属の部下であり、戦闘に特化した獣魔族なの。そしてハルト・キリュウも驚きのこの美形よ?この二人にお前の純潔を奪ってもらえるのよ?感謝してほしわ!!ボロボロになったお前を見たときのハルト・キリュウの顔が見物だわ!!」


「ハルト様の名を口にする事を禁じた筈ですが、これで二度目ですね。そろそろ私も限界です……覚悟は出来ましたか?」


「ね?生意気でしょう?ガク、ゲルマ!その醜女を二度と戻らないように美しい顔にしてあげなさい!!」


「「畏まりました。」」


 オルタネイトの部下二人は魔力を体に巡らせる。すると原形を留めず変体していく。


 ガクと呼ばれた魔族ははち切れんばかりの筋肉を晒す猿猴のように。


 ゲルマと呼ばれた魔族は四足歩行となり、硬そうな表皮と四本の角を生やした魔獣のような姿となった。


 どちらも……大したことはない。


「白氷刀。……では参ります。」


 剣技はいらない。


 暇潰しにもならない。


 剣を二回だけ振る。ただそれだけで充分。


「ガァァッ!?」


 地を蹴り二人の魔族の間をすり抜ける。


 まだ二人は何が起こったのかも気付いていないのだろう。既に首が胴体と離れているというのに。


「ガク!?…ゲルマまで!?そんな……二人が一瞬でやられるなんて……有り得ない!!!!お前は何者なのよ!!」


「ハルト様を愛して止まないただの龍人ですが?」


「ドラゴニュート…だとしても異常過ぎるわ!!どうやってそんな力を手に入れた!!!」


「異常?だとするとハルト様を愛する私以外の二人も異常ということになります。」


「なっ!?…そんな馬鹿な事があってたまるものかぁ!!!」


「因みに。ハルト様の強さは私などでは足元にも及びません。例えるならば雑草とユグドラシルと言ったところでしょうか。」


「はっ!虚言で動揺させようとしても無駄よ!!!どうせハルト・キリュウなどお前の力でここまで欺いてきた詐欺師!クェンティン様に今頃瞬殺されてるわ!!お前もクェンティン様には勝てない!いい?ハルト・キリュウもお前もクェンティン様には勝てない!!……ッ?!」


「……幾度も伝えました。ハルト様の名をその薄汚い口で呼ぶなと。」


「ガヒュ……よぐ…も。クェひゅっ……テぃひさ……。」


「神龍剣・一華。貴女が死んだ技の名です。と言ったところで聞こえてはいないようですが。」


 神力を使った剣技により喉を切られオルタネイトは血を噴き出す。噴き出した血は凍り付き、青い華を首元に咲かせた。


「ハルト様を侮辱したことを……暗い地の底で永遠に後悔しなさい。」


 オルタネイトに背を向け、一瞥する事も無くハルト様の元へと私は向かう。

 

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