8-7 紫の雷霆
「離さないよー?」
強靱な力で鞭を引き、シロを無理矢理投げ飛ばし引き剥がそうとしてくる。でもシロはもっと力強いもん。
更に神力の混ざった魔力をどんどんと流していくと、鞭を離してエーシェンは後ろに飛び退いた。
「あなた……本当に人族なのかしら?」
「今はね-。さいきょーに優しいご主人様のおかげだよー?」
「今は?……どういうことなの?ハルト・キリュウは何者なの?」
「どういうことー?んー、そのままだよー?ご主人様はねー、可愛くてさいきょーでさいこーかなぁ。」
「…そう。あなたの魔力から異常な力を感じた気がするのだけれど、問い詰めてもまともな答えは無さそうね。」
「異常じゃないよー?」
「……私も本当に殺す気でいかないと駄目みたいね。…………紫雷。」
エーシェンが紫雷と唱えると紫色の魔力が全身を覆っていく。
ご主人様の鎧とは違うみたい。ルカちゃんの氷のドレスとも違う。なんだろー。
「厄介な力を持っているのね。スピードもパワーも人族のそれを遙かに凌駕してる。野放しにしてはいずれクェンティン様に害が及びそうな程。だから成長する前に叩かせてもらうわ。ね?」
「シロ負けないもーん!!」
お互いに準備が整い動き出した。
「ちゅりゃ!!!」
動き出したエーシェンに手弾を飛ばして牽制する。だけどエーシェンの手前で紫色の雷に触れると掻き消されてしまった。
「無駄よ?これを破れるのはクェンティン様だけよ。」
「ちゅりゃりゃりゃ!!」
エーシェンの言葉を無視して神力を込めていない通常の手弾を連発させる。そしてその中の一つに神力を混ぜる。
「小癪な真似を…!!」
エーシェンは手弾を嫌がって、空に飛び出して距離をとった。やっぱりシロも破れる-。
「よっこいせー!!」
今度は地面を引っ剥がしてエーシェン向けて投げ付けた。
「あなた……悪い子だったのね。」
エーシェンは両手をくっつけ、掌を花のように広げてシロに向けてきた。
「壊してあげるわ。王都ごと。ね?」
エーシェンの掌に魔力が集まりどんどんと高まっていく。凄い魔力だー。
「シロも必殺技があるのー。シロは魔法まだ知らないからルカちゃんとアイナが考えてくれたの。まだ練習してないけど、シロはやれると思うな-。」
「お好きにどうぞ。私の紫雷はクェンティン様以外の全てを焼き尽くし飲み込む。例えおかしな魔力でも抑えきれない。」
「それはすごいねー。でもシロだって負けないよ?名前はアイナが考えてくれたの!!主動拳って言うんだよー?波動拳っていう技と、ご主人様混ぜたんだって!!」
エーシェンのように両手をくっつけ掌を花のように広げる。でもシロは指を曲げてるからもっとかっこいい。
「なら力比べとしましょうか。私を全力にさせた罪を悔いなさい。ね?」
「分かったー!!本気出すよー?」
シロも本気で魔力を高めていく。こんなにいっぱいの魔力を溜めたの初めてだなー。
「王都と共に散り、クェンティン様に捧げる犠牲となりなさい。さようなら。」
「おばかだなー。」
エーシェンはおばかだ。シロは本気なのに。
「紫雷霆ッ!!!!!!」
「シロ流奥義その①!しゅどーけーんっ!!ちゅりゃあぁー!!!!!!」
紫と白の極太な光の奔流がぶつかり合う。
紫は愛情の行く末を求めて。
白は純粋な愛と希望を込めて。あと早めのご主人様の匂いを求めて。
バチバチッと音を立てる紫色の光は攻撃的に火花を散らし雷霆のように攻め立てる。
白色の光は激流のようだが穏やかな流れの大河のようにも感じさせる圧倒的な力が紫色の雷を受け止める。
「!?……そんなっ!!!」
やがて白色の光は、エーシェンが全力で放った紫雷を押し返し始める。
「まだまだいくよー!!」
「有り得ない!!有り得な……きゃあぁぁぁ!!!!!!」
掛け声と共に更に神力を込めた魔力を放出させる。すると白色の光は完全に紫電を押し返してエーシェンを呑み込んだ。
「エーシェンおばかだなー。ご主人様といれば幸せになれたのに。あれ?……なんかフラフラする。」
普段手弾のように魔力を飛ばすことはあっても、こんなに強く長く放出させたことはなかったし、神力だってこんなに使ったことはない。
やり過ぎたー。
「魔力使いすぎると…こんな感じかぁ。目が回るぅ~。」
「おい!大丈夫か!?」
魔力欠乏による酔いで座り込んでいると、兵士おじさんの声がした。
「うん。でも魔力使いすぎたみたいー。」
「あぁ、でもそのお陰で助かった!!アイナの姉と言っていたが……名前を聞いてもいいか?」
「シロだよー?何度も呼んでたよー?」
「シロ…か。おい、急いで魔力回復薬を持って来い!!君は王都の救世主だ。魔族達を撃退した祝いをしたいところだが、まだ終わっていないかもしれん。とりあえず今は結界の中で休んでくれ。すぐに冒険者も来るから後は任せてくれ。」
「あとはルカちゃんとご主人様だから大丈夫だよー?ひゃくぱーだよ?」
「だが、王都を守ってくれた者をこんな所に座らせておくわけにはいかない。」
「ご飯ある?」
「ん?必要ならすぐに用意出来るが。」
「なら休む-!今は戦えないから食べて元気になるー!プーは絶対食べるよー!!」
「はっはっは!やはり大物は違うようだな!すぐにプーを含めた食事を用意しろ!」
「やったー!!プー沢山もってこーい!!」
ご主人様とルカちゃんなら絶対大丈夫。
戦いが終わるまでに元気にならなくちゃ!
だからシロはプーを沢山食べないと!!




