8-5 シロ始動
「ッ!?」
それは詰め込みすぎた魔力に鞘が耐えきれず割れた音だった。
その音と共に魔力は溢れ出て剣を吹き飛ばしながら鞘は爆発した。
「きゃあっ!!!」
私は爆風に吹き飛ばされ、シャルナの口内へと飛んでいく。そしてそのまま背中を打ち付けられてしまった。
だが吹き飛ばされたのは私だけでは無く、神力を纏った剣も同時に飛ばされていく。
剣は口内にぶつかり、切り裂きながら喉へと消えていった。
「ルゥゥアァガガアァァーーッ!!!!!!」
痛みに耐えかねてシャルナは叫ぶが、口内にいる私には拷問のようだった。
「転移…しなきゃっ。」
勇者の剣が取り残されてしまったが、命には代えられない。
残り少ない魔力を振り絞り転移を発動させる。
「ルウゥガァ………ルガァウゥゥッ!!!!!」
転移で外へ出ると苦しそうに暴れ回るシャルナの姿があった。
「ハァッハァッ……どうしよう!!やばい!!」
剣も魔力も無くなり逃げるしか手段が無くなった私はパニック状態に陥いる。
すると苦しむシャルナの恐竜の背板のようなものが突如弾け飛び光が漏れ出した。
「ルウゥガァゥゥアァガァーーーーッ!!!!!!」
一際激しくシャルナが苦しむ様子を見せると、神力の輝く光がシャルナの全身から漏れ出し大爆発を起こす。
「凄い……これも神力の効果なの?」
あまりの光景に呆気に取られていると、地面へと墜落していくシャルナの背中を何かが突き破って空を舞っていったのが見えた。
「あっ!!剣だ!!!」
剣は僅かに残った魔力を纏い、まるで流れ星のようにキラキラと輝きながらクルクルと飛んでいた。
転移をする魔力も元気も残っていない私は何とか空を飛び、草原へ落ちていく剣を追い掛ける。
「あった!!」
落ちた先へ行くと地面に突き立つ剣がすぐに見つかった。
その時、シャルナが地面に落ちた地響きが聞こえ振り返ると、巨大な海蛇のような体が縮んでいくのが見えた。
「まぐれだったけど……私勝てたんだ。ハルトさん、私何とかやれたましたよ。……よっと。」
地面に刺さった剣を引き抜く。すると柄まで突き刺さっていた剣が簡単に引き抜けた。
よく見てみると、刀身の半ば辺りで折れてしまっていた。
「そんなぁ~。……絶対怒られる-!!!!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「とぉっ!!」
ご主人様から出撃許可が出たってルカちゃんが教えてくれた。
ルカちゃんもそれを伝えたら直ぐに飛んでっちゃったから、シロもハルルシアからすぐにジャンプしてクルクル回りながら着地を決める。
それにしてもなんかルカちゃん凄く怒ってた気がする。ルカちゃんのことだから、ご主人様が馬鹿にされたからとかかなー。
シロもそれなら怒るなー。石投げるけどなー。
着地を決めた後、王都の結界を背に前方を確認するとどんどんと影が広がって、そこから下級魔族が続々と生まれてきていた。
「うわー!!たくさんだー!!でも魔族も死霊も得意だからよーゆーうー!!アイナが良く言ってるシロ無双やるしかなーい!!!ちゅりゃりゃりゃ!!」
下級魔族達を千切っては投げ千切っては投げを繰り返して突き進む。
「あー!そっち行っちゃダメだよー!!」
王都を振り返ると新たに這い出してきた下級魔族達が結界付近まで迫っていた。
慌てて結界まで戻り下級魔族達にげんこつをくらわせて退治する。
すると結界の中から声が聞こえてきた。
「お、おい!そこの君!!今王都は何者かの襲撃を受けている!結界の外へ出ては駄目だ!!急いで戻りなさい!!!!」
振り返るとシルバーの立派な鎧を着た大きなおじさんがいた。他にもその後ろに10人くらい兵士さんっぽい人達がいる。
「おじさんだれー?ご主人様が知らない人には着いていっちゃダメって言ってたよー?シロ忙しいのー。」
「私はハープルム王国騎士団副団長のマシスだ。またいつ攻撃が来るか分からないん……な、なんだあれは!?魔族だ!!魔族が大軍で攻めてきているぞ!!」
「よわ魔族-。どんどん出てくるね-!」
「伝令は至急ムーア様に状況を伝えろ!Cランク以上の冒険者も急いで連れて来い!!残った者は結界を突破させるな!死ぬ気で守り切れ!!!」
「えー、死んじゃダメだよー?アイナに怒られるよー?シロも怒られるよー!!」
「早くそこから避難しろと……アイナ?勇者アイナ殿の知り合いか?!」
「知り合いじゃないよー?シロはアイナのお姉ちゃんだもーん!!」
お姉ちゃんってマシスおじさんに伝えると時が止まったように固まってしまった。
口閉じないとルカちゃんに行儀が悪いって言われるのになー。
「だいじょうぶー?」
「あ、あぁ。嘘では無いな?」
「うん!シロは嘘つかないよー?」
「……そうか。ところでアイナ殿の所在は知っているか?」
「アイナは-、あそこにいるよー。わぁ!大っきい蛇さん出て来たぁー!!!かっこいー!!!アイナいーなー!シロが倒したいなー!!」
「な、何だあれは!?魔物なのか?」
「んー、多分強い魔族っぽいー。アイナ頑張って-!!」
「助けに行かないで良いのか?!いくらアイナ殿でもあんな怪物を1人では……。」
「だいじょうぶだよー!アイナ強くなったし、信じてるからねー!!シロはご主人様に魔族達を王都に入れるなって言われたから離れられないしー。だからおじさん達は結界から出て来ないでね!巻き込んで殺しちゃったらアイナとご主人様に怒られるからー!」
「ほ、本当に君も大丈夫なのか?ご主人様って誰の事なんだ?」
「シロは大丈夫だよー?ご主人様はご主人様だよー?優しくて可愛くて格好良くて美味しいのー!」
「美味しい?」
「あー……アイナ羨ましいなぁ。じゃあ倒してくるからおじさん達出て来ないでねー!!ちゅりゃりゃりゃ!!」
シロが下級魔族達を一撃でバンバン葬っていくのを見た兵士のおじさん達は、今度は皆揃って大きく口を開けて固まっていた。
変なおじさん達だなー。
「でも、幾ら倒してもキリが無い-?あの影消せるかなぁ。」
倒しても倒しても下級魔族達は生み出されていく。
これじゃいつまでも弱い魔族達としか戦えないから、影をどうやって消そうか考えることにした。
早くご主人様のところに行きたいな。匂い嗅がないと!




