8-2 それぞれの戦場へ
「塵と化すのはそっちよ!!!!」
アイナはクェンティンに怒りを露わにし、瞬時に背後へ転移して斬り掛かった。
アイナの剣はクェンティンの首を捉え、血は流れずとも致命傷にはなるんじゃないかと思ったが、剣が首に触れた瞬間に黒い粒子となり舞い上がった。
散り散りになった黒い粒子は直ぐさまアイナの背後へ集まりだし、形となっていく。
慌ててアイナは距離を取ると俺の隣に戻ってきた。
「悪くない。悪くはないが良くもない。」
すると集まった黒い粒子は元のクェンティンの姿へ戻り、余裕な表情で話を続けた。
「磨けば光りそうではある。やはり我の妻となれ。」
「まるで手品だ。攻撃が効かないなんて便利な体だな。因みにアイナはやらないぞ。」
そういえばさっきアイナに切り飛ばされた筈の腕も元に戻っている。
物理攻撃が効かないのか?
「血が特殊なものでな。ふむ。……中々楽しませてくれそうな貴様等に私の妻を紹介しようではないか。シャルナ、オルタネイト。こちらへ来てくれ。」
何だか勝手な奴過ぎてペースが乱される。妻とやらは間違いなく奴の加勢だろう。
厄介だな。
クェンティンは名前を呼びマントを広げる。すると中から突如
二人の女が現れた。
「二人とも、紹介したい者がいる。キリュウ・ハルトとその女だ。」
「誰がハルトさんの女ですか!!まだ違います!!」
え?まだ?
「純真そうでとても可愛いですわ。クェンティン様、あの娘は私に下さいな?」
「良かろう。だが、殺すな。娘は娶ると決めたのだ。」
「勿論殺しはしませんわ。可愛がるだけですから。」
ほんとに好き勝手言ってるな。少しイライラしてきた。
「クェンティン様、私はそのハルトとかいう男をペットにしてよろしくて?足の指を舐めさせて、あの醜い顔面を踏み付けながらワインを嗜むの……あぁ!想像しただけで火照ってきたわ!!」
「男は好きにして構わん。だが手強いから侮るな。我も参加する。」
「ヴァンパイアは一夫多妻か?」
「一夫多妻か。中々面白い事を言う。我は長い眠りから目覚めたばかりでな。妻は三人しか今はいない。」
くっ。三人もいて少ないみたいに言いやがって。やるなクェンティン!!
「クェンティン様。この程度の醜男など私一人で十分ですわ!クェンティン様は私の事をずっと見ていらして!!」
「……ふむ。良かろう。」
「クェンティン様~!!はぁ…もう我慢出来ないわ。早くグチャグチャにしてやりたくて、体が疼いて疼いて壊れてしまいそうですわ!!」
「うむ。楽しむがよい。だが、しばし待て。余興があるのでな。」
クェンティンが再度マントを広げると、黒い影が地面へと伸びて降下していく。
「王都は滅ぼせとの事だ。下級魔族達ではあるが充分事足りるであろう。」
影が地に降りるとぶわっと広がっていく。
すると黒く染まった地面から大量の悪魔みたいな姿をした魔族達が生まれ出てきた。
「ちっ。アイナ!王都へ奴等を行かせるな。ここは二人を呼んで俺達でどうにかする!」
「……私がやります。指名された私がそいつを倒します!!!!」
アイナの目を見ると本気なのがすぐに分かった。
「分かった。」
んー。アイナが残る場合どう配置するか。
恐らく邪神の欠片を手にしているクェンティンに神力は不可欠だろう。
となるとシロの破壊力と縛りの無い神力はかなり頼りになるが……クェンティン達はかなり戦い慣れしているように見える。
そうするとシロの単調な攻撃だと相性が悪いかもしれないな。
『ルカ、こっちで応援を頼む。シロは下に魔族共が現れたからガンガン蹴散らして王都に一歩も踏み込ませるなと伝えてくれ。』
『かしこまりました。直ちに向かいます。………シロちゃんもアイアイサー、任せてご主人様-!と言っています。』
そのままシロの発言を伝えるなんて真面目だな。ルカが言うとシュールな感じがするぞ。
ルカと念話をしてるとは知らず、クェンティン達は俺が一瞬だがボケッとしてるように見えたのだろう。
オルタネイトと呼ばれていた女がキレだした。
「もうこれ以上我慢出来ない!!!クェンティン様、醜男をいたぶる許可を一刻も早く下さい!!!」
「うむ。行くが良い。」
「ありがとうございます!!!醜男さん……ぐちゃぐちゃのべちょべちょのぐっちょぐちょにしてあげグゲッ!!!!!!?」
「申し訳ありません。まさかこのような場所に此程の醜女が存在しているとは気付きませんでした。ハルト様、お待たせしました。」
ルカがヤバい……血管浮き出てる。こりゃ本気で怒ってるな。
オルタネイトはルカの蹴りが顔面に直撃し、遠くまで吹き飛んでいった。
「あぁ、早かったね。」
「ハルト様、あの醜女は私がこの世から消し去りますのでご安心下さい。では行って参ります。」
「う、うん。じゃあ、気を付けてね。……ということで俺はお前か。クエンティンだったな?」
ルカは俺の返事を聞きもせずにオルタネイトを追って飛び去っていった。怒りに我を失っているようだが今回は鎮める必要も無さそうだからいいか。
「我が名はクェンティンだ。気高き名を間違えるな。それにしても貴様は良き娘ばかり連れているな。あの娘も我が娶ることにしたぞ。」
「それは絶対に許さん。」
言葉だけだとしても許せん。呪いかけるぞ。
それにしてもボスと1対1…大分戦いやすくはなったか。
「じゃあ私はその女ですかー。本当はドラキュラ城さんが良かったですけど、ハルトさんから奪うわけにいかないから仕方ないですね。」
「私は可愛いあなたが本命だから、不満どころかハルト・キリュウに感謝したいくらいよ?」
「……あんたレズ?」
「ふふっ。どうかしら?」
まさか王都に着いて早々こんな展開が待っていたとは思いも寄らなかったな。
「ところでクェンティン。お約束なんだが質問いいか?」
「構わぬぞ。」
「お前のボスは誰だ?」
「ボスなどはいない。しいて言うなら我がボスだな。」
「じゃあ何故王都襲撃の命令を受けたんだ?」
「我を呼び覚まし強力な力を渡してきた。そして利害が一致したからであるな。我は強き者を求めている。王都に来ればハルト・キリュウという強者と戦えると聞いたのだ。そしてこの世を統べようとするものを倒し、我がこの世の王となるのだ。」
「なるほどな。それは困ったもんだ。」
善悪のつかない戦闘狂はこれだから困る。
しかし参ったな。こいつマジで強そうだ。




