8-1 王都急襲
突如飛空艇が揺れ動くと、ベッドが斜めに傾き三人とも俺の寝ている壁際に転がってきた。
柔らかい何かが体中に当たっているが、それどころでは無い。
「うわわわっ!何?!墜ちてるの?!」
「揺れてるー!!」
「ハルト様、大丈夫ですか?」
一体何が起きた?攻撃を受けたのか?
「また揺れるかも知れないから注意してくれ。それと念の為、全員戦闘準備だ。先に操舵室へ行く。」
パジャマ姿の三人を部屋に残し、一人急いで操舵室へ向かう。
そして操舵室のドアを開けて最初に目に映ったのは、王都全体を包み込む炎の紅色だった。
「何だよこれ……まさかあいつらか!?」
あまりにも突然の衝撃的な光景に呆気に取られていると、すぐに三人が操舵室に駆け込んできた。
「ハルト様……これは。」
「分からないが、邪神の欠片に関わる奴が攻め込んで来ている可能性がある。」
「ご主人様!すごく燃えてるー!!!あそこどこー?」
シロが何気なく暢気な質問も投げ掛ける。
「王都が……みんなが!!!!王都のみんなが!!!!!!行かなくちゃ……早く行かなくちゃ!!!」
「取り乱すなアイナ!守れるものも護れなくなるぞ!!!よく見てみろ!!!」
一見王都が燃えているようにも見えるが、王都をドーム状に包む結界が見える。
「結界?……そういえば緊急時に結界を発動する魔道具が王都を囲うように埋め込まれてると聞いたことがありました!良かった!!!これで間に合うかも!!!」
「……安心するのは早いかもしれないぞ。あまり余裕は無さそうだ。」
燃え盛っていた炎が時間の経過により消えていく。すると見えてきた結界には無数のヒビが入っていた。
「そんな……。」
「ハルルシアは自動操縦に切り替える。甲板へ降りるぞ。」
操舵室の窓を開け放ち順に飛び降りていく。
「ほのぼのし過ぎて渡し忘れていたが、シロにこれを渡しておく。」
「んー?アイナと同じ石-?きれいー!!!」
「そうだ。これには俺のいるところへ導くようにしてある。もし離れ離れになったらこいつの行く先へ向かえ。」
「あいあい!!」
「アイナは持ったな?」
「はい!!」
「ルカはサーチと念話で頼む。」
「はい。」
その時、王都の上空付近からとてつもなく強大な魔力を感知した。
「戦闘態勢!かなりの魔力を感知した!!!」
魔力が生まれた先を見ると、何かが王都のすぐ傍の上空にいるのが見えた。
「あいつか!!塔の右上だ!!」
「確認致しました。先行して宜しいですか?」
俺達の判断を待たずして、上空に佇む影は魔法を発動させた。
「ハルトさん!!!!!!」
「ルカとシロは念話で合図するまで待機だ!アイナ!魔法を迎え撃つ!結界の手前まで俺を連れて今すぐ転移だ!!!!!」
「はい!!」
既に魔法は放たれた。巨大なマグマの塊のような魔法は、落ちれば間違いなく結界を突き破り王城を壊すだろう。
未だに対応している冒険者も見えない。いたところで防げる攻撃とは思えないが。
アイナは直ぐさま俺の手を取り転移を発動させた。
「で、デカすぎじゃないですか!?」
「結界を張る。アイナは次の手が来たときの為に準備してろ!!」
転移してすぐに飛べないアイナを背負い結界の準備を始める。
熱い。
まるで太陽が落ちてきているような迫力と熱波だ。
「だめだ。あの太陽の魔力からして王都を覆うような結界じゃ破られるかもしれない。」
「じゃあ、どうするんですか?!」
「攻撃魔法だと被害が出るかもしれないからな……シールドでいくしかないか。」
魔力をどんどん練り、迫り来る太陽を超える大きさのシールドを発動させた。
発動直後にシールドと太陽はぶつかり合い、爆音を轟かせた。
大気が震えているのを肌で感じながら踏ん張るが、想像よりも遙かに威力があったようで押されていく。
「ぐっ……空中じゃこれ以上踏ん張れないか。」
「ハルトさん……お願い。」
「……思いついた。任せとけ……マジック・クリエイト。」
これは間違いなく強者だ。
だが、アイナにあんな偉そうな事を述べたんだ。今までのようにテンパってなんていられない。
「アイナの魔法パクらせてもらうぞ。ブラック・ホール。」
シールドの先に異空間へ通じる大穴を出現させる。すると端からどんどんと太陽が吸い込まれていく。
「アイナ、相手は今自由に動ける。俺の手が塞がってる間は特に警戒しといてくれ。」
「はい!」
圧力も大分無くなり、何とか王都を覆う結界の手前で俺達は止まっていた。
シールドを全面に押し出し留まらせて、今のうちにアイナに短時間だが空を飛べるように魔法をかける。
「アイナ、空中戦が出来るように魔法をかけたから背中から降りてみろ。」
「はい!」
いつもならウダウダ言うところだが、俺を信じてすぐに背中から降りた。
「すぐに慣れろよ。」
「はい!」
空中で体を捻り、アイナは剣の柄を握り集中を高めていく。
すると奴が転移ですぐ後ろに現れたのが分かった。
「ハァァァッ!!!!!」
「くっ…!!」
そこにいたのは吸血鬼のような姿をした男だった。
黒いマントの中は黒いスーツのような服。さらに黒の革靴と全身黒ずくめだった。
髪だけは銀髪で顔は優男な感じのイケメンだ。
アイナの剣技により胸から右腕まで切り裂かれ、腕に限っては肩口から切り離されていた。
しかし、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべただけですぐに真顔に戻っていた。
気になるのは腕から血が一滴も垂れていない事だな。
ブラック・ホールが太陽のような魔法を全て吸い終わったところで、銀髪の男は怪我も気にせず語り出した。
「ふむ。聞いていた通り珍妙な魔法の使い手だ。貴様がハルト・キリュウで間違いないな?」
「そういうお前は邪神の欠片絡みか?」
「如何にも。我が名はクェンティン・セルビア。華麗なるヴァンパイアである。」
吸血鬼でもドラキュラでもなくヴァンパイアだったか。そんな種族までいたんだな。
「ハルトさん!ヴァンパイアは魔族の最上位種の一つです!!」
「確かに魔族っぽいし貴族っぽい感じはあるな。」
「でも遥か昔に滅んでいる種族の筈です!もし本当にヴァンパイアだとしたら戦闘能力は極めて高いと思われます!気を付けて下さい!!」
「ほぅ。人族のわりに良く学んでいるようだ。先ほどの一撃といい女の方も見込みがありそうだな。どうだ、我の元へ来ぬか?」
「誰があんたなんかと!!」
「ふむ。ならばハルト・キリュウと共に塵と化す事になるがいいのだな?」
クェンティン・セルビアと名乗るヴァンパイアは傲慢タイプのようだ。
こいつとはわかり合えそうにないな。




