2-4 熱男
俺は洞窟の前で傭兵達を待つ間に、あたかも野営をしてるかのように焚き火を用意し、肉を焼く。
すると、匂いや煙を見つけて傭兵達が姿を現した。
「小僧。此処で何してる。」
「何って、肉を焼いてるとこですけど。」
か
「こんなところでか?」
「そうですけど、何か問題でもありましたか?」
「ここいらに盗賊が潜伏しているんだが、知ってるか?」
やはり狙いはラドゥカ達だった。もう少し詳しく聞けるかな。
「その前に、貴方たちは冒険者の方ですか?ギルドの依頼で盗賊を探してるんですか?」
「いやっ、俺たちはとある貴族様お抱えの傭兵団だ。雇い主の馬鹿息子が冒険者の真似事してたら、盗賊達に身包み剥がされたんだとよ。みっともなくて公表出来ねぇから、冒険者ギルドじゃなくて俺達に声がかかった。誰にも言うなよ。それがどうかしたか?」
なるほどね。運悪く貴族の坊ちゃんを冒険者と間違えたか。それにしても簡単に教えてくれるなんて、よっぽど貴族様とやらは信頼されてないな。
「いえ、俺は冒険者になるために田舎から出て来たんですが、ギルドに役に立てるなら先だって盗賊退治に参加しようかと思ったんですけどね。」
「やめておけ。登録前に盗賊を引っ捕らえてもポイントにはなんねぇ。小遣い稼ぎには危険だしな。ここら辺は危ねぇから、とっとと出発した方がいいぞ。」
「ご忠告ありがとうございます。」
俺は焚き火の火を消し、そそくさと移動した。そして、すぐに隠蔽のスキルを使い戻る。
傭兵達は軽く周囲を捜索していたが、やがて何も無いと思ったか帰って行った。
うまくいった。傭兵達も悪い奴じゃなさそうだったな。出来れば殺し合うなんてしないで欲しい連中だ。
とりあえず洞窟の入り口にかけた魔法をとく。するとすぐにラドゥカが俺の元へと歩いてきた。
「説明しろ。」
やべっ。ちょっと怒ってるっぽいな。やはり強引すぎたか、仕方なかったんだけどなぁ。
「分かりました。」
俺は話せる事は話すと前置きして、ラドゥカへ説明する。まずは魔法で洞窟まで押し込んで、とある方法で外から見えないようにした。そして、貴族の坊ちゃんを冒険者と勘違いして身包み剥いでしまったこと、ギルドには伝わってないなど全て伝えた。
「そんな事を説明しろって言ったんじゃねぇ!!どうして、一人で勝手に無茶しやがった!!」
胸ぐらを掴まれ叱られる。熱い男だ。
「あんたがそんな男だからだ。そして、ここの人達を見たら見捨てられない。」
「男らしい喋り方もできんじゃねーか。むしろ、そっちが本当のお前か。」
ついつい熱男のせいで熱が出ちまった。
「ラドゥカさん。ここの人達の笑顔は素敵ですね。」
「まぁな。みんな家族みてぇなもんだ。」
「だったら、もう盗賊なんて止めましょう。皆を守りたいなら盗賊なんか止めて、普通に皆暮らせるように村から再構していけばいいじゃないですか。」
「……やめられるもんならな。だが、そんな簡単な話じゃねぇんだよ。」
格好良かったり、ダサかったり。忙しい男だ。
「いつまでも捻くれて、前を向けなくて、家族だとか守りたいとかいってんじゃねぇ!!確かに大切な娘さんや奥さんは戻ってこない。けどな、今お前には新しい家族が沢山いんだろ!みんな普通に暮らせなくても、お前に文句なんて言わないだろ?そんなに信頼してくれてる大切な人達をお前が導いてやらないで、誰が導いてやるんだ!誰が守るんだ!!いい加減死んだ娘さんや奥さんを安心させてやれよ!」
やべっ、熱男病完全感染しちまった。何これハズい。ていうか、つい殴りそうになっちゃった。寸止めしたけどね。
「……。」
あれ?寸止めしたはずなのに、ラドゥカが倒れてる。やっちまった。
「くっくっく……ガハハハ!言ってくれるじゃねぇか!やっぱり俺の目に狂いは無かった!おめぇ最高だ!」
「そうですか。(生きててくれて)ありがとうございます。」
「すまねぇな、いつまでもウジウジと。分かってはいたんだがな。どうしても踏ん切りがつかなかった。お前のパンチで目が覚めた。……もう一度やりなおしてみるか。」
寸止めだけどな。それにしてもこのやりとりは、恥ずかしくてたまらんな。都合のいい結果かも知れないけど、冒険者の人達には決闘に負けたと思って貰おう。
「右腕にはなれないけど、俺も手伝います。」
「すまねぇな。」
俺とラドゥカは握手を交わし、早速打合せをしようかと思ったが、ラドゥカが皆と話をしたいというので、後でする事にした。
ラドゥカは根城にいたみんなを集め、盗賊を止めて村を新たに作り暮らしていくことを宣言した。
すると、皆口をそろえて賛同した。
元あった町のところは、辺境とはいえ町のあった場所なので使うわけにはいかなそうなので、心当たりはあるか聞いてみると、
「あ?そんなの此処に決まってんだろ?」
と言われてしまった。まぁ子供や妊婦もいるから、あまり遠出は出来ないしね。
そして、その夜は新たな門出にドンチャン騒ぎをした。
翌朝になると、俺は早速仕事を始める。
マジッククリエイトを使い、家を作る魔法を創造する。1回目は魔力を結構使うけど、2回目からはサクサクいける。
どんどんマジッククリエイトの土魔法で家を建てていき、庭を作り芝生の用な草を生やしていく。
「おいおい!お前どうなってんだこりゃ!」
ラドゥカがなんか騒いでるが、忙しいので無視して作業を続ける。あんまり建てすぎても寂しい村になってしまうので、家の数は今居る所帯数+3世帯くらいにしといた。後の人達は自分で頑張ってもらおう。
森側は特に頑丈な柵を用意し、敷地を柵で区切っていく。これは大部広めに取っておいた。
これまた土魔法を使い土を耕して、畑も作った。インベントリ残っていた鉄を使って、鍬等も用意し、ついでに武器も作っておいた。
最後に、森の傍なので何があるかわからないので、便利アイテム無属性魔石を使って、マジッククリエイトを使う。魔石には結界魔法を閉じ込めて、使い捨て結界を用意した。
「ラドゥカさん、緊急時には村の奥の洞窟にみんなで避難して、これを洞窟の入り口で砕いてください。神獣でも無い限り破れないはずですので。3個しかないんで大事に使って下さい。」
「はぁ。お前は一体何もんなんだ。こんな短時間で村を作っちまうし、魔道具まで作っちまうなんて。……まぁ、何でもいいか。お前はお前だしな。」
ガハハハと笑って勝手に自己完結してくれたので良かった。
「そう言えば、ラドゥカさんの家は建てていません。それだけはみんなで建てて下さい。」
「まぁな、全部お前にやらせたんじゃ格好つかねぇからな。後は任せてくれ。」
そうして、ここにハルト村という村が生まれた。
は?何で俺の名前何だよ。そう聞くと…。
「え?なにがだ?」
と、さも当たり前のように言われてしまった。
そして、最後の夜も盛大に祝い、別れの朝が来た。
「頑張って村長やって、皆と元気でやってくださいね。」
「あぁ。お前には本当に感謝している。いつでも顔出してくれ。存分にもてなすぞ。むしろこのままここに住んで欲しいところだが……冒険者になるんだろ?」
「はい。」
「お前ならきっと上手くやれる。いやっ、世界一の冒険者にだってなれるさ。お前が来るたびに驚くような村にしとくぜ。頑張ってこい。」
皆に見送られながら、俺はこれから始まる村を出発した。




