7-11 敗北のガンチュー
前に見たときよりも魔力を練るスピードが早く、そして濃厚に感じる。
やっぱりアイナもダンジョンで成長してたんだな。訓練もしていたし。
アイナの鞘からは光が漏れ始め、今にも爆発しそうに震えだしていた。
「じゃあ、行くぞ。」
アイナは目を瞑り、返事する事も無く神経を研ぎ澄ましている。
俺も準備が整ったのでアイナに向けて歩き出す。
近付けば近付く程に感じる力強さ。確かにこれは無防備に突っ込むにしては危険すぎる技だな。
近付けば斬ると言われてるような魔力だ。
あと一歩でアイナのテリトリーとなる。俺は止まること無くそのまま一歩を踏み出す。
「ハアアァァーッ!!!!!」
剣が抜かれると共に鞘の中で爆発が起こる。剣が纏う光は鞘から漏れていたものとは桁違いの光量を放っていた。
「…………。」
ガキンッと甲高い音が響くとアイナの剣は止まった。俺の結界に阻まれたのだ。
「流石だな。でもまだまだだ。」
「卑怯ですよ。……その結界硬すぎます。」
俺はアイナの溢れる魔力を見てから、その技に効果的な結界をマジック・クリエイトで創った。
確かに卑怯だな。
「今のは特別な結界だ。ルカでもシロでも同じ事をすれば破れないんじゃないかな。だから落ち込むなよ?」
「落ち込みますよ。全力だったのに。」
「これから先そんな常識外れな事をしてくる奴らが相手になるかも知れないんだ。王都を守らないといけないのに落ち込んでなんていられないだろ?それに今の結界程では無いが、テイミング状態のアイナに強く張った結界を破られたんだ。アイナは知らないだろうけどな。」
「そういえば前にもそんなことを言ってましたね。」
「あぁ。確かその時結界を破った技は闇不知とかいうレーザー光線みたいな魔法だったな。その後のウルスラッシュは危ないから避けさせてもらったが。」
「闇不知ですか。光魔法の最上位の攻撃魔法です。本では読んだことがありますが、実際に使った事なんて無いんですけどね。でも、最上位でもハルトさんの結界を容易く破るなんて有り得ないですよ。」
「テイミングで能力の底上げなんて出来んのかね。でも、なんだか高威力による破壊というより、結界が無効化されたような感じがしたんだよなー。」
「そもそも人族をテイミングって時点で異常ですからね。魔物の場合はテイミング能力の高さと相性で能力の底上げは可能みたいですけど、意識を無くし未習得の技を使わせるなどは聞いたこと無いです。」
なるほど。やっぱり想像通りの設定なんだな。
「俺が鑑定使えるのは知ってるよな?」
「はぁ。前に状態異常を確認してたのは見ましたけど。」
「普段は敵以外に鑑定かけるのはプライバシー保護の観点から控えてるんだよ。見たとしても必要な時に状態異常だけ調べたりするくらいだ。紳士だろ?」
「覗きですからね。犯罪行為ですから。」
「うるさい。そこでだ……覗いていいか?」
「へ、変態ッ!!!」
「いちいち大袈裟な奴だな。アイナは勉強家だから知らないうちに大量に能力を得ている可能性があると思ったからだよ。」
「強者でもそんな簡単にスキルとかは増えないもんですけどね。固有スキルなんかは特にそうです。常識ですよ?」
「例外はある。アイナは異世界人だしな。常識に当てはまらなくても何も驚きはないだろ。ということでお邪魔しまーす。」
「ちょっ!待って下さいよ!まだ心の準備が……!」
アイナは両手を全面に翳して恥ずかしそうにしているが、問答無用に土足でズカズカと覗かせてもらおう。
「ふむふむ。…………アイナは変態だな。」
「へ、変態!?」
「嘘だ。」
「グルルルルッ……。」
アイナは今にも飛び掛かってきそうな目で睨んでいる。いざとなったら避けるけど。
とりあえずスキルを上から見ていくが特筆すべきものは見当たらない。
しいて言うなら料理6だ。なんで殆ど俺やルカにやらせてる食べる専門が俺よりレベル高いんだよ。
剣術レベル9は凄いな。槍術6、盾術6……あとは細かいのがまぁまぁのレベルであるけど、やはり勇者にしては器用貧乏感が否めない。
乗馬や戦術、生活魔法などかなりの量だ。アイナ先輩……頑張ってきたんっすね。
「うーん…。」
「やっぱり全然駄目です?」
いかん。気付いたら唸ってしまっていた。
しかし、固有スキルへ移動すると色々と気になるものがあった。
「アイナ、固有スキルに気になるもんがあるぞ。」
「えっ!?めちゃめちゃ気になる!!どんなスキルなんですか?!」
「無間断というスキルがある。」
「無間断?なんですかそれ。」
「恐らくだけど、これが結界を破ったスキルだろう。試してみるか。」
円形のシールドを全面に展開させ、それを少し離れた所へ用意した。
「結構魔力を込めたけど、試しにあれを斬ってみてくれ。結界破壊のスキルだとしたらそんなに強い技はいらないと思うんだが。」
「うーん。分かりました。」
アイナは歩いてシールドの前へと行くと抜刀術で斬り付けた。すると、ガキンッという音が響きアイナの剣はシールドに防がれていた。
「……ダメでした。何度か試してみても良いですか?」
「あぁ、好きなだけ試していいよ。」
しかし、それから何度試してもシールドが壊れることは無かった。
何でだろうと考えていると、あることに気付いた。
「アイナ、ストップ。」
「え?どうかしました?」
「飛空挺壊れる。」
「あっ……。」
俺がアイナに声をかけ指差した先には無数の切り傷が付いていた。
だけかと思ったら甲板の床板が細切れにされた。
シールドの向こう側が斬れるのか?
「アイナ、どうやったんだ?」
「いやっ、どうもこうも普通にシールドが硬そうだし、透明で見にくいから向こう側まで斬ってやる-!ってイメージでやってただけですけど。」
なるほどな。もしかしたら狙った場所を意識して斬れば、その間をすっ飛ばして斬れるのかもな。
「アイナ、今度は結界張るからこの結界の中の木を斬ってくれ。」
「結界の中?はぁ、じゃあやってみます。自信ないですけど。」
俺は結界を張り、緑魔法で1メートル程の木を生やす。
「結界は攻撃しないで良いから、この木だけを意識してやってみてくれ。」
「はい!いきます!!」
アイナは半径5メートル程の結界の外から、中央の木を目がけて剣を振り下ろした。
すると、木が真っ二つになったのだった。
「で、出来た!!やったぁ!!!!」
「おぉ。結界は見事に無傷だ。任意の場所から攻撃出来る技みたいだな。…………つーか、相当えげつない技だぞそれ。」
「た、たしかに……。」
「初見殺しも半端じゃないけど、理屈が分かっても対応しようが無いしな。余程の強者でもない限り防げないだろう。」
「これでハルトさんにも勝てますね?」
「俺は知っちゃってるから対応出来るけど、一発位くらうかもな。」
「ぬぅ。まだまだ勝てないか。当たり前ですけど。」
ちょっとふざけたのにアイナは何故かヘラヘラして怒らなかった。
強いスキルが発見出来て嬉しいのかな。




