7-6 ルカシリア砲
「波動エンジン内、エネルギー充填120パーセント!フライホイール始動!点火!!!!」
「波動エンジンも無ければフライホイールもないけどな。しいて言うなら魔導エンジンか?」
「ハルルシア発進!!!!!」
「アイナ、それはハルト様の台詞です。」
「アイナ艦長~!!上昇角40度!全艦異常無しでありますー!!!」
「シロちゃん、それもハルト様の台詞ですよ?」
「いや、それは俺の台詞じゃないよね。」
朝食を食べた俺達は大分遅れてしまったが、今度こそ本当に出発しようとしていた。
アイナは早くから舵の前を陣取り、その脇にはシロを携えて戯れている。
シロの台詞はアドリブなの?教え込まれたの?
アドリブだとちょっと怖いぞ。
「そろそろ出発したいから遊びはそこまでにして席を変わってくれ。」
俺が近付いて行くが舵からアイナは離れる様子は無かった。
「シロちゃん……ルカシリア砲であのコロネを撃て。」
「コロネを…でありますか?」
「命令が聞こえんのかぁ!復唱はどうしたぁ!!!!」
「は、はい!ルカシリア砲でコロネを撃ちます!!」
「……二人とも余りふざけてるとルカに怒られるぞ?」
「ハルト様、既にアイナへの罰は考えてありますのでご安心下さいね。」
「ひぃっ!」
「アイナのせいー!!!シロはおやつで買収されたのー!!!」
「ちょ!シロちゃんそれを言っちゃあお終ぇよ!!」
すると俺の横をルカがツカツカと歩いていきアイナの首根っこをつかんで舵から引き離した。
「うぅ……Good-bye私の愛するロマン……。」
「アイナの舵ではありません。ハルト様の舵です。」
その後ルカに怒られたアイナは燃え尽きたように真っ白になり静かになった。
「落ち着いたら運転させてやるから。だからアイナ、元気だせ。」
「えっ!いいの?!やたーーーー!!!!ハルトさん超ラブリン~!!!夢の飛空挺だぜぇ!!!」
「ハルト様は本当にお優しいです。アイナ、良かったですね。」
「ねーねーシロはだめー?下手くそ-?」
「もちろんシロもいいぞ。」
「アイナみたいにちっちゃくてもいいのー?」
シロが突然よく分からない事を言い出した。アイナって身長そんなに小さい方でもないと思うけどな。
「だぁーーーーーッ!!!!!!シロちゃん!!!!小っちゃくないし、言わないって約束したでしょ!!!!」
シロの謎発言に続き、アイナまで大慌てで訳分からない事を叫びだした。
「アイナ、深呼吸して少し落ち着きなさい。ヒーヒーフーヒーヒーフーですよ?」
何それ。こっちの世界の深呼吸ヒーヒーフーなの?
「ぷっぷす…ぶふっ…。」
ヒーヒーフーと深呼吸をするルカを見てアイナがぷっぷすと吹き出し始めた。
さてはルカを嵌めたな?
おのれアイナめ……純真無垢で素直なルカに訳分からん計略を企ておって。
ルカに本当のことを言おうかと思ったが、アイナの命に関わりそうなのでやめておいてやろう。
ルカの天然な姿も可愛いし。
「何でも良いけどそろそろ出発するから静かにしてくれ。俺だって初フライトで緊張してるんだからな。」
「はーい!!ハルトさん!人類の存亡をかけて、この一戦に期待してます!!!頑張って!!!」
しつこい奴だな。……仕方ないから1回だけ付き合うか。
「はいはい。じゃ~波動エンジン点火~。」
俺が舵に魔力を込めると、僅かに機械の起動するような音が聞こえた。
なんで?
「おぉ!揺れてる……ルカの胸も揺れてる!!いよいよですな!!!」
「ルカちゃんワクワクするね-!!!」
「はい、胸がドキドキしてきました。」
確かにワクワクドキドキだ。
色んな意味で。
「おっ、浮いてきたな。」
本当は瞬時に飛び立つ事も出来るが、初めてなので俺の心の安全装置が働いてゆっくりと飛び立つことにしていた。
「ほんとに浮いてる……ヤバいですね。墜ちないですよね?」
「失敬な。墜ちるわけないだろ。」
「ハルル~シアは~墜ちない~だぁって~ご主人様が~造った飛空挺~だ~も~ん~。」
シロよ、なんだその可愛い声で歌う何の捻りも無い歌詞の歌は。
「名曲過ぎるわぁ……。私達の飛空挺のテーマソングに決定ね!!」
「アイナはやっぱり分かってるな-!偉いぞー!夕食でシロのマトマを分けてあげようー。」
「ははぁ!!有り難き幸せ!!!」
アイナはシロへの評価が甘過ぎる。
マトマってあの中玉トマトみたいな野菜か。シロのよく残すやつね。二人はよく分からない関係性だな。
「ほら、二人とも見て下さい。野営地がもうあんなに小さくなってますよ。氷で出来た大地が日の光でキラキラと輝いていて綺麗ですね。」
「わぁー!!ほんとだー!!はやーい!」
「ほんと綺麗……宝石が散りばめられてるみたい!!」
「余り目立ちたくないし、慣れてきたからもっと高度を上げるぞー。」
「外で景色みたいなー。気持ち良さそう-。」
「別に出てもいいよ。甲板に出るぶんには簡単な風除けの結界があるし。だから飛空挺が動いてても好きなところへ行って問題ないけど結界の外には出ないように気を付けてくれ。吹き飛ばされるからな。特にシロだぞー。結界を越える程高くジャンプし過ぎないようにな。」
「アイアイサー!!アイナいくよー!!!」
「よーし、じゃあ甲板まで競争~!!!」
俺が許可を出すとシロとアイナは甲板へとかけて行ってしまった。
「あの二人はいつも元気だな。」
「ふふっ、本当ですね。ムードメーカーが二人もいるなんて素敵なパーティーです。」
「そうだなー。……そういえばアイナは王都に戻った後はどうするんだろうね。やっぱり王都の勇者なんだし有事の際には出張るようだろうから王都に残るのかな。」
「アイナは真面目で心優しいですから、王都の皆の為に残る可能性もありますね。出来ればこのまま一緒にパーティーを続けられたらいいんですけど。」
「………そうだね。」
今は当たり前のように同じパーティーとして日々を共にしているが、アイナは自分で仮だと言っていたし。
アイナがいないパーティーになるなんて想像しただけで寂しくなるな。




