6-33 眠り姫
俺の言葉にゼバルは激昂し、それに対しルカまでキレてしまった。
「止めなさい、ゼバル。」
「ですが、リスキア様に対して失礼極まりない態度!とても許すことなど!」
「ゼバル。ハルトは私の代わりに強大な力を持つ者を相手にしてきました。そしてこれから先も手助けをしてくれる協力者です。」
「リスキア様、しかし!!」
「私の言うことが分からないのですか?私は止めなさいといいました。」
「……はい。出過ぎた真似を。」
ゼバルはリスキアに頭を下げススッと下がって扉へと戻って行ったが、去り際にキッと睨み付けていった。
「ハルト様、やはり消して参りますね。」
「だ、大丈夫だよ。気にしてないから。」
捨て睨みが許せなかったルカは恐ろしい事を口にする。
それにしても俺も悪いけどさ。リスキアも焦らしすぎだろ…。
「ルカちゃん、ゼバルがごめんなさい。ハルト、仲間を大切に想っているのですね。あの勇者ならまだ生きています。そろそろここへ到着すると思うのですが、試練の後から未だに意識が戻っていません。」
すると扉の中から先程とは違った美しい女性が現れた。
「リスキア様お待たせ致しました。人族の娘を連れて参りました。」
「ベリアナ、疲れてるところ無理言って悪かったですね。」
そしてベリアナと呼ばれる女が一度扉へと戻ると、アイナが抱き抱えられて戻ってきた。
「アイナ!!」
「この娘は魔力欠乏を起こしています。それだけで無く、戦いで足りない分を体力から捻出してしまったようです。かなり危険な状態でしたので治療はしましたが意識が戻りません。」
「リスキア様……意識は戻るのでしょうか。」
「分かりません。後遺症として意識欠落しているとなったら厳しいでしょう。何にせよ魔力が戻らない事には目を覚ましません。魔力が回復しない後遺症が出る事もよくあることなのでその可能性も否定出来ません。」
「そんな……。」
「アイナ……起きてよぉ。目を覚まさないとダメだよ-。」
アイナの意識が戻らない可能性があると聞き、ルカもシロも悲しみを堪えきれずにいた。
俺も付き合いは短いが、アイナを仲間だと認識している。
あの元気で優しいアイナが目を覚まさないなんて。
そんな事……受け入れてたまるか。
「マジック・クリエイト。」
俺が創造したのは魔力の譲渡。少し無理矢理な気はするが、やれることから幾らでもやってやる。
集中し俺の体内の魔力をアイナへと渡すイメージを創り上げていくと、魔法はすぐに発動した。
「ハルト様……お願い…します。」
「ご主人たまぁ!!!」
俺の体が光出すと光がアイナの元へとゆっくり向かいだした。
尾を引くように進み、アイナへと辿りついた光はアイナを包み込んだ。
祈る気持ちで魔力を押し出していく。すると魔力の最後の光が俺を離れてアイナへと渡った。
輝く魔力がアイナへと浸透していくと、やがて全ての魔力がアイナの体へと消えていった。
「頼む……起きてくれアイナ。」
しかしアイナの意識は戻る気配が全く無い。
「……ハルト様。」
「ご主人様……だめなの?」
俺はすぐ念の為に鑑定で状態異常を確認した。
だが状態異常には何の異常も見られなかった。
「どういう事なんだ。他に何かあるのか……?」
俺の言葉に皆が息を呑む。
他の可能性を考え、どんな魔法ならアイナを救えるのかを考え続ける。
俺が目を瞑り集中して思考を巡らせ黙っていると、皆も喋ること無く長い沈黙の時間が訪れる。
その時、僅かに聞こえた。
「すぴーすぴー。」
寝息だ。
アイナの寝息が聞こえる。
状態異常が消えたのに起きないのは、ただ単に寝てるだけだった。
「寝てる……だけのように見えますね。」
「あぁ、状態異常は無い。ただ寝てるだけだな。」
「疲れてるのかなー。起こした方がいーい?」
「いやっ、良い。アイナも頑張ったから少し寝かせてあげよう。」
とりあえずは良かった。何だか展開がアイナらしいっちゃらしいが。
「良かったでしゅね。」
あっ。久々にリスキアが噛んだ。気が抜けたか?
「あぁ、何とかな。一時はどうなることかと思ったが。」
「ほ、本来ならその娘が起きてからにしたいところなのですが、私も暇ではありません。なのでここで執り行います。」
「ん?何をだ?」
「神力を得る為の儀式です。」
「あれ、アイナも突破してたのか?」
「はい。命懸けの厳しい試練でしたが見事乗り越えました。それにその娘は強く美しい心の持ち主です。まだまだ伸びしろも有り、今後ハルトの手助けもしてくれることでしょう。ですから神力を与えても良いと判断しました。」
すごいな。ルカだけじゃなくアイナまでも突破したのか。
「そうか。じゃリスキア頼んだ。」
「はい、では始めます。創造の女神リスキアの名の下に、神の試練を突破したアイナ・ハアリに神力を授ける。」
神力を授けるリスキアの姿は、普段のほんわかした雰囲気のリスキアやアリス時のやかましいリスキアからは考えられない程の神々しさだった。
やっぱりドジッ娘でも創造神なんだな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「そういえば、ダンジョンにも邪神の欠片を持った奴が現れたぞ。」
「そのようですね。戦いが始まってからですが、その気配は感じていました。」
「まだ邪神の欠片を盗んだ奴の特定は出来ていないのか?」
「そうですね…少しずつは進展がありますがもう少し時間がかかりそうです。それについては追って報告します。とりあえずはまだ好きに動いてくれていて構いませんが、ハルトは巻き込まれ体質のようなので自然と邪神の欠片を持つ者が現れる場所へと行ってしまいそうですね。」
リスキアめ。巻き込まれ体質とか余計な事を言ってくれるな。そんな気がしてきてしまうじゃないか。
「分かった。とりあえずはアイナが王都に行くって行ってたから着いていくかな。」
「その娘にはハルトとルカちゃんから説明をお願いします。神力の条件はルカちゃん同様です。神力は通常よりも魔力が必要となるので気を付けて下さいね。」
「はい。リスキア様。」
「ウルフィナスの子も頑張りましたね。」
「うん!シロ頑張ったよー!」
「それでは私達は戻ります。皆さんの幸運を祈ってます。」
「あぁ。またな。」
そういってリスキア達は扉へと戻っていった。
あの扉から神界へ行けるのかな。どこでも扉?
暫くアイナが目覚めるのを待っていると、アイナが寝言を喋った。
「むにゃむにゃ。ハルトさん…ありがと。」
一体どんな夢見てるんだか。
それから少しの間、三人でクスクスと笑いながらアイナの目覚めを待った。




