6-31 濃い憂色
「ルカちゃん!!!」
扉が開くとそこには天女様…じゃなくてルカがいた。
扉の向こう側から光が溢れていたので、後光のように見える。ルカはほんとに美しいの一言に限るな。
「ルカ、ご苦労さま。」
「ありがとうございます。ハルト様、シロちゃん。お待たせしました。」
ルカはいつも通りの落ち着いた優しい笑顔で答えてくれた。これは上手くいったってことか?
格好付けて余裕ぶってるけど、ぶっちゃけドキドキし過ぎて心労がきつい。
「ルカちゃん怪我ないー?」
「はい。怪我はありません。けど魔力が殆ど無くなってしまいました。」
ルカのような強者でさえ魔力を使い切る程に最後の試練は大変だったようだ。
詳しく試練の内容を聞いてみたいところだけど、疲れて戻ってきてすぐに聞くのもな。
でも結果だけは流石に聞かずにはいられない。
「試練はどうだった?」
「かなり苦戦しましたが、何とかリスキア様より神力を頂くことが出来ました。」
くぅ~。
よかった。本当によかった。
見事目標を達成してきたんだな。
「おめでとうルカ。」
「ありがとうございます。ハルト様のおかげです。」
「そんなことない。全てルカの努力が実った結果だよ。」
「ルカちゃん頑張ってるもんねー!!シロももっともっと頑張らないとなー。」
「そうだな。後残りはアイナか。上手くやってくれてるといいんだが。」
「やはり、アイナはまだ戻っていなかったのですね。アイナならきっと大丈夫だと思います。普段は緩い感じがしますが、芯はしっかりしてるので信じて待つだけでよろしいと思います。」
「そうだね!アイナ中々やるからねー!!シロの妹分だからー!ルカちゃんはお姉さん-!!ご主人様はご主人様-!!!」
確かにアイナは妹分って感じがするし、ルカは完全に姉御だな。
ご主人様ってなんなんだろう。
アイナも無事に戻ってきてくれるといいんだが。
まだまだ心労は止まないな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エレベーターの液晶が2階、3階へと変わっていく。
二人きりの狭い空間がこれ程まで恐怖に感じたことは無かった。
短時間の筈なのに異常に長く感じる。
そして、エレベーターが3階へと到着した合図の音を鳴らしドアが開いた。
「着いたわよ。誰にも必要とされないこの世の塵でしかないあんたが親孝行する時が来たの!さぁ私を喜ばしてちょうだい!!!」
髪が強く引っ張られ、ブチブチと千切れる音がする。
「いやっ…行きたくない!!!!」
私の叫びも空しく、お母さんは問答無用で歩いていく。
するとコツンコツンと音を鳴らして石ころが私を追い掛けて戻ってきた。
石ころは私に追い付くと、胸元に飛び込んできた。そして何故だか私の体に当たったときに甲高い音がした。
ただの動くだけの石ころなのに何故だか追い掛けてきてくれただけで、折れそうな気持ちが支えられている気がした。
ハルトさんのくれた綺麗な石ころ。
ただお互いの居場所を示し、離れれば戻ってくるだけの石ころ。
それだけなのに……それだけなのにとても心強い。
そうなんだ。
私は支えられているんだ。
弱くて臆病な私は支えられていたんだ。
お母さんは誰も必要としない塵でしか無いと何度も言う。だけど、ハルトさんが私の為にあの綺麗な石をくれた。
ルカにシロちゃん。王都の皆や、冒険者仲間。私には私の居場所があるんだ。
本当に誰も必要としないくても…私が必要としているんだ。
私が守りたいと想う人達が待ってるんだ。
こんな処で死んでたまるか!!!!!
「お母さん……いや、お前はお母さんなんかじゃない。……もう怖くないよ。だって……私気付いたの。」
「何を言ってるの?元から馬鹿な頭がとうとういかれたのかしら?そんなだからあんたは塵クズ以下なのよ。」
「何を言われてももう響かない。石ころちゃんが教えてくれたの。私に飛び込んで来たときにね、病衣しか着ていない私の胸で…存在しないはずの慈愛のネックレスに当たった音がしたの。」
「ふん、くだらない。いいからとっとと行くわよ!あんたが漸く必要とされる場所にね!!!」
「私は行かないッ!!そしてこの幻術も私にはもう効かないわ!!!!魔物だか何だか知らないけど舐めないでほしいわ!!……シス・ルーンの紋章よ、我が身を覆う闇の幻を祓い希望の光で真実を示せ!!!!」
未だ掴むことの出来ないネックレスを掴み私は地球に存在しないはずの魔力を流し込み祈りを捧げた。
すると病衣に包まれた胸元から光が生まれ、辺りを照らし出した。
「グゥゥ……その目障りな光を止めろぉおぉぉぉーッ!!!!!!!」
お母さんの姿をした何かが必死の形相で叫ぶが、光は更に照度を上げていき、最後に一際激しく光ると辺りの景色は一変した。
「やっぱり幻術だったのね。まさか幻術がこれ程の魔法だとは思わなかったわね。流石は希少な魔法を使うSランクなだけあるわ。」
「グゥゥ。…殺すゥ!!!」
周囲は洞窟の大空間のようになり、お母さんだった者は本当の姿を現した。
それはシロちゃんに幻術をかけたリロイ・フェアリーフェイクに似て非なる者で、その亜種となるリロイ・ナイトメアだった。
姿にそれ程大差は無いが唯一大きな違いは色違いであり、能力は同じ幻術でも全く違う。
フェアリーフェイクは見たくない幻を見せ混乱状態に陥れるだけであるが、ナイトメアはその幻術の中まで入ってきて直接死をもたらす。
ナイトメアの方が幻術抜きでの戦闘も上。
幻術を破った際に相当な魔力をつかってしまった私で勝てるのだろうか。
だが。
「……私はお前なんかに殺されはしない。こんなんでもハープルムの勇者なんだから!気持ちだけは……絶対に負けないッ!!!!」
限界は近い。
そんなに多くの手数は出せないだろう。
「グゥゥアアァァィアーーー!!!!!!」
ナイトメアも私の叫びに雄叫びを上げ構える。
「…………ハルトさんはいいな。魔力がいっぱいあって。」
こんなギリギリの状態にも関わらず、私はハルトさんを羨ましがっていた。
でも……そんな余計な考えのおかげでリラックスすることが出来た。
「ふぅ……。じゃあSランクのリロイ・ナイトメア単独討伐と行きますか-。」
私は王都の歴代の勇者へと受け継がれていく蒼き鎧を纏い、同じく受け継がれる勇者の剣を構えて走りだした。