0-1 梅干しっぽい
「ふわぁ~、勝った勝った!」
久しぶりのパチンコでこれまでに無い大勝ちをし、しかも大好きな新世紀な感じのアニメ台での爆勝ちでホクホクルンルンだ。
「こんだけお金が増えると助かるなぁ。また当分パチンコはやめて部屋に引き籠もろう!」
高校卒業後、進学も就職もせずにネトゲーばかり(たまにギャンブル)で部屋に引き籠もり、お金が必要なときは日払いの登録制のバイト。高校を卒業してからは死んだ両親の残したお金には手を付けずなんとかやっている。
高3の1学期に両親は死んだ。今思い出しても胸が締め付けられるような気持ちになるときがある。
子供の頃、体の弱かった自分を大切に育ててくれた両親。なんとか高校は卒業したものの、両親が死んでから何となく気力が出ずに就職もしなかった。
しかしゲームの世界にいると悲しさを忘れて、まるで自分が主人公となり新たな人生を送っているような安堵感に包まれていた。
しかも何故かゲームの中だとコミュニケーション障害も治ってしまうのだ。
出来るだけ難しく考えないように過ごしてきた。
両親のせいにして逃げているだけだ。悲劇の主人公になったつもりか。
周りから罵られれば罵られる程に現実を見たくなくなっていった。
17歳にもなって親の死が受けいられなかった。マザコンでもファザコンでも無かったのだが、心にぽっかりと空いてしまった風穴がいつまでも修復出来ずにヒューヒューと音を立て続けている。
やがて出来るだけ外に出なくなっていき、日雇いのバイトの時も出来るだけ他人と関わらないようになっていった。
「へローワーク……か。」
駅へと向かう道を歩いていると職安が見えてきた。まともに働きもせず、その日暮らしをしている自分には見たくない存在。
このままじゃダメだと分かっているのに、社会の扉があまりにも重くて開けないのだ。自分には開けないと決めつけて試してもいないが。
いつもなら俯いて出来るだけ視認しないように遠回りしていくのだが、何故か今日は職安の前を通る道を選んでしまった。
ふと両親のことを考えていたせいなのだろうか……普段なら絶対に有り得ない思考をした。これが俺の人生の大きな分岐点になったのだろう。
「と、登録…いやっ説明だけでも聞いてみようかな。」
しかし、小さく呟いただけで緊張し歩き出せない。
ずっと心の奥底で考えていた。そろそろ死んだ両親を安心させてあげたい。いつまでもくよくよしてても何も変わらないのだ。
でもそれとは裏腹にそんなことは分かっている、分かっているが動き出せないんだという情けない感情が立ちはだかってきた。
何故か今の俺が行動するには持ち合わせの無い勇気が…心臓がはち切れんばかりの気力が必要なんだ。
「ちくしょう。嫌だけど……頑張りたいけど……やっぱり嫌だ。」
棒のように固まり、鉛の様に重たくなった足。それでも何とか深呼吸をして、拳を強く握り締めて勇気を振り絞る。
目を瞑り深く息を吐きながら、漸く小さくて大きな一歩が踏み出せた。だがそのとき……。
ゴリッ。
「ん?なんだ?」
足をあげると、そこには梅干しのような種があった。しかし、野球ボール程もあるそれは梅干しと呼ぶには大きすぎた。
誰かが食べた果物の種じゃないだろうな……。なんとなく不潔そうな気がして蹴っ飛ばそうかと思ったのだが、気付けば種を拾い上げてしまっていた。
何故かとても気になってしまったのだ。
「それにしてもデカいな……。何の種なんだろ。」
少し暖かいような感じがする。湿っぽさは無いな。食いたてじゃないんだろうけど……っていうかこのサイズの種だと食べる部分は相当デカいだろうから食べ歩くわけないか。
そんなたわいも無いことを考えていると、突然種が勝手にひび割れ始め、その隙間から淡いひかりを放った。
「うわっ!!!」
一瞬の出来事だったのだが、その光が俺の体へ吸い込まれてくように見えた。
そして強烈な脱力感に襲われると、そのまま目の前が真っ暗になっていった。