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別れ

「今、なんて……」


「私と……別れてください」


 正直幻聴であって欲しかったと思っていたが、今度ははっきりと聞こえた。


「別れるって……なんで」


 突然言い渡された言葉を飲み込めずにいる俺に、しおんは再度口を開く。


「お願いです……もう、私のことは忘れてください……」


 ゆっくりと冷たい口調で確かにそう言った。


「一体どうして……!」


 思わず語気が強くなる。しかし、彼女は涙を浮かべながら──


「ダメなんです……もう、祐二ゆうじくんとは一緒に居られない……!」


 彼女の叫ぶ顔。今まで見たことのないその表情を目の当たりにし、俺はつい叫んでしまう。


「だから、なんでそうなるんだよ! 何がいけなかったんだ!」


「お願いです……お願いですから……!」


「俺はそんなの嫌だ! 別れる理由が無い!」


「祐二くんには無くても、私にはあるんです!」


 そう言うとしおんは逃げるように走り出してしまった。


「なんで……だよ……」


 一人残された俺は、ただその背中を見送ることしかできなかった。



-----------------------------------



 いきなり突き付けられた現実に、放心しながら部室に戻った俺は、自分の席に腰掛ける。

 しおんの鞄はそこには無く、彼女がもう帰ったことは明白だった。


「もう、帰ったんだな……」


 一人ポツリと呟く。


 これは夢か?


 頬をつねってみるも、無情な痛みが現実であることを教えてくれる。


 つまり俺はフラれたんだ。でも何故?


 分からない。

 理由を模索してみる。


 あまりにもしつこかったから? それとも飽きられたから?


「自分で分かってりゃ、苦労しないってのに……」


 やはり、理由が思いつかなかった。

 あの日、遊園地でのしおんとの思い出を振り返るも、あの時の彼女の言った言葉。


「これから先も……一緒って言ったじゃないか……」


 突然突き付けられた現実を受け入れることができなくて、見つからない答えを必死に探す。

 いくら考えても答えに辿り着けない。

 それもそうだ、俺は彼女から理由を聞かされていのだ。


「……帰ろう」


 俺は立ち上がると鞄を取り、部室を後にした。



-----------------------------------



 翌日、しおんは学園に来なかった

 由美ゆみも、今度は風邪を引いたらしい、しばらく休むと連絡があった。

 しかしそんな事はどうでもよかった。

 俺は唯一の心の支えにもなっていた存在が突然居なくなったことによる喪失感で、今日何の授業を受けたか、何を食べたかさえ思い出せない程疲弊していた。


「おい、祐二顔色悪いぞ、大丈夫か?」


 翔太しょうたの声が聞こえてきた。

 ゆっくりとその声の主に向くも、何もしゃべる気になれなかった。


「ほんと大丈夫かよ、真っ青だぞ、保健室行けよ」


「そうする……」


「俺が連れてこうか?」


「いや、ありがとう、一人で行けるから」


 そう言って俺は一人、教室を後にした。



 保健室のベッドで横になり、ゆっくりとまぶたを閉じる。


「(なんで、こうなったんだろうな……)」


 昨日に比べたらまだ冷静に考える事ができた。

 その頭で昨日の出来事を振り返る。

 あの時のしおん、泣いてた。きっと言い出すのが嫌だったんだと思う。


「(でも何故? 何故嫌なのに別れを告げた?)」


 あの夜、恐らくしおんも何かを見たのだろう、彼女の態度が変わったのはそこからだ。それが原因としか思えない。

 しかし、彼女はそれを語ろうとはしなかった。触れて欲しくないという顔を見せた。


「(一体何を見たんだ? それは何だったんだ?)」


 それはきっと──


「(俺に知られたくなかった……?)」


 俺に知られたくない何かがそこにはあった?

 でもそれが何故別れる事に繋がるんだ?


「(分からない……分からないよ……)」


 急に胸の内から何かがこみ上げてくる。

 それは苦くて──

 酸っぱくて──

 重い──

 それが俺の頭の中を満たし、弾けんばかりに溢れ、思考を鈍らせる。


「(しおん……)」


 初めて会った日の事──

 部活の日々──

 合宿キャンプ──

 そして、夏祭りの夜──

 それから──

 思い出すまいとしていた、彼女との楽しかった思い出が次々と頭に浮かんでしまう。


 誰も居ない保健室のベッドにうずくまり、俺は声にならない声を上げ静かに泣いた。


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