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第七話 並んでポン




「んで、どうする?何食う?」


「新しくできたラーメン屋なんてどう?」


「ほー、ラーメンか。いいね」


 という訳で千早と椎名はさっきの空気を払い除けるように晩御飯を何処かで食べることになった。二人はササッと親に夕食いらないと電話し始めた。


「あー、もしもしお母さん?」


『あ、椎名?あんた今何処いるの?』


「えっと、駅前の商店街。千早と一緒にこれから夕食食べて帰るね」


『あー、十村君?最近見てないけど、元気にしてるん?』


「うん、元気だよ。それで、千早とご飯食べて帰るから今日の晩ご飯はいいよ」


『また、十村君に遊びにおいでって言っておいてね。ただえさえ、仲の良い男の子は十村君ぐらいなんだから』


「そ、そんなことないですよ」


 少々ため息混じりに椎名は携帯を切ると同じく通話を終了した千早と一緒に歩きだした。


(ふむ、相変わらず気怠そうなオーラを身に纏っていて、大体のことにはやる気を見せない。だけど、顔も悪いという訳でもないし、勉強も中の上。運動神経も悪い訳じゃないから、基本スペックはいいんだろうなぁ。だけど、なーんで、彼女の一人や二人いないんだろーなぁ)


 椎名はそんなことを考えながら隣を歩く。


「ねぇ、千早って好きな子とかいるの?」


 そんなことをつい口を開いて聞いてしまった。普通の男性なら顔を赤らめながら否定でもするところなのだが、千早はそんなことはなかった。


「ああ、いるぞ」


 と、平然とした顔で言った。


「ああ、いるんだ・・・・・・・っているんだ!?」


 今までの千早の動向を見て色々とこいつは三次元に興味ないと思い込んでいた椎名にとってはかなり意外な返答だった。


「へ、へぇ・・・誰?」


 椎名がそう聞くと千早は自分の携帯を取り出してとある画面を見してきた。


「俺の嫁の姫仔ちゃんだ」


 彼の携帯画面に映っていたのはアニメの女の子だった。自慢げに見せる千早の顔は何か勝ち誇ったような表情を見せてきた。まるで、俺はお前よりも先に伴侶を見つけたぞと言わんばかりに。


(・・・イラァ)


「ふぅぅぅ・・・」


(落ち着けぇ私。千早に彼女がいないことなんて百の承知だし、ていうかこいつなんでアニメのキャラ見せてきてドヤ顔してんの?)


 椎名は千早を無視してサッサと歩いていってしまう。


「ちなみに趣味は死んだ青魚の目を集めることな」


(なんじゃそりゃぁぁぁぁ!!乙女がすることじゃねぇ!ていうか、気持ち悪っ!)


「そんでさぁ、この前の休日はデートに行った訳よ」


(いやいや、聞いてないし。そもそも興味がないから・・・だけど、このまま無視って訳にもいかないし、適当に合わせておくか)


「へー、楽しかったんだ」


「うん、すげー楽しかったわけよ、彼女の頭が」


(頭がっ!?えっ、頭が楽しいってどういうこと!髪型か?髪型のことを言っているのか?だ、だがゲームとは言えおもしろい髪型とかある訳がない。それとも思考回路が?思考回路がおかしいというのか?・・・さっぱり分からん)


「へ、へぇ・・・良かったね。何処行ったの?」


 椎名が質問すると千早は指パッチンをしながら「ナイス質問」と言った。


「いやぁ、結局最初はデパートで買い物したんだよなぁ、奮発して買ってあげちゃったよ」


(あーあ、買ってあげちゃったよこいつ。ゲームとか知らないけど、女ってのは一度でも男が奢っちゃうとつけあがっちゃうんだよなぁ)


「いやぁ・・・ほんとに彼女の喜ぶ顔を見せたかったよ。ほんと買って良かったよ・・・縮れ麺」


(デパートの買い物で縮れ麺ってなんだよぉぉぉぉ!!一人暮らしの買い物じゃないんだからぁ!)


「ねぇ、千早。そのゲーム何かとおかしくない?なんで趣味が死んだ青魚の目を集めることなの?なんで彼女の頭が楽しいの?どうしてデートで縮れ麺買っちゃうの?」


 椎名がそう言うと千早は苦笑しながら言う。


「えっ、買わないの?」


「ダメだこいつ、速くなんとかしないと」


 その千早とのやり取りに疲れたのか、椎名は片手で顔を覆いながらそんなことを言った。

 そんな二人はいつものような日常会話をしながら新しくできたラーメン屋に来ていた。少しばかり並んでいたのでその列に二人は一緒になって並ぶ。


「まぁ、気楽に待ってますか」


「そうだな。なぁ、なにかおもしろい話とかないの?」


「おもしろい話って、ちょっと急すぎやしませんかね?」


「コメディアンとして常時ネタ話の一つや二つは持ち合わせているものだろう。常識だぜ?」


「千早が私のことをコメディアンだと思っている時点でびっくりですわ」


 そう言いながら椎名はポケットから携帯を取り出してイジリ始めた。千早も少し喋り疲れたのか軽く背伸びをしながら自分も携帯を取り出してニュースサイトをチェックし始めた。


「・・・っと」


 千早が下を向くと靴の紐がほどけているのに気づき、身体を屈めて靴の紐を直す。すると、割と強い風が吹いてきた。風が小さなゴミを運んでくるので目を細める。

 が、その時千早は見てしまった。


「な・・・」


 強風によって前で並んでいる女性のスカートが捲れていくのを。そして、彼女のパンツをその瞳に刻んでしまった。

 そう、パンチラというものに千早は生まれて二度目に遭遇してしまった。


(む、紫だと・・・)


 直ぐに目の前の女性が片手でスカートを抑えようとして来た。


「キャッ・・・って、もしかして十村君?」


「え?なんで俺の名前を・・・って、生徒会長殿」


 そう、何を隠そうその女性とは栗色の長髪、全エロ魔人の天敵とも言える存在、藤野京凪であった。


(え・・・ってことはさっき俺が見た紫のパンツの持ち主は・・・)


「よし、取り敢えずその握り拳を収めてくれ」


「私のパンツ見た人に慈悲はありません。歯を食いしばってください」


 京凪は千早に見えるように握り拳を見せてくる。


「いやいや、今回ばかりはしょうがいないだろうが。俺だって好きで見た訳じゃない」


 千早の言うとおりである。前回はなしにて今回に焦点を当ててみると、本当に偶然に偶然が重なった結果だ。


「・・・まぁ、確かに校外で変な暴力行為を行う訳にもいきません・・・だけど」


「だけど?」


「見たんでしょ?私のパンツ?」


「ぐふっ・・・み、見たといえば見た。だけど、モロ見たって訳でもないし、正確にはチラだし。ラブコメアニメだったらそんなの一分に一回のペースであるようなもんじゃん?別にそんなことを理由にしようって訳でもないけど、こちらとしても「で?」すみませんでした」


「・・・ちゃんと謝れるなら私は何もしません」


「・・・では、何故前回あのような愚行を?」


「それは、あなた方が謝らずに逃げてしまったからでしょうが」


「あんたに前科がありすぎるんだろうが。まぁ、ちゃんと誠意を見せたら殴られないというのを先に教えてほしかったね」


「謝って罪から解放されるなら暴力はいらないわ」


「一体どうすりゃいいんだよ」


 と、ため息混じりに千早が息を吐く。すると、千早の視線と椎名の視線が合わさった。椎名は無表情でジーと千早の顔を見る。


「お、おい・・・どうした椎名?」


 千早がそう声をかけてみても椎名は無表情のままで固定されている。


「え?あれ?椎名さん?」


 むしろ恐怖すら感じるその状況に千早は焦りを感じ始めた。と、徐に椎名が口を開く。


「この変態・・・」


「えっ!?俺と生徒会長の話聞いてたよね!誤解じゃん!」


「正しくはHENTAIだった」


「発音の問題じゃねーよ!」


「歩くわいせつ罪?」


「歩くんだ。わいせつ罪って歩くもんなんだ。お兄さん初知りですわ」


「セクハラギルティ?」


「よし、黙ろうか椎名」


「まぁ、それは置いておいて・・・えっと、生徒会長さんですよね?」


 千早の変態問題を椎名は少しだけでも許したのか、一旦は脇道に置いて京凪を見ながらそう言った。

 それを言われて京凪は椎名を真っ直ぐ見て言った。


「ってことは、十村君の同級生で、同じ学校の生徒?」


「はい、如月椎名です」


「そう、如月さんですね。改めまして、藤野京凪です。学校の生徒に会うなんて世間は狭いですね」


 と、椎名と京凪は互の自己紹介を簡易に終わらせると仲良く談笑をし始めた。完璧に空気と化し始めた千早は欠伸をしながら携帯をイジる。


「如月さん、先輩だからって別に敬語とかいいんですけど」


「けど、一応先輩なんでそこんとこ何も言えないというか。それに、生徒会長さんも敬語じゃないですか?」


「うーん、私のこれは両親のせいかというか、なんというか」


「へぇ、そうなんですか。中々難しい話ですね」


 そんな風に二人はペラペラと話が進んでいく。そうこうしているうちに順番が来たらしく京凪は椎名と千早に手を振ってのれんの中に吸い込まれていった。


「生徒会長さん、いい人じゃん?」


 椎名は「ふふん」と笑いながら千早に話しかけた。

 

「お前は奴の恐ろしさを知らない」


 ガクガクと震える千早に「何やってんだか」と椎名はツッコンだ。





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