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第六話 偽りの本音




 GW初日、椎名は寝ぼけた頭をガシガシとかきながらリビングへと降りていく。時刻はお昼手前。いつもの休日と言って間違いはない。ただ、違うのは今日から五日間連続で学校が休みだということだ。

 課題もあるので椎名は今日のうちにサッサと終わらせて明日以降は予定通りに過ごすのが得策だろうと考えを改めると遅い朝食、いや昼食を胃の中に詰めると課題を鞄の中に入れて家を出た。


 陽気にポカポカと当てられながら街を歩く。

 GWだということもあり街を歩く人の数はうざいぐらい多い。


(人多いな・・・イライラする・・・って、ダメダメ。乙女がそんなことを考えたら!もっと、こう初々しい少女らしい挙動を・・・わかんねー!少女らしい挙動ってなんだーーー!!ええい、いつも通り)


 などと人の群れを前にしてそんなことを考える。一人で悩んでいる様は周りから見れば割といびつに見えてしまう。

 まぁ、椎名のリアクションがそれだけ激しいということでもある。


(それにしても、どこで勉強をしようかな。喫茶店でいいかな?)


 咄嗟に勉強しようとするところを見つけることが出来なかったので彼女は目に入った喫茶店に目標を定めた。

 一人なのでやや緊張しながら店の中に入る。


「いらっしゃいませー・・・って、椎名?」


「・・って、千早?」


 椎名の目の前には学校とは違い、髪は整えしっかりとした制服にいつもの1.5倍美化した千早の姿があった。


「お、おお・・・一応、ここが俺のバイト先だし。一人?」


「あ、うん。課題やりに」


「ん、じゃぁ奥のお席にどうぞ」


 千早は椎名を奥の席に座らせる。

 友人が働いているということで緊張から少し興奮し始めた椎名はそぅと千早の姿を見た。


「いらっしゃいませ、三名様でよろしいですか?はい、それではお好きなお席へどうぞ」


「ご注文はお決まりですか?紅茶セットとシフォンケーキですね」


「お待たせしました。こちらパンケーキのセットです」


 などとまさに見本のような接客対応に思わず椎名は感極まる。学校や遊ぶ時に見ているような気怠そうな表情とは違って割とシャキッとしている姿は椎名の目から見てもカッコイイと感じる。


(これが俗に言うギャップ萌えというやつなのか・・・恐ろしい)


「ほいよ、メロンソーダ」


 千早は椎名の席に彼女の飲み物をポンと置いた。


「あ、ありがと。それにしても、千早って学校とは違ってここじゃカッコイイね」


 男子としては女子に褒められるのはやぶさかではない。というのは千早も同じことで少し照れていた。


「ん、ありがと。お前も課題ちゃっちゃとやれよ。俺は昨日のうちに終わらせたから」


「うぇ!?終わっちゃったの?」


「今日からGWを楽しむためにな。まぁ、午前はバイトで午後からゲームって感じだけどな」


「ふーん、そっか。私ももう少ししたら好きな先生の新作発売日なんだよね」


「そりゃ良かった。また今度感想でも聞かせてくれよ」


「レポート五枚提出してあげる」


「はは、期待しとくよ。じゃっ、課題頑張れよ。俺は戻るし」


「りょーかいであります」


 ビシッと敬礼を決めた椎名を見た千早はゆっくりとその場から離れて接客に戻る。

 椎名は目の前に置かれたメロンソーダを一口飲むと、鞄から課題を取り出した。今日中に終わらせようと髪の毛を括ると気合を入れてシャーペンを手に取って課題のプリントを机に置いた。


 それから数刻経って現在は午後二時過ぎ。課題を終えた椎名は携帯を片手に目の前に広がっている光景を見つめていた。別に彼女自身としては見つめていたつもりなのだが他人から見たら睨んでいると誤解されそうな視線だった。


(別に彼氏がいないからって寂しい訳じゃないんだからね。友達だっていっぱいいるし、ある意味充実してるじゃん。ていうか、恋人の有無がリア充の条件だっつー頭空っぽの高校生はホント嫌いですわー)


 ボケーとしながら携帯を弄っているとエプロンを取り外した千早がケーキと紅茶を乗せたトレーを持って椎名の正面に座った。


「え、どうしたの?」


 その行動に疑問に思った椎名は質問をするが、千早は当然のごとく返す。


「バイトの時間終わってもお前がいたらから一緒に午後のティータイムでもどうかと」


「そう?なら、このケーキは半分私の」


 そう言って椎名は千早の皿にあるケーキをフォークでサクッと半分分断するとヒョイヒョイと口の中に放り込む。


「あっ・・・まぁ、いいけど」


「よっ、器のデカイ男はモテるよ」


「一意見として心に留めておこう」


 それから数十分ほど談笑すると千早の帰宅宣言にて椎名も帰宅することを選んだ。時刻は午後五時過ぎ。先ほどのケーキが丁度良い当分摂取になったためか、お互いに心踊っていた。


「うわぁ、高校生っぽいガキが多いな」


「ダメだこいつ、早くなんとかしないと。ていうか自分も学生のくせに」


 バイトとは違ったいつもの千早に戻った様子に椎名は苦笑しながら隣を歩く。


「まぁ、俺はただアホ面しながらキャッキャウフウフと上っ面だけで付き合い、今だけが楽しければそれでいいみたいなカップルが嫌いなだけだ。特にSNSとかで『俺の女』とか『俺が一生幸せにしてやる』とかほざいてる奴ほど反吐が出るものはない」


 その話を聞いて椎名は一瞬驚くが、改めて頭の中でその言葉をコネ繰り返してみると自分も同意してしまう部分があったため、「なるほど」と首を縦に振る。

 そんな自分に呆れを覚えつつもなんだかこのやり取りが楽しいなと感じながら椎名は苦笑した。


「まぁ、けどそれに成りたいの?」


 椎名にとっては常に疑問だった。

 千早は何かある事に世の中のリア充に対して嫌味を言っていたりする。椎名もそれは嫉妬から生まれるものだと思っていた。


「いや」


 そうではないと千早は答えた。

 椎名は一瞬驚くが黙って次の言葉を聞く。


「俺はさ、オタクだから・・・世間一般的な恋愛ってのは無理だと思う。まぁ、だから恋人っていう存在は全然分からん。何を言ったら喜んでくれるのか、何をしてあげられるのか」


 人が行き交う道の中、二人歩きながら千早は愚痴のように言った。だが、その表情は少しばかり晴れやかで、何かを見透かしたようなのだった。


「嫉妬するし、羨ましく思う。そういうことを言うのが、俺の立ち位置だろ?十分に満足してるよ」


 そう静かに言った。


 すると、椎名がいきなり立ち止まる。それに気づいた千早は振り向いた。どうしたと質問しようと千早は口を開くが、椎名の思いつめた表情に開いた口を再び閉じた。


「それは違うよ」


 千早を体を振り返って椎名を真っ直ぐに見た。


「違うって、何が?」


「なんか分かんないけど、それは違う気がする」


「・・・何それ」


 千早は椎名のそのよく分からない返答に少しばかり苦笑した。それで茶を濁すかのように。椎名もそれ以上は限界だったのか、千早のその濁しに乗っかって一緒に笑ってみせた。


 嘘か本音か、そうやって自分の本音から二人は逃げ続けていた。


「ほら、どっか飯でも食いに行こうぜ」


 湿っぽいことが嫌いな千早は笑いながら椎名にそう声をかけた。悲しい顔は彼らには似合わない。椎名もまた、笑いながら大きく頷いた。










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