第四話 抜き打ち
「明日からGWですかー」
明日をGWに迎えた今日、クラス内では明日から六日間の連休をどう過ごそうかという話で持ちきりになっていた。当然、椎名たちも何をしようかと考えているが、彼女には既に作戦が考えられていた。
(一日目、二日目をダラダラと過ごし、三日目は友人とショッピング。四日目はBL同人誌を漁りにでも行って、五日目は一日かけて同人誌を読破し、六日目は暇であろう千早と恋奈でも誘って食事にでも行くか。残りはダラダラでおk)
というGWのプログラムの大筋は組み立てられていた。別にいつ何を変更しても良いが、四日目には椎名の好きな同人誌先生の新刊の発売日でもあったため、四日目の予定だけは外すことが出来なかった。
「ふぅ、完璧。そう言えば千早はGWどう過ごすの?」
椎名がそう質問すると千早は読んでいた本を閉じて言った。
「ゲームしてバイトしてゲームしてバイトかな?」
「まぁ、いっつも通りか。どっか旅行行くのかと思ってたんだけど」
「そんな財力が俺にあると思うのか?」
千早のその自信満々な表情に椎名は「あちゃー」と言いながら顔を抑える。千早は「お前に言われたくないぜよ」と反論する。
「まぁまぁ、どっか遊ぼっかなと思ったんだけど。予定大丈夫?」
「まぁ、別にそんな時間ぐらいあるけどな。その日ぐらい空けておこうかと思うし。連絡をくれ」
「りょーかいであります」
そんな風にクラス全体としても明日から始まるGWのことに対して若干浮足になっている部分があった。
彼らは知らなかった。明日からGWだと言うのに朝一で行われた抜き打ちテストの存在に。抜き打ちテストなので誰も知らないのは当然のことであった。
そして、それは非情にも数学女教師、姫神明子の言葉によって伝えられた。
「皆、それじゃぁ抜き打ちテストしますよ」
「「「「「!!!」」」」」
それに第一に反応したのは椎名であった。彼女は即座に自分が置かれている状況を理解すると鞄から数学のノートを開いて前回までの授業分を読み返す。それを見た生徒たちもやっと自分たちがこれから何が起こるかやっと理解出来た。
ここまで約3.0秒。
「はい、皆さんダメですよ。もう、教科書ノートしまって。それじゃぁ、行いますね」
男子の憧れの存在、姫神明子はほんわりとしつつ言うことはしっかりと言う優しい係しっかりお姉さん教師というポジションをこの学校で確立していた。
天然系でもある先生なので男子にとっては目の保養でもある存在だった。
「はじめー」
ゆるい掛け声とともに抜き打ちテストが始まった。二十分もしてテストが終了すると、抜き打ちテストがあったので流石にその場の生徒は項垂れていた。
それはこの男、十村千早も例外ではなくやり切った感を出しながら机の上に項垂れる。
「はい、皆さん以上でテストは終わりです。出来た人、出来なかった人いると思いますが来年は皆さん受験生です。そろそろ自分の将来も少し意識してみてください」
そう言って明子は優しく微笑みながら教室を後にした。生徒たちはそれぞれ集まって先程の抜き打ちテストのことを喋り始める。
「ぬふふふ、普段の勉強が足りませぬぞ」
椎名は笑いながら項垂れる千早にそう言う。千早は流石にこのテストの出来で椎名に笑われることは仕方ないと感じたのか気怠そうに「うへーい」とだけ喋る。
「けどまぁ、受験ねぇ。椎名はどうすんの?」
「私?別にあんまり決めてはないんだけど、蒼乃大学ってあるじゃん?そこにしようかなと思ってる。実家からあんまり遠くないし」
「ふーん、そっか。決まってるんならいいや」
「何?どうしたの?ははーん、今回の抜き打ちテストの出来が悪かったから将来の不安?不安なんて考えても仕方なくない?辛くなったらいつでも聞くからさ」
その言葉に少しナイーブになっていた千早はホッとしたように安堵した。千早の成績は決して悪い訳ではない。アホではないが成績の上位に入れるほどのものではない。
「まぁ、そうだな。ただ、意識はしておくよ」
「うん、それがいいと思うよ」
そんなことを二人で話していると恋奈が半泣きになりながら椎名に抱きつく。
「うえーん、椎名ちゃん全然ダメだったよー」
「はいはい、恋奈は数学特に無理だから、頑張らないと」
壊滅的に数学が出来ない恋奈に椎名は数学を教えている。代わりに椎名は恋奈から英語などを教えてもらっている。この相互関係のおかげなのか二人の成績はそこそこ良いものであった。
そんな椎名と恋奈のやり取りを横目で見ながら千早はラノベを取り出した。
次回もよろしくお願いします。