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第三話 不毛な戦い




「はい、という訳で始まりました。十村千早の簡単クッキングー」


「いえーーい。裏切り女を見返す回でーす。それで先生、今日は一体何を作るんですか?」


 その日の放課後、椎名は恋奈を見返す為に自分の家に千早を連れてきて一緒に料理をしようということになった。何気に椎名の家に訪れるのは初めての千早はある意味挙動不審になりながらも料理を始める。


「えっと、今日は簡単に親子丼でも作ろうと思います」


「ほほー、親子丼ですか。私は好きですよー」


「はい、それでは材料の説明ですね。タレには醤油、みりん、砂糖、料理酒、水、材料は鶏モモ肉、玉ねぎ、人参、卵ですかね」


 既に分量分計られた材料を千早は全て紹介していく。それを見ながらメモしていく椎名。


「はい、ではまずみりんを入れ少しだけ煮詰めると、醤油、砂糖、料理酒、水を入れます。更に煮立ってくると玉ねぎと人参を入れます。それから鶏モモ肉を入れて全体的に火が通ったなと思ったら溶き卵を全体にかけます。ここで火がついていると半熟に出来ないのでこの時点で火は消しておきましょう。少しだけおいて卵が半熟になるとごはんの上に乗せ、最後に山椒をふりかけて完成」


「おおーーー、めっちゃ美味しそうですよ先生」


「本の通りに作っただけなんですけどね。まぁ、取り敢えず一口」


 千早は出来立ての親子丼を手に取り箸で適度な量を取るとパクリと口に入れた。


「うん、普通に旨い。胸肉使えばコスパ的にもいいし、一人暮らしの味方だな」


「実家暮らしのくせに」


「はいはい」


 椎名は千早の作った親子丼をペロリと食べると注がれてある麦茶を飲み干すと「ぷはぁ」と言いながら若干乱暴に机の上に置く。


(うわぁ、五分程度で全部食べちゃったよおい。ていうか、最後のオチとかおっさんかよ。うん、これは確かに嫁の貰い手がねーわ)


「はぁ、美味しかったぁ・・・」


「以上で今週の十村千早の簡単クッキングは終了。また観てねー」


「またね・・・って、ちげーー!私はご飯を食べたいんじゃない!あの女に復讐してやりたい!」


 千早が最後を締めくくったと思うと椎名は急に発狂した。その発言を千早は拾って椎名に返す。


「復讐って、そこまで言うことなのか?」


「あの女、一年間一緒に料理してきたけどずっと影で笑ってたってことでしょ!」


 何か愚痴るような口調で椎名は言う。


「そういうもんなのか?別に四ノ宮なんてアホっぽいただの女じゃねーの?」


「まぁ、確かに。いやまぁ、否定なんて絶対にしないけど。うん。ただ、このまま何も出来ないのも・・・せめて、せめてクッキーぐらい」


 椎名と恋奈の出会いは極々ありふれた普通の女子高生らしいもの・・・ではない。二人は同士と呼ばれるもので彼女ら二人は結びついている。

 趣味と言っても過言ではない。まぁ、はっきりと言えばBL趣味で二人は仲良くなった。


「哀れな・・・」


 うつ伏せになりながら泣きじゃくる椎名を見て千早は一言そう言った。優しさの欠片もない男である。


「千早・・・こうなったら何がなんでも完璧なクッキーを作る!」


「あ、はい。頑張れ。俺はそろそろネトゲのイベント予告時間が」


 そう言って帰ろうとした千早の肩を椎名は掴む。


「へぇ?一人で作らせるつもりなんだ?この後私が作ったクッキー食べる?」


「・・・・・それは俺に死ねと言っているのか?」


「どう捉えてもらっても結構」


 椎名は下手くそ=料理が不味い=死ぬ。


 彼に残された道はありはしなかった。







「恋奈、これ昨日作ったクッキーなんだけど食べて」


「え、ホントにー?」


 次の日、椎名は千早と夜中まで作ったクッキー綺麗にラッピングして今朝方、恋奈に渡した。笑顔の椎名と対照的に恋奈の表情は微妙に引きつっている。

 恋奈にはこのクッキーがなんのためにあるのか理解していた。


(この女、私に復讐する気だな!)


 昨日のことを根に持った椎名は恋奈にクソ不味いクッキーを食べさせようとした、そう考えた恋奈はなんとかしてこのクッキーを食べずにいられる方法を模索する。


「クッキー大丈夫?失敗しなかった?」(くそ、こんなところで死ねるか)


 さりげなく大丈夫かと椎名に恋奈は聞く。椎名は笑いながら言う。


「もー、恋奈ったら。昨日は千早に監督してもらったから大丈夫だよー」(はっ、中身はワサビと生姜を入れさせてもらったわ!)


「えー、そうなんだー。ねぇ、千早君それホントなの?椎名ちゃん大丈夫だった?」(おら、言え。この女がとんでもねぇもん入れたと言え)


 いきなり恋奈にそう問われた千早は一瞬ビクッとなりながらも読んでいた本を閉じて恋奈の顔を見る。

 昨日の椎名が作っている様子を考えるに真面目に作っていたようであった。千早の目からもとても椎名が何かを入れようとする雰囲気ではなかった。だからこそ、味は確認していないが千早は「問題ないと思う。普通だ普通」そう答えた。


 当事者のひとりである千早にそう言われて恋奈は少しだけ安心した。


(千早君は嘘ついているように見えないし・・・もしかして、本当に私に?)


 ずっと影で馬鹿にしていた自分を許してくれているように思った恋奈はクッキーが入った袋を開けて一つ手に取った。


「ごめんね、椎名ちゃん。馬鹿にしてて」


「いいよ、別に。私が料理下手くそだったのが悪いんだから。だから、私頑張ったんだよ?」


「そうみたいだね。ありがと、美味しくいただくね」


 そう言いながら恋奈は手に取ったクッキーを口に入れた。もぐもぐと数度咀嚼すると彼女の顔色が一気に変わる。


「き、貴様何を入れた・・・」


 口に手を当てながらうずくまる彼女の前にチューブのワサビと生姜を転がす。それを見て恋奈は絶望的な顔になる。そして、直ぐに千早の方を見る。


「いや、なんつーの。ホントに知らん」


「くははははははっ!千早が帰った後に私一人で作ったんだよ!」


 何故千早が知らないのかを椎名は暴露し、見事その場で高笑いする。その笑い方は

まさしく悪の幹部。誰が見ても椎名の方が十分に悪役を果たしていた。

 今ここに彼女の復讐は果たされたのだ。


「おっ、いいもん作ってるじゃん」


 そんな所に家庭科担当の教師、大島(おおしま)賢治(けんじ)という男が入ってきて、椎名の作ってきたクッキーに目をつけた。日頃から生徒と仲の良いこの男はなんの疑いもなくクッキーを手に取って口に入れる。

 椎名がそれに気づいて制止させるには遅かった。


 賢治は一つ食べた後に目を瞑り、一言。


「俺なら唐辛子を入れる」


 彼の決め顔と発言に対してはその場にいた全員が唖然とした。















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