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第二十話 聖なる夜のリア充へ告ぐ





 千早と連太郎の二人は十二月二十四日だというのに学校に来て勉強していた。それも、この間行った抜き打ちテストの点数が悪かったからである。他にも彼ら以外に抜き打ちテストで点数が悪かった生徒はペナルティとして学校に来ていた。

 そこには千早と連太郎の姿はあるのだが、椎名と恋奈がいないことに二人は不満を感じていた。


 教室に残って勉強している男子は昼を過ぎて集中力が途切れ始め、各々が駄弁り始める。それは連太郎も同じようで携帯をチェックし始め、千早へと話しかける。

 しかし、その千早の反応は随分と曖昧なもので連太郎としては不満が残るものであった。


「何か今日は集中してるな?」


「まぁな、あともうちょっとで終わりなんだ。邪魔するなよ」


「おっ、なにその反応?今日、デートとか?」


 その言葉に教室にいる男子全員の耳がピクリと動く。千早はそんなことにも気づかず、スラスラと課題を解いていく。


「え、まー、そうだな」


「え!?なにその反応!」


 バンと机を叩きながら連太郎はその場に立ち上がった。それにビクッと千早は驚く。視線を連太郎の方へと移すと、連太郎の後ろに教室にいた男子生徒が全員並んでいた。


「え、なにお前ら?」


 千早がそう聞くと連太郎が代表として千早に再度質問をした。


「よく聞け、これは非常に重要なことだ。十村千早、お前は如月千早と付き合っている」


「え、あ・・・はい」


「まぁ、これは周知の事実だとして、いいわ。前からお前たちが好き合ってるのは知っているし」


 後ろの男子はウンウンと頷いている。


「次だ。次の質問が重要だ。真実だけを述べろ。今日如月椎名とデートする。イエス、ノー」


 ギラリと睨むその全ての眼光にビビリながら千早はほぼ反射的に震えた声で言った。


「い・・・・・イエス・・・・・」


 その瞬間、千早は両手を拘束バンドで制限され、教室は法定のように改造される。千早は何もわからぬまま、その中央に立たされ、その場所のみが光で照らされる。


「え・・・なに?なんなの!?」


 バンッ!と正面の机に座っている男子生徒がハンマーで机を叩く。さながら裁判長のように。


「検察側」


 すると、右側に座っていた長身アフロの清彦が述べる。


「被告、十村千早は本日十二月二十四日、恋人である我がクラスの美少女、如月椎名とイチャイチャデート後に子作りすると言質が取れました」


「待て、子作りするなんて一言も言ってない!」


「よって、検察側としては死刑を求刑します」


「死刑!?」


 そうこうしていると反対席に座っている連太郎が手を上げて言った。


「異議あり!検察側は虚偽の報告をしています!」


「連太郎!そうだ!言ってやれ!」


 唯一味方してくれそうな連太郎が弁護人として弁明しようと発言した。千早はそれに希望を抱く。


「被告が発したのはイチャイチャデートをするということで、子作りまでとは言ってはいません」


「いや、だからイチャイチャとも言ってないから!イエスって言っただけだから!」


「よって、弁護側からは死刑が妥当かと」


「お前もかぃぃぃぃぃぃ!」


 一度は希望を持った連太郎にさえ裏切られた為、その場に嘆きを吐くのだがどうにもならない。

 クルリクルリと周囲を見渡すが、何処にも彼の味方は存在しなかった。


 裁判長ポジションの男子が正面から千早を見ると、咳払いしながら言った。


「被告、十村千早をリア充罪として有罪。よって・・・」


 そして、教室が木霊した。


「「「「「「ギルティィィィィィィ!!!!」」」」」」


 一斉に男子生徒が飛びかかってきた。

 本能でヤバさを感じ取った千早は反射的に後方へ飛び退ける。彼がさっきまでいた場所には完全に逝ってしまっている男子生徒たちがいた。


「馬鹿が!お前らに捕まるか!」


 そう言って千早は自身の課題プリントを机から攫うとダッシュで職員室へ向かう。


(こいつをなんとかすれば俺は自由の身だ。あばよ!野郎ども!)


 拘束バンドを付けたままで走りにくいが、中学校バスケ部であった千早はそこそこの運動神経で廊下を走り抜ける。


 だが、それに直ぐ追いついた影がある。


「おっと、悪いがお前の運命はここまでだ」


「お前は陸上部の野田!」


 颯爽とチハヤの隣に現れたのは陸上部のユニフォームを装備した男子生徒が見えた。


「そういうことだ。百メートル十二秒で走る俺には流石に勝てないぞ」


 千早の隣に走る野田に即座にリアクションを取る。


「女子に振られて五十戦中五十敗。付いたあだ名が連敗魔の野田!」


 千早の精神攻撃。野田に四百のダメージ。


「説明なんてしなくてもいいじゃないかぁぁぁぁぁぁ!」


 千早がそう説明すると野田は改めて現実を感じたのか反対方向へダッシュで戻り始めた。


(ふっ、野田君。君があだ名について精神的ダメージがあるのは知っているよ。ふふ、残念だったな)


 そうやって走っていると正面に剣道部員が竹刀を構えているのが見える。


「俺のクラスに剣道部は一人しかいない。パーマ以外に見た目の特徴がない山田!」


 おっと、山田がピンピンしている。千早の精神攻撃は効かないようだ。


「甘い、散々言われているおかげで今更何を言われてもなんともない!全国予選初戦惨敗の剣を受けるがいい!」


 そう振るう山田の竹刀。の割にはその竹刀の動きは鈍く、息切れをしている様子である。


「全然じゃねーか!つか遅!」


 無理矢理その竹刀を奪う。


「握力もねーのかよ!」


「クソッ、俺は防具を身に付けると重くて動けんのだ。生身なら、生身なら勝てるのに」


 地面に倒れ伏す山田。その倒れている山田を見ながら千早はポツリと言う。


「いや、じゃぁなんで防具身につけてんだよ」


「しまった!これは試合じゃなかった!」


「アホじゃないか」


 山田を一瞥して千早はその場からダッシュで廊下を駆け抜けていく。しかし、流石に疲労が溜まって来たのかそのスピードは遅くなり始め、廊下の角の階段に尻餅をつく。


「ふぅ・・・流石に疲れた」


 久しぶりに全力ダッシュをしたせいなのか千早の顔には疲労が見られる。


「くふふ、十村君飲み物だ」


「おう、サンキュー」


 隣から差し出されたペットボトルを受け取った千早はそのまま中に入った飲料水を飲む。


「って、調理部の井崎!」


 隣にいたのはボサっとした髪の毛にそばかすが印象的な井崎君であった。


「ふぬぬ、今飲んだのは特別に調合した即効性のある短時間で身体に麻痺が出る飲み物だ。これで、君は・・・あれ?」


 井崎の様子がおかしい。あまり目の焦点が合わず、体がブルブルと震え、身体が微妙に硬直し始めている。


「お前・・・まさか」


 千早は顳かみを抑えながら辺りを見渡すと、下の階に三本ほど彼が飲んだペットボトルと同じ柄のペットボトルが散乱していた。


「まさか、僕が休憩に飲んでいたものが麻痺入りのやつだったとは・・・ぐふ」


(今更だけどロクな奴がいねぇ)


 呆れ気味に千早はその場を後にする。

 しかし、直ぐに廊下に出ればバレてしまうので近くにあった空き教室に入った。











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