第二話 馬鹿な
無類のゲーム、アニメ好きのオタクで既に学校中に知れ渡っている十村千早という男は彼女を作りたいと思っているのにその努力をしない。ある意味矛盾点を持った男でもあった。
何をすればいいのか分からない。というのもあるが、千早にとって今のこの趣味を邪魔されたり理解されない限りは彼女は出来ないと確信していた。
というのも中学校時代に女の子に告白してフラレた訳なのだがその理由がオタクだからという理由だった。ならば、オタクを辞めればいいという話なのだが、千早にとって呼吸とも言える行為を否定することは最後の最後で彼は選択することが出来なかった。
(腹減った・・・)
「どしたの?そんな真剣な顔して?なんかやばい話?」
手を組んでひとり考え込んでいる千早に椎名が質問してきた。
「・・・椎名、ひとつだけ教えてやろう。人間、真剣な顔して悩んでいる時は大抵どうでもいいことを考えている」
「なるほど、理解した。おけ。あっ、そう言えば駅前に新しいカフェ出来たの知ってる?そこのパンケーキが美味しいらしいよ。今度行かない?」
「パンケーキね。家でホットケーキ作った方がいいだろう。外に出てまで家で食える物食いたくねーよ。クレープとケーキは別だが。そもそもそれ以前の問題としてお前にパンケーキを食べられるほどの軍資金があるのか?」
「あ・・・・」
千早のその言葉に頭の中ではパンケーキのことしか考えていなかった椎名の思考回路が一気に金のことになる。
そうこの女は常に資金不足にあった。四月の下旬ということもあり財布の中身は頼りなくコンビニのお菓子も買うことが出来ない状況下でもあった。
その反応が面白いのか千早は鼻で笑う。
「ふっ、これだから目先の欲望しか目にない奴は」
「うう、ごめんなさい・・・だけどなぁ、これ以上借金出来ないしなぁ」
「お前俺の二千円速く返せよ」
「分かっております。来月のお小遣い入ったら返します」
「ん、なるべく速くな。俺も来月にゲームを買いに行く予定があるんだから」
「ゲームねぇ、千早がゲーム好きなのは知ってるけど、そんなに面白いの?」
「まーおもしろけど。ジャッチメントハンターとか、駆動戦士ダンダムとか」
「んー、私はあんまり分かんないかぁ。そういうの。けど、男性キャラクターはいっぱい知ってるよ?」
などと椎名は自信満々に言ってくるが、千早はそれに少し呆れたように返した。
「ごはんが進むんだな」
「そっ、ごはんが進むから。あー、コンロ先生の新作も発売予定なんだったぁ」
「あからさまに金欠不足を呟いても貸さないからな」
「うう・・・」
椎名は常に金欠不足である。毎回発売されるBL同人誌、グッズ、限定商品などを購入しているとあっという間に財布の中身がなくなってしまう。それに合わせて友達付きあいだったりしていると親や千早に借金しているという訳になる。
そんな椎名を小馬鹿にしているこの男。千早もまた金に悩む高校生の一人だ。だが、彼は逆に上限を付けて椎名に金を貸している。つまり、金銭的余裕は椎名より千早の方がある訳だ。
「あー、楽してお金稼げる方法ないかなぁ」
「それには激しく同意する。肉体労働なんて俺がやることじゃない」
まるでバイトに何か嫌味があるのか千早は愚痴るように言う。
「そう言えば千早って色んなバイトやっているんだっけ?」
「色んなってほどでもないけどな。今は喫茶店を少々」
「へー、だから金欠じゃないんだ」
「いや、俺も金ない時だってある。例えば・・・そう、新しいゲームが二つ発売されてしまったり、オンラインゲームのオフ会に出なければいけなかったりなどな」
「ふーん、忙しいんだね。私もバイトしよっかなぁ・・・お小遣いだけでやれないこともあるしなぁ」
「まぁ、選んでやればいい。学業優先だがな」
「そうする」
そこで話は終わる。それ以上に話のネタがなくなってしまったので二人は何を話そうかと考え込む。
頭の片隅を探ってみるのだが結果的にこれといって何も話題が出なかった。なので、椎名は廊下から丁度戻ってきた恋奈に何か話題がないかと視線で絡む。
「おー、椎名ちゃん暇そうにしてるね。おかし食べる?」
常におやつを持ち歩いている恋奈はポケットからバキバキに砕けたクッキーを取り出した。
「・・・恋奈さぁ、私に恨みでもあるの?」
「え?どうしてそう思うの?」
「いや、こんなクッキー砕かれたもん見たら誰だってそう思うんだけど?」
「え?椎名ちゃんってクッキーって砕けたやつ好きじゃなかったっけ?」
恋奈は椎名のその発言に対して一体何がおかしいのかと頭の上に?を出す。椎名はその仕草に「あちゃー、この娘勘違いしちゃってるよ」と呟く。
「だって、椎名ちゃんが作ってくるクッキー、いっつも砕けてるから。そういうの好きなのかって。ちょっと変に感じるけど」
「ぐはぁぁぁっ!」
友人から変とか言われて椎名はその場に這いつくばる。という彼女にはこの一連の流れにおいて全て一致してしまった。
どうして恋奈がバキバキのクッキーが椎名が好む物だと思ったのか。
「お、おい椎名。大丈夫か?」
「ねぇ、千早君。どうして椎名ちゃんはこんなのなの?」
「俺の口から言ってもいいものなのか分からないが、一年の付き合いがあったのに未だお前が勘違いをしているからだ」
「勘違い?」
「・・・そうだな。よく二人は料理をするよな?その時に何か思わなかったか?」
「何かって・・・やたら隠し味を入れたがることかな?あと、なんか調理器具の扱い方が不器用?他にも包丁で物切るときは危ないし、さしすせそ知らないし、ていうか新しい料理する時に料理本開かないし、そもそも砂糖と塩の区別がついてないし、あとなんか「あー、四ノ宮。そこまでにしておいてやれ」ん?」
恋奈は椎名と料理をする時の奇行を事細やかに報告していた。すると、椎名は酷く泣いていた。
「えぐ・・・そんなに、そんなに言わないでよぉ。酷くない?え?酷くない?なんなの?私に恨みでもあるの?ばーか、ばーか、恋奈のあほー。幾ら自分が料理出来るからって」
「えっと、千早君。これは?」
「つまり椎名はクソ料理が出来ないってことだ。アニメやゲームじゃないんだが、ありえないぐらい料理が出来ない。唯一作れるのはカップ麺ぐらいじゃねーの」
実際に千早が見た訳ではないが、椎名と会話を交わしていると料理が出来ないという話題が生まれてきた。ていうか、何回も一緒に料理している恋奈がそれに何故気づいていないとなると、この恋奈という女も相当アホだとも言える。
「・・・・・・椎名ちゃん」
「うう、ごめん恋奈。実は私・・・料理出来ないんだ」
椎名のその悲しげな表情に恋奈は優しく微笑んだ。これも二人が出会ってから一年の月日を掛けた友情の証とも言えるだろう。
そして恋奈は優しく超絶笑顔MAXで椎名に言った。
「うん、知ってたww」
バッチリ草を付けて。
(この女・・・)
その仕草に椎名の怒りのボルテージが有頂天に達したのは予定通りであった。
まぁ、つまり恋奈としては隣で色々と料理を失敗していく椎名のその行動を指摘する訳でもなく、直そうとフォローするのではなく・・・ただただめんどくさかったから何も言わなかっただけであった。
訂正しよう。恋奈はアホではない。天然の腹黒女であった。
直後、椎名が千早に泣きついたのは言うまでもない。
こんな感じにギャグ中心でいきたいと思っているんですが、
途中から恋愛重視で話が進んでいきます