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第十八話 君を思う




 十村千早。




 という名前を授かってからなんの取り留めもない普通の男として過ごしていた。明るく元気な両親と口うるさい姉という家族に囲まれて生まれたせいなのか、人と関係を結ぶことはそんなに難しいものではなかったと思う。


 だけど、そんな人間関係が分からなくなってきたのは中学に入ってきた頃だろうか。


 ある一人の女の子を好きになってしまった。それが俺の初恋だったと思う。その頃から如月椎名という女と俺は仲良くなった。


 彼女とは関係のない一人の女の子を好きになった俺は訳も分からずアプローチしてみた。すると、なんとそれに対して彼女は好反応を示してきた。


 友人と相談したり、ネットや雑誌から仕入れた情報で勉強してデートに誘ってみた。その時二人で見た映画の名前を今でも覚えている。よく笑ってくれて、彼女は楽しくなるために俺は精一杯頑張った。

 それで半年が過ぎようとした時に俺は彼女に告白をした。


 結果は惨敗。


『ごめん、無理』


 その冷たく尖った言い方に今まで俺に向けてくれた笑顔は嘘だったと確信した。何故なのか理由は分からないけど、きっと碌でもない女だった。そんな風にしか思えなくなった。

 そんなこんなもあって極度に俺は他人の行動の意味に囚われるようになった。


 しっかり自分で判断をしよう。それで間違っていなかったのならそれでいい。仕方ない。


 そんな風に割り切って、誓って、戒めのように言い聞かせていたはずだった。自分だけが不幸だなんて思わない。俺のように女の子に振られている男だっている。

 それでも、次頑張ればいいや。みたいな、明るく元気なポジティブ野郎みたいに気分転換が出来る程ノリの良い世界にいる訳じゃない。


「千早君」


 そこまで考えて誰が自分の名前を読んだ。そこで、やっと自分が祭り会場から離れた市街地にいるのだと気づく。

 暗い世界の下、月明かりに照らされてこちらを見ているのは四ノ宮恋奈であった。


 腹黒女。変な洞察力に優れていて、よく俺たちのことを見ている。


「・・・・・・どした」


「どしたって・・・こっちに屋台はないよ」


「・・・ああ、そうだな。ごめん、やっぱ俺は戻れないわ」


「・・・千早君が椎名ちゃんのこと好きだったのは知ってる。だったら、このまま宮野君に好き勝手させていいの?多分、あのままじゃ・・・」


「だけど、俺がどうこうしたって、無理だろ」


 諦めたように俺は言った。

 自信があるようでない。人は俺のことをイケメンだとかなにかと言うが、自分ではそうは思わない。それだけ、自分に対して自信がない。だけど、良いとは言ってはくれている。

 だから分かんない。


「そんなこと言って・・・ホントは悔しいんでしょ?千早君いっつもそうじゃん?自分がダメだって言うことで失敗した時の保険をかける。だけど、心のどっかじゃうまくいくって思ってるんでしょ?」


 彼女の言葉が俺の心に突き刺さる。


 気づかされたことは多かった。知ってた・・・そんなことは分かっていた。いつだってそうだ。自分に自信なんてありはしない。

 毎度毎度嫌気がさす。


 正面切って、戦ったことはなんてない。


「そんなの・・・ズルいよ。ズルいって・・・逃げないでよ」


 俺の目に映ったのは今にも泣き出してしまいそうな四ノ宮の表情だった。それで、どれだけ自分がこいつに思われているのか分かる。


「バカの一つ覚えみたいに言って・・・逃げないってことはそう簡単なことじゃないんだよ!なんにもしなかったんだ・・・逃げてた人間が立ち向かえる訳ないだろ」


「だから・・・それが言い訳って言ってるの!そうだよ!なんにもしてない人間が誰かに好きになってもらおうなんて都合が良すぎる!」


 ズイっと彼女は前に出て言う。

 その言葉は剥き出しになった心を締め付ける。知っている。言葉にして初めて現実へとなったその意味は確かにそこにあった。

 好きな相手に好きになってもらおうと思う努力もしないで好きになってもらおうなんざ都合が良すぎた。 

 知っていたからこそ、現実になることが怖かった。


「・・・・・・」


「椎名ちゃんとは友達だったんでしょ?だったら、今までの付き合い方じゃ無理じゃん!そんなのただの友達みたいにしか思ってないって!分かった!?」


 俺は馬鹿だ。

 椎名のことはなんでも知っていると思っていた。俺が彼女のことを思っているように彼女も俺のことを好きなものだと思っていた。

 だけど、違った。そんなことは当たり前だったのに。

 友達の延長線上で好きになってしまったのと、相手が俺のことを好きなのは全然違う。


 近すぎたからこそ見えなくなった。


 それは俺だけじゃなくて、彼女もそうなのかと思った。だから、お互いに分かんなくなって見えてしまった俺だからこそこんなにももがいて、苦しんで。


「うん・・・四ノ宮の言う通りだ。悪い」


「別に謝られても。それに、それでもし私たちの空気が壊れたりしたらって思ってるなら余計なお世話だから」


「・・・・・・」


「恋愛に周りは関係ないでしょ?」


「・・・随分、雰囲気が違うな」


「媚びる相手には媚びる。利用出来ると思ったら大体なんでもする。それが、私」


「はは、やっぱりお前だわ」


 自分の痛いところを突かれて随分と戸惑ったし、怒りは上がってくる。それでも、そんな自分の弱さを初めて肯定してやれることで自分自身を許せるような。そんな気がした。

 自分を客観視することが出来た。

 それでも未来は見えない。


「・・・ありがとう、四ノ宮」


「ん・・・椎名ちゃん泣かしたら、許さないから」


「はいはい、そんなことぐらい分かってますよ。まぁ、なんだ・・・お前と友達で良かった」


「なに恥ずかしいこと言ってんの・・・うん、私も千早君と友達で良かった。速く行ってきて。きっと、待ってるから」


「ああ、分かった」


 俺は四ノ宮にそう言って背を向けると、来た道を先ほどの倍の速度で走り出した。


 一緒にこようとしなかった四ノ宮に声をかけようかと思って何度も振りかえようとしたが、何故だか振り返ってはいけない気がした。











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