第一話 腐女子
腐女子とオタクが恋する話です。
普通の恋愛?なのかどうかは分かりませんが、暇つぶしにどうぞ!
BLというジャンルを皆さんはご存知だろうか?
ボーイズラブという男性同士の恋愛を描いた純恋愛文学に属すると思われるものになる。世の男性からしてみればあまり好ましくないジャンルと思われがちだが、意外と女性の中にはBLを好む女性もいる。
特に好んで読んでいたり、購入していたりする女性のことを腐女子とも表現されている。
だが、そんな腐女子だからこそ受け入れられない人からすれば気分が悪いもののように映ってしまう。だからこそ、彼女たちは決してプライベートを他人に明かすことはなく、それでいて世間的な立場を確実に保っていた。
そして、そんな腐女子がここにも一人。名を如月椎名という女子高校生であった。
私立楓ケ丘高校に通う二年生である。明るく元気な性格にその綺麗な黒色の髪の毛はある程度と整った顔によく似合っており、学校を通して彼女は男女問わず人気が高い。
そんな彼女は自分自身の腐女子化をどうしようかと悩ましげに今朝も登校をするのであった。
「ふぁぁ・・ねっむ」
理想の恋愛とは何かと彼女はいつも考えてしまう。イケメンで爽やかで優しくて頭もよく運動も出来る男性と楽しい学校生活を送り、夕日の見える公園か屋上で告白されるというシチュレーションを考える。
だが、その一つ一つの過程において自分自身の腐女子というものが何処かで邪魔をしてしまうのではないかと考えてしまうのだ。自分の好きなことがコンプレックスになってしまうとは盲点であるが、BLを愛してしまっている以上はどうしようもないことであった。
「んー・・・」
だからこそ、彼女は今日もあーでもない、こーでもないと悩む訳であった。
「おお椎名、おはよう」
椎名の後ろから一人の男子生徒がやって来た。彼の名は十村千早。椎名とは中学から色々とアホなことをやって来た所謂悪友仲間というやつでもちろん椎名の趣味のことは知っている。それでも、彼が彼女の隣に居続けることは彼自身がBLに対する理解があったからだ。
「あー、千早。ん、おはよう。眠そうだね?大丈夫?」
「ゲームのし過ぎだな」
「自覚あるなら直した方がいいと思うけど?」
「できてたらしてるね」
「あっそ」
そんな世間話をしながら二人はいつものように登校する。これが椎名と千早の二人にとってはごく普通の日常生活であった。
「あっ、宮野君だ」
唐突に椎名は前を歩いている男子生徒の背中を見て言った。千早も視線を前に飛ばすとそこにはスラッとした高い身長に爽やかな青年がいた。宮野慎吾という男子生徒でその番人受けする顔と誰にでも優しい生活は周囲の人間の好感度を上げやすい。
「いやぁ、朝から宮野君拝めるなんていいことありますわー」
「はいはい、かっこいいかっこいい。かっこいいけど燃えろ」
「はいでたー、モテない男子の嫉妬」
「嫉妬の何が悪い。彼女いない歴=年齢の俺にとってはイケメンな男は全員敵だ。割と本気で滅びればいいと思っている」
そう、この男。十村千早はまったく男女交際の経験がなかった。女子とは喋れるし、男子の友達は多い、ごく一般的な男子高校生な千早なのであるが、どうにもこうにも彼女が出来たことはなかった。
というもの彼はオタクであった。家に帰れば録画深夜アニメをチェックし、ニュースサイト、動画サイト、ネット小説サイトを巡回する日々で、その他同人誌、様々なゲームにも手を出している。
結果、彼の部屋は異性にはとても見せられないような部屋になってしまった。だからこそ、オタクをこじらせて彼女が出来ない結果になってしまっていた。
彼もまた自分のオタクに若干のコンプレックスを持ちながら止めれない人間の一人であった。
「けどまぁ、千早は趣味さえなんとかすれば出来るのでは?流石に千早の部屋に入った時はビビった。もう慣れたけど。だけど、普通の女の子ならあそこでギブアップかな」
「お前の感想は聞いてねーよ。だけどなぁ・・・オタクって言ったら俺じゃん?俺って言ったらオタクじゃん?これはもう仕方がないことだろう。なんつーの、自然の摂理ってやつ?」
「仕方がないって・・・はぁ、まぁ、もういいわ」
「ん、察してくれ。孤独死は嫌だけど、今すぐ彼女欲しいって訳じゃないし」
「そうなの?」
椎名のその問いに千早は軽く首を縦に振った。
彼女にとってはその言葉が何故だか知らないけど、少しだけ嬉しかった。だけど、その理由は自分でも分からない。今は分からなくてもいずれ理由は分かるだろうと、その理由から逃げるように脚を速く動かした。
「ねぇ、千早」
「ん?どした?」
椎名が突然立ち止まって千早の名前を言うのでどうかしたのかと質問した。すると、椎名は向かい側のコンビニを指した。
コンビニは限定商品を買うとアニメの限定グッズが買えるという広告が映っていた。
「ああ、お前の好きなアニメの『鶏卵』のグッズの奴かぁ。それがどうかしたのか?」
「・・・五百円持ってる?」
椎名は視線は動かさずに千早の所持金の有無を問いただした。その質問に千早は深いため息を吐いた。
「いや、あるけどこれは俺の昼飯代。お前今月もう使い切ったのか?」
「いやー、まー、そのー、使い切ったという表現よりも緊急時に使ってしまい、お小遣い日まであと一週間なんだけど偶々お金がないというか・・・なんと言いますか。ごめんなさい。同人誌の買い過ぎです」
「はぁ・・・別に俺はお前の趣味になんかいうわけじゃないし、金の使い方にも何も言わないけどな。限度と微調整をしてもらわないと、俺に借金幾らあるか知ってる?」
千早がそう聞くと、椎名はビクッと体を動かした後に震えた声でいう。
「二千円です・・・」
「無駄な時間だったな。遅刻する前に行くぞ」
「うえーん」
コンビニに手を伸ばしてフラフラと歩こうとしていく椎名の服を千早は掴みながら学校へ連れていく。
意外にも引っ張るのに力がいるなと千早は思ったが、素直にそんなことを言える訳にもいかなかった。それでももう慣れてしまったこの日課に溜息を吐きつつも千早は逆に嬉しくも思った。
「おはよー」
椎名と千早が教室に入ると中にいる仲の良いクラスメイトたちは次々に挨拶していく。ここまでくれば二人の時間は終了でお互いに自分たちが待っているグループにサッと溶けていく。
「椎名ちゃんおはよー」
椎名に挨拶するのはクラスメイトの四ノ(の)宮恋奈であった。茶髪のショートカットの可愛げのあるような女子生徒で椎名の親友と言っても過言ではなかった。一年の頃から椎名と恋奈は仲がよかった。
「おはよう、恋奈。今日も元気一杯みたいだね」
「うん、私のフルートちゃんが中々いい感じに仕上がってきてね。ぬふふ、これで名曲を吹きまくれるぜ」
「あ、うん。あんまり練習し過ぎないでね」
「任せろよ、椎名ちゃん」
幼そうなその恋奈の笑顔を見るとなんだか妹を見ているようにも感じた椎名は今日も世界は平和だなーと感じる。
という千早も同じことを考えていた。窓際の自分の席に着いて春末の風を感じる。少しだけ夏に近づいてきて気温も少しずつだが上がってきている今のこの時にはとても気持ちが良いと。
ただ、こんな季節のように自分の環境も移り変わっていくのだと思うと無性に虚しくなるな。そう、千早は一人そう思った。
直ぐ二話投稿します!
次回もよろしくお願いします。