【番外編】 異世界のお産の話
ミニ白あんぱんはナナミさんの努力とタケル様の転移魔法の力でなんとかわたしのもとに出来立てホカホカの状態で届けられた。
どうも100円コンビニにもあんぱんはあっても白あんぱんは売っていなかったらしく、もう普通のあんぱんでもいいから持って行こうとタケル様は思ったらしいけどナナミさんが
「ないのなら作ればいいじゃない」
と言って豆から白あんを作り、パンの生地も手作りしてくれたそうだ。そして出来上がったミニ白あんぱんとともに今日はナナミさんも一緒に現れた。
「ナナミさん、焼きたてのミニ白あんぱんが食べられるなんて思ってもみなかったわ。それにこの世界で作ってるのにパン生地もとても柔らかいのね」
「パン生地はドライイーストを使って作ってるからよ。ここでもドライイーストを使って作ってもらったらいいわ。固いパンが好きな人もいるけど日本人には柔らかいパンの方が食べやすいものね」
「この白あんはどうしたの? 」
「豆探しから始めたのよ。タケルがいるからいろんな国の豆を取り寄せて白いんげん(白小豆)を探したの。ないかもしれないって思ってたんだけどあったのよ。普通の小豆も見つけたのよ。今はガイアの街は小豆ブームよ。パン屋にあんぱんの作り方を教えたからあんぱんがすごく売れて大変なの。これもカホ様のおかげね」
ナナミさんはわたしがミニ白あんぱんを食べたいと言わなかったらきっと小豆を見つけることもなかったから、あんぱんを売ることになったのはわたしのおかげだと言う。でもわたしだったら初めから諦めていたと思うので、諦めずに小豆を探してミニ白あんぱんを作ったナナミさんがいちばんすごいと思う。
「でもあんぱんと牛乳ってどうしてでしょうこんなに会うのかしら」
「本当ね。わたしもこの組み合わせ好きよ。特にこのストローで牛乳を飲むのもいいのよね」
みんなで焼きたてのミニ白あんぱんと牛乳を一緒に食べている。焼きたてのパンの匂いにも悪阻は反応がないので今日のわたしはとても元気だ。
「男の子か女の子かっていつ頃わかるの?」
ナナミさんが聞いてくる。
「日本じゃないんだから生まれるまでわからないよ」
「え? そうなの? てっきり魔法かなんかでわかるのかと思ってたよ」
それはわたしも思っていた。魔法が使えるこの世界。怪我を一瞬で治すポーションなんてものもある世界なんだからきっと性別なんて手をかざしただけでわかるんじゃないかと思っていた。でも性別を早めに知りたいとか思ったことがないこの世界の人たちはそんな無意味な魔法を編み出す人も当然いなかったらしく……そんな魔法はないと言われてしまった。生まれた瞬間の感動が減るじゃないかとまで言われてしまった。
「そうなんだけど。結構考え方が違うんだね。服を揃えるのにわかる方が良いとかもないんだ。この世界は男の子は青色とか女の子はピンクとかそういう考えもないみたいだから良いのかなぁ」
「うん。赤ちゃんのものって白いものが多いみたい」
「なんか楽しそう。早く生まれといいのに」
「でも自分んがお母さんになるってまだ実感わかないけどね」
「そうだよね。ん? 出産ってどんななの? まさか昔の出産と同じなの? 」
ナナミさんが急に青くなった。昔の出産ってなんだろう。出産に昔も今もないと思うんだけど。
「おい、ナナミが青くなってどうするんだ。妊婦を不安にさせたらダメだろう」
タケル様がナナミさんに注意してるけど気になる。どうしてナナミさんは青くなっているの?
「この世界のお産の成功率は実は高い。女神様に祈っておけば大丈夫らしい。カホ様は女神様の加護があるから成功率100パーセントじゃないかな」
「そうなんだ。よかったぁ」
「それにお産の時の苦痛も医術の先生がいれば和らげてくれるらしい。農村だと難しいこともあるそうだけど、お城で産むカホ様は医術の先生が付きっ切りでいてくれるだろうから安心だな」
タケル様はわたしなんかよりよっぽどお産に詳しい。ナナミさんも疑問に思ったみたいで
「なんでそんなに詳しいのよ」
と聞いている。でもわたしには分かった。
「きっとナナミさんが産むときのことを考えて勉強してるんですよ。やっぱり父親になる人はそういうの気になるんですよ。サイラス様も医術の先生に質問ばかりしてるんですよ。
「ば、馬鹿言うなよ。そんなんじゃないよ。たまたまそう言う話を聞いたことがあるってだけだ」
「そ、そうよ。前から言ってるけど私とタケルはそう言う関係じゃないんだから」
ふー。いつになったらこの二人はそういう関係になるんだろう。タケル様が奥手なのかしら。やっぱり男の方から積極的にならないといつまでもこのままだと思うんだけど……。
ナナミさんが悪阻で苦しむのはまだまだ先のことだね。きっとタケル様は転移魔法を使ってナナミさんが食べられる食材を探して回るんだろう。その時は今回のお礼にわたしも手を貸してあげよう。




