表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/58

【番外編】女神様もそんなに意地悪じゃない


 小鳥のさえずりに目が覚めた。

 横をむけば黒い頭が見える。カホだ。

 そういえばカホがこの地に来てしばらくは一緒に寝てたことを思い出した。カホは覚えているだろうか?


「う、う〜ん。サイラス様、起きたのですか?」


「ああ。起こしてしまったか?」


「まだ早いですね」


「あまり早く起きるとうるさいからな」


 侍女のマリーとメリーは予定がずれるのを嫌うから起こしに来るまではベッドから出ない方が良いだろう。


「今朝は気分が悪くないか?」


「はい。悪阻も終わったようです」


 カホの悪阻を初めて見たときは驚いた。妊娠してる事に気付いていなかったから何か悪い病気にかかったのではないかと気が気でなかった。

 妊娠だとわかって安堵したが悪阻というものがこれほど大変なものだと知り自分が変わりたいと何度思ったことか。

 誰もがしばらく一緒に寝ないほうが良いと言ってきたが、カホが大変な時に一人だけ呑気に違うベッド寝れるはずもなく、カホに何か言われるまではと

ずっと一緒のベッドで寝ている。

 悪阻が終わったのならもう誰からも文句を言わせない。


「夢を見てた。カホがここに来た頃の事だ。カホはどの位覚えてる?」


 私が尋ねるとカホは「う〜ん」と目を瞑る。


「そうですね。すごく不安だったこと。家に連れて帰ってもらえると思ってたら、全く違う所で、知らない人ばかりで戸惑ってた事を覚えてる。あなたの服を握ってることしかできなかった。大きい人ばかりで、髪の色が違う人ばかりで不安だった。でも、細かい事は覚えてないです」


 カホはあの時10歳だったから無理もない。私でさえ何故一緒のベッドで寝てたのか思い出せないのだから。


「しばらくの間、一緒に寝てたのは覚えてるか?」


「えっ! 私とサイラス様がですか?」


「覚えてないのか?」


「え〜と、う〜ん、あ〜覚えてないかもです」


 全く覚えていないようだ。泣いて縋り付いて寝てたように思うが、ショックな事ばかりで封印された記憶もあるのだろう。

 カホは今は前の世界に戻りたいとは思ってないようだが、私は時々不安に思うこともある。カホが消えたら、来た時と同じように今度は向こうの世界に戻ってしまわないと確信が持てないからだ。

 今まで戻れた人はいないとタケルも断言したが、戻れた人はこの世界にいなくなってるわけで何も言えないのだから本当にいないと言えるのか。特に姿を消す能力である「かくれんぼ」をカホは持っている。たまらなく不安になる。だから仕事がある昼間は無理でもせめて夜だけは離れたくない。カホの隣で眠りたい。カホを腕に抱いて眠りたい。

 ギュっと抱きしめると


「どうかしましたか?」


とカホの不安そうな声。


「いや、まだ早いからもう少し寝よう」


「そうですね。私もサイラス様と同じ夢が見たいです。若かりし頃のサイラス様を」


「何を言ってる。私は今でも若いぞ」


「ふふふ、そうですね」


 しばらく腕の中で笑っていたがコトンと眠った。妊娠してから眠ることが多くなったと聞く。身体が眠りを欲しているのだろう。

 大丈夫。子供まで出来たのだ。女神様もそんなに意地悪じゃない。

 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ