【番外編】カホの涙ーサイラスside
「スマホはないですか? 電話かけたら父さんが迎えに来てくれます」
「スマホとはなんだ?」
「スマホを知らないのですか? 携帯電話もダメですか?」
「けいたいでんわ?」
カホの言う事はさっぱりわからない。スマホと言うのは魔道具の一種だろうか?
「カホ、よく聞きなさい。君は異世界から来た迷い人だと思う」
「迷い人?」
「そうだ。たまに君みたいに迷ってこちら側に来てしまう人がいると聞いたことがある」
「迷い人って迷子のことですか? だったら帰れますよね。父さんと母さんが心配してるから家に帰りたいの」
「すぐには帰れないんだ」
もう帰る事は出来ないとは言えなかった。いつかは説明しないといけないのはわかっているが......。
「どうして? どうして帰れないんですか?」
「今この世界は魔王がいる。王都には被害がないが辺境の方では魔族が暴れて酷いことになってるんだ。勇者様が魔王を倒した後なら何か帰れる方法が見つかるかもしれないが今は我慢してもらうしかない」
今のところ勇者様でさえ帰れたとは聞いてない。だがもしかしたらと思っている。勇者様が魔王を倒した時、元の場所に帰れるという荒唐無稽な噂。噂でしかないと知っているが、魔王を倒した勇者はいない。封印しただけだから帰れないのかもしれないとも言われている。
「魔王? 魔王ってゲームだけに出るって聞いてたのに」
「ああ。魔王はとっても怖いんだ。魔王が倒されるまではここにいた方が安全だ。勇者様が魔王を倒すまで待っていようね」
「でも父さんと母さんに会いたいの」
カホの黒い瞳から涙が落ちる。ずっと我慢していたのだろう。次から次へと溢れてくる。不思議だな。子供の泣き顔など汚いと思っていたが、綺麗だ。
「私はこれでもこの国の王子だ。帰れると断言は出来ないが帰れる道は探すと約束しよう」
「えっ! サイラス様って王子様だったの...ですか?」
私が王子だという事に驚いたのか涙が止まったようだ。ホッとした。女の涙の止め方なんて知らないからな。
「そうは見えないか?」
「はい....いいえ」
どっちなんだ? まあ、この姿だ無理もない。
「うん、この格好では無理もない。今日はお忍びで外に出てたから服が違うからな。いつもはもっとマシな格好をしている。次は王子だと分かる姿で会おう」
カホを侍女長に渡し着替えを任せた。事情までは説明出来なかったが彼女なら大丈夫だろう。
私も着替えて陛下に会わねばならない。どう言えば丸く収まるのか、困ったものだ。