【番外編】プリーモショップ・ベリートリア2
「どうしたプリーモ。気分でも悪いのか?」
タケル様が意地の悪そうな顔をしてる。きっと私の考えなど見抜いているのだろう。
「いえ、ナナミさんのおかげで雲の上の人と関わる事が出来てとても光栄です」
サイラス様は『マジックショップナナミ』の商品よりもカホ様の嬉しそうに微笑む顔ばかり眺めている。さすが新婚といったところだろう。片時も側から離したくないというようにべったりと引っ付いている。
私の新婚の時もこんなだったのだろうか? 今ではあの頃とはまるで違う体型になった妻の顔を思い浮かべる。あの頃は店を広げている頃だったから、とにかく必死だった。妻とは新婚旅行さえ行ってない気がする。今思えばよく離婚されなかったものだ。
「そういえば新婚旅行には行かれないのですか?」
国王が行くと大変だから近場で済ますのだろうか。
「セルビアナ国のウータイに行く予定だ」
サイラス様はとても嬉しそうに報告してきた。だが他国へ国王が行くとなると大掛かりになる。とても新婚旅行にはならないだろう。私は気の毒そうにカホ様を見る。
「気の毒がる事はないぞ。この二人は俺を使ってお忍びで行く予定だからな。これは国家秘密だから他言無用だ」
そんな国家秘密、知りたくなかった。何かあれば真っ先に疑われるではないか。
タケル様が連れて行くなら転移魔法で行くのだろう。普通の転移魔法を使って旅行するのは手続きがあったり、身元を確認されたりするし大金がかかる。私はここに来るのに転移魔法を使った。タケル様のように自由に転移する場所は選べない。魔法陣が刻まれてある、それぞれの国が認めた場所にしか移動はできないのだ。タケル様は特別。そういう事だ。タケル様の転移魔法なら自由に行き来できるし、お忍びで他国に行くことも可能だ。
「プリーモはお好み焼きを食べた事はあるか?」
サイラス様に聞かれて
「一度だけですがあります。ソースの匂いがたまりませんでした」
と答えた。お好みソースは『マジックショップナナミ』でも売ってるが、自分で作った事はない。
「それを食べに行くのだ。お好み焼きはカホの好物なんだ。研究してうちの厨房で作れるといいんだが」
「ソースを売ってるんだからすぐ作れるようになるさ」
ふむふむ。カホ様の好物という事はこれからこの国はウータイ焼きやお好み焼きが流行るかもしれないな。お好みソースはきらさないようにしよう。
それからも新婚の二人は二人の世界に入り、場の読めないナナミさんがその世界を壊し、いつの間にか新婚旅行の日程の中にガイアにあるプリーモホテルが選ばれ、嬉しいような恐ろしいような。
カホ様はのびのびスライムのウォータースライダーがお気に入りだというが、もう寒くなるのでウォータースライダーは無理だろう。
「だったらのびのびスライムをローラー滑り台にしたらいいよ。のびのびスライム、冬の間も働かさないと勿体無いよ」
ナナミさんは意外と従業員を甘やかさないようだ。ローラー滑り台というものがよく分からないので、尋ねたが相変わらず説明下手だ。後でタケル様に尋ねたほうが良さそうだ。
沢山の商品を買った後、四人は転移して居なくなった。静かになった店でほっと息を吐く。
「やっと.....終わった」
「父さん、終わってないよ。次はホテルでって言ってたよ」
「父さんと呼ぶな。会長と呼べ。......国王様が来られるんだ、これはチャンスでもあるんだ!」
「お忍びだから宣伝にはなら..」
「言うな。そうでも思わないとやってられんだろう」