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46 閑話 クリスティーナの想い

   


「クリスティーナ様、どこにもいないようです」


 侍女のキドルナーが悔しそうな顔で報告してくる。


「そう......」


 賭けには負けたようだ。サイラス様の態度が突然変わったのもカホ様を取り戻すことが出来たからだろう。

 幼い頃から彼の隣に立つのは自分だと思っていた。その頃は王妃だとかはわからなかったから、ただ純粋に彼のそばに居られることが嬉しかった。一度めの婚約話が流れた時もサイラス様が外国の女の子と婚約しなくてよかったと思うくらいで悲しいとかはなかった。だってサイラス様のそばにいる女の子は自分しかいなかったから。

 サイラス様と王宮の探索をしたこともある。あの頃は本当に楽しかった。あの隠し通路はその時に見つけたものだ。秘密だよってサイラス様に言われた時はよくわかっていなかったけど、物事がわかる年齢になってくると大変なことを知っていることに気づく。でもいずれは王家に嫁ぐのだから大丈夫。きっとサイラス様もそう考えてるのだろうと思っていた。


「どうしてこんな事になったのかしら」


 長年支えてくれてるギドルナーは涙をこぼしてる。これから私がどんな事になるか分かっているのだろう。おそらく処刑されるか修道院に入ることになるはずだ。未来の王妃を攫って殺そうとしたのだ。王様も脅迫した。彼女が妾のときだったら、私の方が立場は上だったけれど、今は違う。

 カホ様が初めて私たちの前に現れた時は人形のような子供だと思った。黒髪に黒い瞳。人形のように白い肌。サイラス様が妾にしたのも彼女を守るためだからと私も協力した。なのにいつの間にかサイラス様の心はカホ様のものになっていたのに。

 私はしてはならない事を沢山してしまった。そんな事をしてもサイラス様の心を奪うことなんて無理だってわかっていたのに。


「クリスティーナ、先ほど陛下から話があった。本当のことなのか?」


 父がノックもせずに現れた。憔悴仕切った姿だ。


「はい。全て本当のことです。皆に迷惑をかけることになってしまいすみませんでした」


 謝って済むことではなかった。下手をすれば侯爵家は潰れてしまう。父と優秀な兄がいればなんとかなると思いたい。


「いや、私が意地を張らなければずっと前にお前たちは結婚していたのかもしれない。すまないことをしたのは私の方だ」


「お父様......」


 父の優しい言葉に涙が溢れてきた。父が優しく背中を撫でてくれる。


「クリスティーナ、お前には私の姉が嫁いだコースター国に行ってもらうことになった。悪く言えばこの国からの追放だがお前にとっても良いことだと思う。違う国でならやり直せるだろう」


 父の言葉に驚いて涙が止まってしまった。


「処刑ではないのですか?」


「カホ様が庇ってくれたらしい」


 甘い娘だと思う。私は本気で命を奪う事を考えてたのに分かってないのだろうか。ううん。きっとそれでも私の死を望む事を良しとしないのだ。彼女の前にいた国は戦わない国だと言っていた。『自衛しかできないんだよ』と笑って言っていた。多分彼女は争いが嫌いなのだろう。王妃としてやっていけるのかと不安に思う自分がおかしかった。


「カホ様には怖い思いをさせてごめんなさいと伝えてください」


 生きてた方がいいのかわからない。でも父もキドルナーも喜んでいるようだからこれで良かったのだろう。死ぬことはいつでも出来る。この国以外に行ったことはないのだ。せめてコースター国を見てから考えることにしよう。これからの自分は自由なのだ。何者にも縛られることはない。

 いつか、ずっと遠い未来にもし生き延びていたらカホ様とサイラス様に会いに来よう。笑顔で会えるかどうかはわからないけど会って謝れるように生きれたらいいと思う。


 

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