42 かくれんぼ2
「退屈だな~」
誘拐されて何日たったのだろうか。この何もない空間でいつまで暮らせばいいのか。サイラス様は無理でもタケル様なら助けに来れるのではないかと思ってたけど、考えが甘かったようだ。
部屋にはトイレも風呂もある。魔法が使えないから風呂も自分で入るしかない。ナナミさんに貰った石鹸や身体を洗うスポンジが懐かしいよ。石鹸はもちろん置いてあるけど、日本の方がやっぱり泡立ちが良い。
「漫画くらい置いてればいいのに。なんか神様関係の本が多い気がする」
本も置いてあるけど種類が少なく退屈な本ばかりだ。
妾生活してる時も、基本的に同じ部屋ばかりで生活してたけどあの時はメリーやマリーという話し相手がいた。勉強の時間もあったし、本も王宮にある図書館から借りれたから退屈とは縁がなかった。
「ずーっとこのままだと気が狂ってしまう」
独り言ばかりが増えて鬱になりそう。とはいえあの意地悪な侍女と話したいは思えないし。
「どうしたものかしら.....あの侍女だけならやっつけるって手もあるけど、絶対に外には人がいるよね」
この部屋から出れたら『かくれんぼ』使って逃げれるのに。結婚式に間に合わなかったらどうなるんだろう。よし、ここはダメ元でやってみよう。
次にあの嫌な侍女が来た時が勝負だね。今まで彼女に逆らわなかったのはこのためだ。きっと油断してるはず。
変だなあ~。昼ごはんが来ない。忘れられてるのだろうか? まさか私の作戦がばれたの? まだ何もしてないからそんなはずないか。
ここのドアは一回閉まると鍵がないと開けられない。侍女はいつも鍵を開けて外に出てる。ということは入ってきた時しかチャンスがない。それとも鍵を奪ったほうが時間も稼げていいのか。ああでもないこうでもないと悩んでるとノックの音がした。入ってきたのは知らない侍女だった。
「遅くなりました~」
いつもと違う若い侍女は慌てて昼食をテーブルに並べてる。私もいつもと違う侍女に何もできずにいた。でもこれは絶好のチャンスかも。あの意地悪な侍女は一筋縄ではいかないだろうから今しかない。
「ねえ、お風呂場にリボンを忘れたわ。取ってきてくださる?」
いつもよりきつめの命令口調で言う。
「あ、はい」
上司に必要以上のことはしなくていいと言われてるのか、そわそわしたが結局風呂場の方に歩いていく。私はそっと彼女の後ろに近づくと腰にかけてある鍵を奪って彼女を風呂場に押し込んだ。何か叫ぶ声が聞こえるが無視だ。風呂場に外から鍵をかけるとこの部屋の入り口の鍵を開ける。外に出た途端捕まるのは避けたい。そっとドアを開ける。
「誰もいない?」
拍子抜けだった。いつも誰かいるみたいだったのに。誰もいなくて助かったと思うべきかな。一応『かくれんぼ』使ったほうが良いよね。私は『かくれんぼ』を使った。周りの景色は変わらないけど、自分が隠れる事が出来たのがわかる。肩の力が抜ける。これでしばらくは見つからない。出口を探さないと...。
変だなあ。この時間だともっと人がいてもいいと思うんだけど、ここって住んでる人少ないのかしら。広い廊下に高級そうな壁紙からして貴族の屋敷だと思うんだけど誰にも会わないなんて変だわ。
あまりにも広いせいで迷子になってしまった。一階に降りたから出口はどこにでもありそうなのに困ったわ。ウロウロしてると人の気配が...。どうせ見つからないんだから確かめてみよう。そこに出口があるかもしれないし。
部屋のドアが空いてるので覗いてみた。
「どう、素敵でしょう?」
「ああ、とても似合ってるよ」
そこにはウェディングドレス姿のクリスティーナ侯爵令嬢とサイラス様が微笑み合っていた。あのドレスって私が着る予定だったドレスに似てる。
やっぱり『かくれんぼ』使わないほうが良かったのかな。いつも見たくないものを見てしまう。