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41 誘拐ーサイラスside

   


 とても良い夢を見ていたのに起こされて、しかも目の前にはタケル様の姿が....。


「やっと起きたか。ニヤニヤと笑いながら眠りこけて全然起きないから殴って起こすしかないかと思ったぞ」


「もう起きたんだからその物騒な腕を降ろせよ。勇者に殴られたら顔の形が変わって結婚式に出れなくなるだろ」


「結婚式の主役は新婦だから気にするな。誰も気づかないさ」


 タケル様は手をおろしたが、早く着替えろと急かされた。タケル様はどうやってこの部屋に入ってきたのだろう。魔法を使ったのか? 何故? 嫌な予感がする。


「カ、カホに何かあったのか?」


「わからない、それを確かめたい。俺だけで寝室に入っていくわけにはいかないからな」


 当たり前だ。そんなことは許さない。

 着替えをおえると私の腕を掴んで転移した。



「おい、この部屋に入ったことがあるのか?」


「ない」


「一度来た所にしか転移できないって聞いてたはずだが」


「ここには俺の手紙が置いてある。あれに印をつけておいたんだ。何かあったら助けに来れるようにな。まさか本当に使う時が来るとは思ってなかったが...」


 ベッドの上にカホはいなかった。ベッドの上だけではなく部屋のどこにもいない。机の上に


《探さないでください》


と書かれたメモが置かれていた。確かにカホの字で間違いないが本当に自分の意思で出て行ったのか?また私を置いていくのか?

 そのメモを見てタケルは


「ふん」


と言うといなくなった。

 私はどうすればいいのか考えることもできず、ベッドに腰をおろして頭をかかえた。


「おい、座ってても解決しないぞ」


 頭の上からタケル様の声が聞こえる。


「...帰ったのかと思った」


「ナナミを迎えに行ってたんだ。夢でカホ様が連れさらわれたって言ってたから何かわかるかと思ってな」


「夢? 予知夢でも見るのか? 」


「予知夢とは違うだろう。話からすると現実に起きてる場面を見てたって感じだな。カホ様と一緒でナナミにも女神様の加護があるから見せてくれたのかもと思ってるんだが....」


「じゃあ、家出じゃないのか?」


 私が嫌になって家出したんじゃないのか。


「一週間後に結婚を控えてるのに家出しませんよ。そういう人もいるかもしれませんが、カホ様はそんな無責任なことしないですよ。そこは長年一緒にいるサイラス様の方がご存知でしょう?」


 ナナミさんが少し怒ったような表情で言う。あちらの人間は国王にも容赦ないのだな。だが、確かに彼女の言うとおりだ。カホは私のプロポーズに嬉しそうに頷いてくれた。それなのに私は彼女を疑ってしまった。


「落ち込んでる所に悪いがこの暖炉の横に穴が空いてたってナナミが言うんだがわかるか?」


 ギョッとしてナナミさんを見た。どこでそれをと大声で詰め寄りそうになったが、タケル様の威圧を受けて力を抜いた。そう、彼女は異世界人だった。夢で見たと聞いていたではないか。その時に見たということだろう。


「城の中にはいくつか王と王妃しか知らない抜け道があります。その一つがこの暖炉のところになります」


「どこかにスイッチがあるということか。それは暖炉の向こう側にもスイッチがあるんだな。でなければここに入ってこれるわけがない」


「この抜け道はどこに繋がってるんだ?」


「城の外です。夜だと誰にも見つからずに抜け出せるでしょう」


 タケル様が腕を組んで考え出した。その横で私も考える。誰がこの抜け道を知っていたのだろうか? 実はひとりだけ心当たりがある。その相手とは幼い頃かくれんぼを一緒にしたことがある。偶然一緒に見つけてしまった抜け道。あの頃はそれがとても重要な事だとは考えてなかった。抜け道の存在に興奮したことだけは覚えてる。

 王にその話をした時優しかった表情をガラリと変えて


「ほかに誰が知ってる?」


と聞かれた。私は言っては駄目だと本能的に悟って自分だけだと答えた。何年か経って王の椅子を譲られる時、王から王妃と王以外に知られたらそのものの口を閉ざさなければならないと言われて、隠しておいて良かったと安堵した。だがもしかしたら言った方が良かったのだろうか?


「二人とも何をしてるの? 助けに行かないの?」


 ナナミさんが怒っている。今頃追いかけてももう追いつかないだろう。


「ウエディングドレスも1着なくなってるわ。どういうことなのかしら」


 ナナミさんが言うようになぜかウエディングドレスがなくなっている。


「二着あったのか?」


「ああ。クリスティーナ嬢が間違えて注文したんだと思ってた。業者に返すのも悪いから、何かあったときのためにと受け取ったんだ」


「なるほどね。もう誰が犯人かわかってるんじゃないか? 手遅れになる前に言ったらどうだ」


「だが、信じられないんだ。親友だと思ってたのに」


「そういえば攫った人達の顔はよく見えなかったけど、男の人は訛りが強くて明日にはお金を貰って故郷に帰るって言ってたわ。女の人は自分は見つかっても処刑されることはないって自信満々だったの。王妃になる人を誘拐しても処刑されないの?」


 ナナミさんが突然思い出したように話し出した。訛りの強い下僕。処刑されることはない? どうやら間違いなさそうだ。


「わかったのか?」


「ああ。だが証拠がない。国王としては動くことができない」


「だがさすがに俺一人でどこにいるのかわからない人を探せないぞ」


「わかってる。親に揺さぶりをかける。これは国王としてではなく、個人としていくから従者は連れて行けない。タケル様についてきて欲しい」


「わかった」


 ナナミさんは私たちの横で満足そうに頷いている。なんだか一緒に行く気満々なんだけど、君は連れて行けないからね。














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