38 幸せのひととき
結婚式までの間はとても忙しくあっという間に過ぎていく。結婚衣装は二通り用意されていた。どちらも甲乙つけがたい出来で悩んでしまう。
「どうして二つも作ったの? もったいないと思うわ」
「念のためだ」
サイラス様の返事は短い。念のためって、私がドジして転ぶとでも思ってるのかしら。
「ナナミさんは今日、街で串焼きを食べたって言ってたわ。私達も昔食べた事があるの覚えてる?」
「そういえば最近は食べに行ってないな。落ち着いたら食べに行くか。あの串焼きは美味しかった」
サイラス様の返事に驚いた。もう気軽に行く事は出来ないのかと思ってた。
「一緒に行くから勝手に行くなよ。カホは何をするかわからないから心配だよ」
いくら私でも王妃という立場で勝手なことしないよ。サイラス様は心配性なんだから。
「肉饅頭のお土産をもらって食べたけど、あれも美味しかったから、落ち着いたら絶対に連れて行ってね」
「さすがにしばらくは無理だろうけど、冬が来る前には行けるだろう」
確かに結婚式の後もスケジュールがいっぱいだった。王様って過労死しそうなくらい働かされてるよね。まあ、一ヶ月後に結婚とか無茶するからだろうけど、あんまり無茶しないようにこれからは気をつけてあげよう。せめて私といる時くらいゆっくりできるようにしないとね。
「明日の予定はどうなってる? 少しはナナミさんたちと過ごせそうか?」
「はい。ナナミさんは公式行事に出るのが不安だというので、マナーを学ぶというので私もご一緒しようと思ってます。私も復習になるので助かります」
大丈夫だとは思うけど、細かいことは昔習ったから忘れてることもあるような気がする。マナーって奥が深いから覚えるのは大変だよ。どちらの足を先に出すとかどっちでもいいと思うんだけどね。
「カホのマナーは完璧だよ。母上も言ってたよ」
サイラス様の母親が私のマナーの先生だからね。とても優しい方だったけどマナーの講義の時は鬼のように怖かった。子供心にこの人は二重人格なのではとか思ってた。
「私のマナーが完璧なら、それは王妃様のおかげです」
「王妃様か、一週間後にはカホが王妃様だ。これからは義母上と呼ぶのがいいだろう。娘が欲しいといつも言ってたから喜ぶよ」
王妃様を義母上と呼ぶ日が来るなんて考えた事もなかった。言えるかな。ドキドキするよ。
それからしばらく話をしてサイラス様は帰っていった。最近は帰る前におでこにキスをする。いつまでも子供扱いな気がする。でもそのキスに魔法でもかかってるかのようによく眠れるから不思議だ。後一週間で結婚式。ドキドキして眠るどころじゃないのに、布団に入ったらすぐ眠れる。不思議だなあ〜。
「明日も予定がいっぱいです。ゆっくりお休みください」
眠る支度を手伝ってくれたマリーが優しく声をかけてくれる。私よりマリーの方が忙しいだろうにそんな顔は微塵も感じさせない笑顔だ。
「おやすみなさいマリー。いつもありがとう」
私が眠たい目をこすりながら言うとにっこり微笑んでくれた。




