35 プロポーズ⁈
ガチャガチャとナイフとフォークの音だけが響いてる。お行儀が悪いわけではない。
サイラス様にただいまの挨拶をしておかえりと優しい笑顔で言われた。だが、その後が続かない。タケル様に助けを求める視線を送るが全く気付いてくれない。黙々と食べている。ーーーそう言えばナナミさんが『タケルは食べてる時は何を言っても聞いてない』ってプンスカしてたっけ。全然役に立たない。
マリーとメリーを見ると肩をすくめる。サイラス様は水を何度もお代わりしてる。この間と同じだ。
大丈夫かな。なんかまた変な事言われるのかな。
「タ、タケル様、この間の手品が見たいです」
私はタケル様が食べ終わったのを見て声をかけた。とにかくここは話題を振って雰囲気を変えないと。
「手品? 私も見たいな」
サイラス様が汗を拭きながらタケル様に頼んでいる。
そんなに暑いかな。熱でもあるんじゃないかしら。
「そうだな。お祝いするような事があったらこの真夏に雪を降らせてみせよう」
え? 雪をってそれはさすがに無理でしょう。タケル様って時々おかしな事を言うよね。私はマジックショップナナミで売ってる手品を頼んだのに。
「タケル様は私が出来ないと思ってそんな事言って、後で後悔しますよ」
サイラス様がタケル様のセリフに何故か怒ってます。
「ハッ、出来たとしても返事が『はい』とは限らないんだぞ。お祝い事があったらって言っただろう」
本当にこの2人は仲が良いですね。タケル様といるとサイラス様も王様には見えません。気を許せる友達でしょうか。
「そこで見届けてください。今度は失敗しませんから」
サイラス様は席を立つと一回大きく息を吐いた。何をするのでしょう。
「カホ、帰ってきてくれてありがとう。そしてこれからも、これからも....っと」
「その場所で言うのか? 遠いだろう」
タケル様が遮りました。別に聞こえるから良かったのに.....。続きが気になります。
サイラス様はタケル様を睨むと私の方に歩いてきます。なんだかとってもギクシャクした動きです。これは私も立った方がいいですよね。マリーが素早く私の椅子を引いてくれました。
私が立つと何故かタケル様も立ち上がります。いったい何が始まるのでしょう。
サイラス様は私の近くに来ると、突然跪きました。
「サイラス様! 何をしてるんですか⁉︎」
私がサイラス様を起こそうと伸ばした手は片方だけサイラス様に握られ、
「どうか、私と共にこの国を.....いえ、そういう事ではなく、ただ、あーっと、私と結婚してください」
と言う言葉と同時に頭を下げられた。




