30 神に見捨てられた国(前編)
さすがに今日1日で読める量ではない。パラパラっとめくっていく。黒髪が書かれてるところ探したらいいか。
「ないわ」
すぐ見つかるかと思っていたがなかなか見つからない。もしかして黒髪の人がいないのって最近のことなのかしら? 昔はいたのかも。
「あれ? ベリートリア国でも勇者召喚したんだ」
勇者召喚したなんて習ってない。でもこの本には今から二代前の国王の時に勇者召喚したことが書かれてる。
「あ〜失敗だったのか。勇者召喚したけど現れなかった。原因は不明。まあ、簡単に召喚されても困るよね。日本から行方不明者続出とか怖いし」
なぜか勇者は黒髪に黒い瞳って決まってるらしい。っていうか日本人限定っぽい? 勇者じゃないけど私もナナミさんもユウヤさんも日本人だし...。
「え? その日から黒髪に黒い瞳の人への迫害が始まった? あまりにも酷い扱いに黒髪の人たちはベリートリア国から出て行った。それであの国だと黒髪を隠すように言われたのか」
なぜか隠されてる気がしたけど、そんな理由だとは思ってなかった。迫害というのがどういうものだったかは詳しく書かれてない。でも自分の国を捨てる事を決意させるほどだから相当に酷かったのだろう。日本とは違うこの世界で亡命は命がけだ。私にはお金があったから家出なんてできたけど普通はそんなに簡単ではない。
続きを読んでいると不思議なことが書かれていた。黒髪の人たちがいなくなって大喜びしていた国民たちだったが、その後この国から女神さまたちの加護が失われた。女神さまたちの加護がなくなれば、作物を育てることが困難になる。天候も大荒れ。その時この国に攻める国がいてもおかしくないのにどこの国もこの女神さまたちに見放された国に手を出さなかった。自分たちの国まで女神さまたちの加護がなくなっては大変だと見て見ぬふりをしたと書かれている。それほど女神さまたちは信仰されているのか。長い間暮らしてきたのに知らなかった。知らないことが多すぎる。私はこれまで何を見てきたのだろう。1番大切なことを知らされなかったように思える。
「カホ様? ごはんの時間ですよ」
マリーの声に我にかえる。でも涙を隠せなかった。
「どうしたんですか?」
マリーは私の読んでる本を見てビクッとした。
「マリーも知ってるのね。私は何も知らなかった」
「ベリートリア国の国民なら誰でも知ってます。物心つく頃には教えられますから。自分たちの愚かな行いによって神に見捨てられたことがあるという事を」




