王は奴隷よりも強し
明くる昼下がり、おれは一人でリベックの商店街に向かってる。
奴隷達は相変わらず全員戦艦建造にかり出してる、この調子なら三日もすれば完成するって報告を受けた。
おれはその間、やれる事をやる。
指定された場所にやってくると、そこに一人の女がいた。
四十代くらいの、肝っ玉母ちゃんっぽい見た目の女だ。
「あんたがイネッサか」
「そうさ。わざわざ王様に来てもらってすまないね」
「気にするな。それで、建てる場所はここで良いのか?」
「ああ」
頷くイネッサ。彼女の後ろに木の家が一軒建ってる。
ここに来たのは木の家を取り壊して、新しい建物を建てて欲しいという彼女の要望があったからだ。
今までも何回かあったパターンだが、全部奴隷に任せた。
今は奴隷達が出張ってるから、おれが代わりに来た。
「で、どういう建物だ?」
「なんだっけ、ここまで建物で、ここからここまで柵でぐるっと囲ってるみたいな」
イネッサは身振り手振りで説明した。
「ああ、ニーナが開発したテラスタイプの建物か」
「テラスっていうのかい、それ」
「飲食店を開くのか?」
「そうそう、それ」
イネッサは目を輝かせた。
「ここに飲み屋を開くんだ。知ってるかい王様、最近は飲み屋を開くのが一番儲かるのさ。みんな仕事帰り、働いたあとに一杯引っかけていくのがはやってるのさ」
「へえ」
それは良いこと聞いた。二重の意味で。
荒れ果てた世界から、仕事帰りに飲み屋に寄って飲んでいくのが流行なくらい復興してきたってことだ。
それに、流行だっていうのなら奴隷たちもいずれつれてってやりたいな。
「どこの飲み屋に行っても王様の話題で持ちっきりさ。王様のおかげでいい酒が飲めてるって。ニキートって男なんて食事は全部プシニー、稼いだ金を全部酒につぎ込んでるのさ」
「なるほど。人生楽しんでるな」
おれのシステムと約束したことを上手く活用してるな。
「王様ならそう言うと思ったよ。みんないってるよ、時代関係なく、まれに見る賢明な王様だって」
「そうか」
「それに、うちも王様にものすごく感謝してるのさ」
「なんでだ?」
「うちのヤドロクがずっと王様のところで働いてるんだ。あれこれ作ったり、最近だとあのでっかい船――」
「戦艦か?」
「そう、それ。それの建造に関わっててね、それでたんまり稼がせてもらって、この店の資金を溜めることができたのさ」
「それは良かったな」
「ああ、だから王様にはいくら感謝してもしきれない位なのさ」
「気にするな。さて、はじめるか」
「あいよ。素材は前に奴隷様に聞いて、あっちに用意してあるよ。人も集めといた」
イネッサが指した方向に素材が山の様に積み上げられてる。
そのそばに屈強な男が三人かスタンバっている。
「素材は使う、人手はいらん」
「え? なくて大丈夫なのか? 奴隷様は三人はいた方がいいっていってたけど」
奴隷たちならそうだろうな。
「ま、見てろ」
おれはDORECAを取り出して、建設予定地にある木の家の前に立った。
まずは『解体』を使って、元の家を綺麗に消し去る。
次にベースになる家を――ではなく、ロード機能を使った。
ニーナが発案したものは、カードにセーブ・ロード機能がついた直後に全部一回作って、覚え込ませた。
イネッサが希望した、テラスタイプの建物もそれだ。
地面に、複雑に絡み合った魔法陣ができあがる。
そこに、用意された山のような素材をまとめて投げ入れる。
かなりの量があるが、同じ魔法陣の中に投げ入れるだけなら大した労力じゃない。
魔法の光が素材を包み込み、建物ができあがった。
所要時間、わずか三分未満の間の出来事である。
ま、こんなもんだろ。
今回はイレギュラーでおれがきたけど、こういうセーブ・ロード機能を使う案件はおれがやった方がいいのかもしれない。
その辺はユーリアと一度相談してみよう。
ともかくやる事はやったから、おれはイネッサの方を向いた。
「おわったぞ」
「すごい……こんなにすごいんだ王様って」
「こんなに一瞬で出来るのか!」
「おれ、奴隷ちゃんと何回もものをつくってきたけど、奴隷ちゃんの場合この十倍はかかるぜ」
「奴隷ちゃんたちもすごかったのに王様はもっとすげえや」
イネッサは舌を巻いていた。スタンバってた三人の男もおなじような反応だ。
そりゃまあ、DORECAと奴隷カードの性能自体違うからな。
奴隷達よりも時間短縮出来るのは当たり前だ。
だが。
「そうだ王様、せっかくだしうちで飲んでいってくれるかい。うちの初めての客になってってくれよ」
「いいのか?」
「もちろんさ。ほらあんた達、用意してた食材と酒、それと食器とか、全部運び入れてくれ」
「おうよ」
「ガッテンだ」
「なあイネッサ、せっかくだし若い子よんできて王様のしゃくした方が良くねえか」
「よく気づいてくれたね。心当たりは?」
「まかせろ」
あれよあれよってうちに話がまとまって、おれはできたばかりの店の中につれてかれた。
普通にやっただけなのに、なんだか、ものすごい接待受けたのだった。




