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奴隷の望み

 夜の宮殿、執務室。


 仕事を終えて、報告にくるミラ。


「全員に万能薬を飲ませてきたよ」


「ご苦労」


「牢屋に放り込んだけど、それでいい?」


「うん? なんで牢屋なんだ?」


「ご主人様を襲ったんだよ」


 当たり前の事のようにはなすミラ。


 国になって、国王を名乗ったのとほぼ同時に、王国法と言う名の法律を施行させた。


 ユーリアを中心に、町長達が(はか)って作った法律を、おれが最終チェックして決めたものだ。


 ちなみにおれの意見をかなり取り入れたから、基本は日本の法律と大差ない。


 おれの常識でやっていいことといけないことを明文化しただけだ。


「それって違法だよ」


「なるほど。確かに他人を襲うのは違法だな」


「それだけじゃないよ、ご主人様を襲ったのは不敬罪だよ」


「あ、それ削った」


「え?」


 驚くミラ。


 不敬罪。国王とか君主に対して不敬を働いた時に適用される法律だ。


 決めたのは奴隷達とおれが助けた町長たちだから、草案ではそれが当たり前のように第一条にきていた。


 しかも「国王に対する不敬行為」じゃなくて、条文は「アキト様に対する不敬行為」ってなってた。


 もちろん削除した。そんなものはいらない。


「どうして!?」


「どうしてもこうしてもない。いらないものだからな」


 別におれに対する不敬かなんてどうでもいい。


 この国に重要なものは二つある。


 国民と奴隷。


 おれからすれば不敬罪なんてものよりも奴隷法を作ってエターナルスレイブを保護したいくらいだ。


 あれほど健気で愛らしい生き物、きっちり法律にして守らないのはおかしい。


 ちなみにまだしてない。こればかりは奴隷に任せると変になりそうだから、そのうちおれの独断でやるつもりだ。


 現行法でも国王のおれが必要と感じたらいつでも新しい法律を作れるという風になってるからな。


「もう、ご主人様は甘いよ」


「そうかな」


「そうだよ」


「あんなのさっさと死刑にすれば良いのに」


「そういうな。まあ、一晩ぶち込んで頭が冷えたら解放してやれ」


「一晩!?」


 更に驚くミラ。


「一晩って短すぎるよ」


「そうか? 妥当じゃないのか。不敬罪がない以上、あれは何の罪になる?」


「え?」


「強盗か? だったら未遂だ。傷害も殺人も未遂だ。そもそも被害者がいない。ってことで無罪放免だ」


「……」


 ミラは唖然とした。


「ご主人様、お人好しすぎる」


 呆れられた。


 はじめてなんじゃないのか? 奴隷に呆れられたのだって。


 ちょっと新鮮だ。


 が、そこはやはり奴隷、おれの命令は絶対だ。


 ミラはため息ついて、渋々受け入れた。


「わかった、明日の朝になったら解放する」


「よろしく。ああ、それと――」


「ちゃんと働く気があるかどうかを聞くんでしょ。わかってますッ」


 ミラが切れ気味にいった。


 おれは驚いた。


 同時に――嬉しくなった。これほどおれの事をわかってる奴隷の事が愛しくてたまらない。


 部屋から出て行こうとするミラを呼び止めた。


「待て」


「なに?」


「お前、メダルを何個持ってる」


「え? メダルってこれ?」


 ミラはドレスのしたから折り紙のメダルを取りだした。


 肌身離さず持ち歩いてるのに綺麗なまま、よほど大事にしてるのがわかる。


「ああ、それが何個ある――いや」


 言いかけて、首を振った。


 DORECAを出して、紙を十枚作る。


 それを全部メダルに折って、ミラに渡した。


「ほら」


「え?」


「十枚集められたらなにかしてやるって約束だったな」


「で、でもこんないっぺんに」


「いっぺんに渡しちゃダメって法律でもあるのか?」


「それは――ない、けど」


 もちろんない、あったとしてもおれがつぶしてる。


 いや、奴隷法を作って「ご主人様が奴隷を可愛がるのに限って例外を認める」って付け加えるってのもいいな。


「でも……もらう理由が……」


「ご主人様があげたくなったってのは理由にならんか?」


 本当は違うけど、そっちはあえて言わない。


「ううんっ、そんなことない」


 慌てて手と首をふって否定するミラ。


「さあ、何をしてほしい? なんでも言ってみろ」


「……なんでも?」


「なんでも」


 尻以外は……は無粋だからやめた。


 ミラはもじもじする、ものすごく言いにくそうにする。


 なんだろ、そんなに言いにくそうにすることってなんだ?


 もしかして今すぐに子供がほしいのか?


 あり得る、母娘二世代奴隷を望む人種エターナルスレイブだからな。


「遠慮なく言ってみろ。一度約束した事だ、なんでもかなえてやる」


「じゃあ、いうね」


「ああ」


「不敬罪、やっぱり作って、ほしい……な」


 言葉が尻すぼみに消えていくミラ。


 きょとんとなるおれ、まさかそう来るとは。


「……」


「ご、ごめんなさい、やっぱり無――」


「それは大事なことなのか?」


「え?」


「大事な事なのかと聞いてる」


 真顔で聞いた、ミラはきょとんとして、真顔で頷いた。


「うん! ご主人様に逆らうのは許せないから」


 ……まったく。


 こいつらは……いやこいつらは……。


 はあ。


「わかった」


 おれはにこりと笑って、頷いた。


「ユーリアに言って、草案を作ってもらえ」


「いいの!?」


「なんでもするって言ったのだ。お前のご主人様は前言撤回するようなだめご主人様か?」


「ううん! そんなことない!」


 笑顔のミラ。


「ねえ、今すぐユーリアのところに行っていい?」


「ああ」


 頷いてやると、ミラは風のような速さで執務室から飛びだしていった。


 五分位して。


 ――魔力を2,000,000チャージしました。


 ユーリアまで大層喜んだらしかった。

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