王者の風
ブラガダリュー駅、ザハールと町民が列車の前に並んでいる。
夕日の中、列車に乗ってるのはおれ一人、この街で予定してた仕事を終わらせてこれから帰るところだ。
「今日はありがとうございました!」
ザハールが言うと、他のみんなも一斉に頭をさげた。
「王様に来てもらえるなんて……本当にありがとうございます」
「おれでも奴隷でもかわらんだろう」
「そんなことはありません! みんな王様が来るのを待ってますし、実際今日のみんなの働きはいつも以上でした」
「……一つだけいいか」
「なんですか?」
「ブラガダリューって連呼するのはいいけど、手を合わせながらのはやめてくれ」
「どうしてですか?」
ザハールはきょとんとした、後ろにいる町民達もきょとんとした。
「とにかくやめてくれ」
連呼するだけなら言葉通り感謝の言葉に聞こえるけど、手まで合わせられると途端にあれな感じになる。
ジーク・ジ○ンとか、そういう感じに聞こえてしまう。
「わかりました。王様がそう言うのなら」
「ならいい。また何かあったらいえ」
「はい!」
町長と町民に見送られて、列車が走り出す。
「ブラガダリュー・アキト」
「「「ブラガダリュー・アキト」」」
「ブラガダリュー・アキト」
「「「ブラガダリュー・アキト」」」
見送りの台詞がなんか進化してる気がしたが、気のせいだと思うことにした。
列車はすぐに指定された速度まで上がって、安定運転に入った。
この速度なら日が完全に暮れるまでにつけるだろう。
「メニューオープン」
DORECAを出してなんとなく眺めた。
カードの種別、国の人口、増減する魔力。
眺めてるだけで結構楽しかった。
実際に自分で色々作ってきたおかげで、数字の増減を見るだけで何がおこなわれてるのか何となく分かる。
300の魔力が短時間で二回連続減った。
「300? 万能薬か。ニーナが鼻血でも吹いたか?」
その光景を想像して、ちょっとクスってなった。
おれはもう慣れたけど、ミラ辺りが今でも鼻血シャワーの犠牲者になってるはずだ。
「早く慣れればいいのに」
ニーナのそれも、慣れたら結構かわいいって思えるようになる。
数字の増減を眺め続けた。
家が作られた、服が作られた、食糧がまとめて作られた。
数字が減ると国が大きくなった様に感じられて、ちょっと嬉しい。
一通り眺めて、DORECAをしまって、今度は窓の外を眺めた。
レールから離れたところはまだまだ荒野だ。
この辺りもそのうち開拓していかないとな。
「むっ」
ふと、離れたところの地面に人影を見つけた。
レバーを引いて列車を止める。
列車から降りて地面に倒れてる人に駆け寄っていく。
うつぶせで倒れてる、髪が長くてマントの様に全身にかかってる。
女か?
「おい大丈夫か」
呼びかけるか、びくりともしない。
行き倒れ? まさか死んでるのか?
「おい、しっかりしろ――なっ」
かけよって抱き上げる――瞬間驚愕した。
それは人じゃなかった。
丸太の上に服を着せて、黒い糸をかぶせて髪に見せた人形の様なものだ。
自然にできたものじゃない、明らかに人に見えるように作ったもの。
何故――まずい!
そう思った途端、地面がひかった。
おれ――人形を中心に魔法陣が展開される。
黒い輝きの、直径十メートルを超える魔法陣だ。
光がおれの体にまとわりつき、拘束してきた。
「罠か!」
「ひゃっははははは! かかった! 間抜けがかかったぞ」
声がきこえて、男が岩陰から現われた。
先頭にいるのが一人、その後ろに数十人。
服装はばらばらだが……全員見たことのある格好だ。
「マラートとマクシムの残党だ」
「おうよ、ミドロファン様だ」
ミドロファンって名乗る男はにやにやしながら近づいてくる。
魔法陣ギリギリのところで足をとめて、にやにやしておれをみた。
「言われた時はまさかって思ったけど、本当にきくたあな。まさかメスに見せかけた一匹でつれるたあ。王様のくせにやすっぽいな、おめえ」
「それより、なんでこんなことをする。復讐か?」
「復讐? 間抜けどものか?」
マラートとマクシムのことか。
「違うのか?」
「ばーか、あんなのどうだっていい。負けた連中が間抜けだったってことだ」
「まぬけ」
「あいつらは似たもの同士だったぜえ、ここだけが発達して、脳みそまで筋肉だらけだ。だからまけたんだ」
……こいつ。
「それよりも取引しようぜ」
「取引?」
「そうだ。リースの話だ」
「……ああ」
言われてようやく気づいた。
そうか、それ、こいつらの事だったのか。
マガタンの町が必要なリースを産地ごと押さえて、値段をつり上げてる連中。
そういえばあれもマラートとマクシムの残党だって言ってたっけ。
「王様よお、こっちもそんな大それた事を望んでるわけじゃねえ、飯のたねが欲しいってだけなんだ」
「だったらぼったくるのをやめればいい。普通に商売してる分こっちは手出ししない。」
「いやいや」
ミドロファンは芝居がかった仕草で首を振った。
「あいつらが見えるか王様よ。あいつらはな、おれについてきてるおれのかわいい部下なんだろ」
ミドロファンが背後を指す。そこにいる男達は全員にやにやしてる。
「おれはな、あいつらを食わしてやる義務があんだよ。王様の立場なら分かってくれるだろ? ん?」
「……おれにどうして欲しい」
「だからー、別にたいしたことは望んでないのよ。王様がはじめたリースの栽培をやめればいいんだ」
「いやだと言ったら?」
「ぎゃーははははは。王様よお、頭いいくせにそんなこともわからねえのか」
「この程度の魔法陣でおれに勝てるとおもってるのか?」
「強がるなよ。これはなあ、邪神戦争中に開発された対魔――」
「ぬうううううん!」
腰の真・エターナルスレイブに触って、DORECAから魔力を引き出して。
全身に絡みついてくる光に対抗する。
「ぎゃははは、むだむだ」
「うおおおおおおお!」
魔力をドンドン込める。
10……100……1000……10000……。
「お、おいお頭、これちょっとやべえんじゃねえのか」
「魔法陣がビシビシいってますぜ」
「それに――あいつ、動いてやがる」
部下の男達が口々にいった。
「ば、ばかな」
「うおおおおお!」
瞬間、雄叫びとともに魔法陣が砕け散った。
込めた魔力は、実に十万。
小さい町一つ作れるほどの魔力だ。
自信を持つだけはある、魔法陣はかなりの代物だった。
おれは剣を握って、ミドロファンとその部下の方を向く。
「で」
「……え?」
「いやだと言ったら?」
威嚇するようにいう。
「ま、魔法陣がなくたってこっちの方が人数が多いんだ。おいてめえら、やっちまえ」
ミドロファンの号令で男達が一斉に襲いかかってきた。
改めて数える、やつを入れて全部38人。
この程度、魔力を使うまでもなかった。
☆
「お帰りなさいご主人様――ってどうしたの血まみれだよ!」
リベックの駅でおれを出迎えたミラが目を見張って驚いた。
「そっちこそどうした血まみれで――ってそっちはニーナか」
「はい……また鼻血が……」
シュンと落ちこむミラ、まだ慣れてないようだ。
「って、わたしの事なんかどうでもいいの。ご主人様こそどうしたのそれ」
「たいしたことはない、ちょっとならずものに襲われただけだ」
「なーんだ、そんなことか」
途端に心配しなくなったミラである。
信頼の証なのは分かってるが、それはそれでちょっと寂しい気もする。
「それよりも、連中はレールの横に積み上げてきた。全員致命傷ははずしてある」
「え? まさか万能薬を届けるの?」
「そうだ」
やってくれるか? って目でミラを見る。
「ご主人様の命令ならやるけど……本当にいいの?」
「ああ」
「わかった、いってくる」
ミラは列車にのっていった。
その後ろ姿を見送る。
これに懲りてあくどいことはやめて、一緒に開拓して、世界を再生してくれる手伝いをしてくれるといいな、と思ったのだった。




