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開発力

 リベック郊外。


 そこで戦艦の建造が始まっていた。


 奴隷カードを持つリーシャとリリヤ、そしてお金で雇った国民達。


 それらが一体になって、戦艦を建築していく。


 あっちこっちで魔法陣が張られて、素材を入れられるたびに少しずつ完成していく。


 建造と言うより、でっかいプラモを作ってるように見える光景だ。


 それを、おれとマイヤが遠くから眺めていた。


「あれが出来たら、マイヤ、お前達が使ってくれ」


「あたいらがかい?」


「あれの運用は今のお前達のスタイルの延長線上にあるはずだ。ニートカはある、あっちこっち移動してる、必要になったら白兵戦もやる」


「なるほど」


「ついでに言えば、あの中には最低限の居住ブロックもある。アレを使えばお前達はもう野宿をしないですむ。テント暮らししなくてすむ」


「それは嬉しいねぇ」


「体はいたわれ。おれの子を孕むんだろ?」


「……そ、そうだね」


 マイヤは顔を赤らめて目を伏せた。


 しばらくして、ちらちらとおれをみながら、様子をうかがう口調で聞いてくる。


「あんた、なにがあったんだい?」


「なにがってなにが?」


「前とまるで別人じゃないか」


「別人?」


「だってあたいらがあんなに言ってたのにのらりくらりとかわしてたのに、急に自分からそれを言いだしちゃってさ。嬉しいけど……まるで別人だよ」


「なるほど」


 別人、か。


 そういえば女神にも似たような事をいわれたな。


「おれ自身なにも変わってないつもりなんだけどな」


「そんなことはないさ――いや」


 一変して、マイヤはにこりと笑った。


「それならそれで良いさ」


「いいのか?」


「そうさ。あたいらにとっては、みんなを孕ませてくれるかどうか、それだけが重要なんだからねえ」


「そうか。あれが出来たら、でいいか」


「ああ、みんなにも伝えとくよ」


 笑顔のマイヤと約束を交わす。


 戦艦完成が二重で楽しみになってきた。


     ☆


 宮殿の応接間。


 マガタンの町長、ゲラシムがおれに会いに来た。


「久しぶりだな。調子はどうだ?」


「アキトさんのおかげでみんな問題なく暮らせてるよ、ぼくも含めて、安定した生活を過ごさせてもらってる」


「そうか、それはよかった何よりだ」


「安定してるし、前に比べて豊かになった。ただ」


「ただ?」


「最近はお酒を飲んで、酔っ払って暴れ人も出てきたんだ。それで色々問題が起きてるんだ」


「酒か」


「うん。マガタンは元々酒作りで有名な町だったんだよ。知ってる? 『嫁入り道具』ってお酒」


「なんだそれは?」


 酒にしては微妙にださいぞ、名前が。


「すごく昔の風習なんだけどね、その家に女の子が生まれると同時に酒を造っておくんだ。その女の子が成長して他の家に嫁いでいく時に取り出して嫁入り道具にするんだって。女の子が嫁に行く位の年月熟成させるから、相当美味しくて、かなり貴重だったって話だよ」


「へえ。なるほど、女の子が嫁に行くくらいの時間をかけて作ったらうまい酒になりそうだ」


「うん。で、それがちょっと変化して。醸造と保存の方法だけで、一年から数年間かけて作ったのが『嫁入り道具』。普通に商品としてあるんだ」


「なるほど」


「それを最近また作り始めて、徐々に出回りはじめてるんだけど……問題が二つ。一つはさっき言ったように、お酒を飲んで暴れ回る人が出たこと」


「それは素晴しいことだな。余裕が出たって事でもあるんだから」


「アキトさんがそんなことを言っちゃだめですよ」


「わかってる。取り締まりはちゃんとしておけ」


 おれ個人として喜ばしく思うのと国家運営は別の話だ。


 取り締まりはさせるが、思う存分酔っ払える生活の基盤を構築する。


 両方をやらないといけない。


「で、もう一つの問題は?」


「そのお酒はリースっていう植物から作られるんだけど、それって特定の場所にしか生えてないものなんだ。栽培はすごく難しくて、自生してるものをとるしかないんだ」


「なるほどね。まあそういうものもあるわな」


 元の世界でいうとウナギみたいなものか。


「その場所が最近占拠されたんだ」


「占拠?」


「うん、占拠。マラートとマクシムの部下だった人たちがそこを占拠したんだ。最後までアキトさんに反発して出てった人たち」


「その残党が合流したのか」


「うん。それでものが欲しいなら買えって言ってきてるんだけど……」


「あり得ない値段でもつけられたか」


 頷くゲラシム。


 なるほど、そういうことか。


 大体わかった。


     ☆


「調べてきたよ」


 数日後、やってきたマイヤと執務室であった。


「ご苦労。早速だけどどうだった」


「ひどいもんだねえ。連中、がっちがっちに武装してあの辺を占拠してる」


「そうか」


「リースってのかい? あれは全部押さえられたと言っていい。見回りがものすごく厳重でねえ、こっそり盗むのも一苦労さ」


「つまり向こうの言い値で買うしかない、って状況か」


 頷くマイヤ。


「話もしてきた。とんでもない高飛車だったね。『高いと思ったら買わなくてもいいんだぞ』ってさ」


「ま、当たり前の反応だな」


「あんな値段で買ってたら酒の値段が大変な事になる。言われた値段だと、酒一杯が300エンから3000エンくらいに上がる計算だよ」


「それはまずいな」


 DORECAで作る貨幣「エン」は額面が紙幣で一万と五千と一千、硬貨が500、100、50、10、5、1と、日本円と同じと言うことで、大体の物価を日本と同じようになってる。


 酒一杯が3000エンまで上がったら大変な事になる。


 酒は嗜好品・贅沢品だからおれが直接作る事はないが、このケースは捨て置くわけにも行かない。


「アキトが乗り込めばすぐに解決するだろうけど、ここはあたいらにまかせとくれよ。連中の戦力もばっちり調べてきた。殲滅するのもわけないよ」


「いや待て」


「うん?」


「力で奪ったりはしない。それをやったらマラートとマクシムと同じ穴のムジナになる」


「しかし今のままじゃ値段は向こうの言いなりだよ」


「独占できた人間の特権だ、それは仕方ない」


「じゃあほっとくってのかい?」


「そうは言ってない。ようは独占を崩せばいいんだろ」


「そうさ、だからあたいらがあそこを奪って」


「王様!」


 力で解決すると力説するマイヤ、そこにニーナが飛び込んできた。


 鼻血吹いたまま飛び込んできた、ちょっとしたホラーだ。


 が、今はその鼻血が頼もしい。


「その表情だと出来たみたいだな」


「うん! ボク、王様に言われたリースっていうヤツの作り方を見つけたんだ」


 ニーナの背後に協力に行かせたミラがついてきた、そのミラがはっきり頷く。


 おれはDORECAを取り出し、メニューを開く。


 そこには、ニーナが開発したリースの名前があった。

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