奴隷の喜び、奴隷の悲しみ
リーシャを連れて、エルーカーの毛を回収しに行った。
「こんなにいっぱい……全部ご主人様が?」
「ああ」
「すごいですご主人様」
「お前のおかげだがな」
「え? わたし、何もしてませんよ」
「いや、エルーカーを楽に倒せたのはこれのおかげだ」
そう言って、エターナルスレイブを掲げて見せた。
エターナルスレイブ、リーシャの髪から作った、リーシャの笑顔の魔力で威力を発揮する剣。
一匹で数時間苦戦するようなモンスターをザコのように狩れたのは間違いなくこの剣のおかげ、だからリーシャのおかげだ。
はにかむリーシャ、まんざらでもない顔だ。
――魔力が2500チャージされました。
ついでに魔力もチャージされた
「よう、久しぶりだな」
声が聞こえて、振り向く。
そこに聖夜と彼の奴隷がいた。
エターナルスレイブ族の奴隷に首輪をつけて、リードを引いている。
まるっきり「奴隷」扱いだ。
……そっちの方が正しいのかなあ。
そんな事を考えながら、おれは返事をした。
「久しぶり」
「どうよ、調子は」
聖夜はにやにやしてきいてきた。
その顔は知ってる、自慢したくてたまらない人がよくする顔だ。
「ぼちぼちかな。とりあえず素材を集めてる最中だ」
「素材ってそれか? そんなものを集めてどうするんだ」
そんなもの、か。
「まあ、色々とな。そっちはどうなんだ?」
「順調だぜ。そうだ、お前にいいことを教えてやるよ」
「いいこと?」
「アイテムを作る時さ、できあがった物が違うものの素材になる事があるんだぜ。例えばこの鉄の剣」
聖夜はそういって鉄の剣をおれに見せた。前におれが作ったのとまったく同じものだ。
「これな、銅の剣から作ったんだ」
「そうなのか」
ちょっとビックリした、違う意味で。
おれのその反応に気をよくして、聖夜は更に言った。
「先に銅の剣を作ってから、それを使って鉄の剣を作った方が素材節約出来るぜ? ま、魔力は多めにかかるがな」
「なるほど」
納得出来る話だ。
手間と魔力を多めに使って素材を節約する。
言われてみれば当たり前の話で、多分逆もあるんだろう。
「魔力を大量に持ってないと出来ない芸当だが」
「そうだな」
「ま、魔力なんていくらでも搾り出せるから、問題ないけどな」
聖夜はそういうなり、いきなり自分の奴隷を蹴っ飛ばした。
蹴っ飛ばしたが、リードは引いたまま。そのためリードが奴隷の首をしめあげる結果になった。
奴隷が苦しむ、そして涙がおちる。
おれの横にいるリーシャも悲しそうな顔をした。
エターナルスレイブの二人が目を合わせて、ますます悲しそうな顔をした。
「お?」
「どうした」
「普段より多く魔力チャージしやがったこいつ。この一発だと普段だと200なんだが、今ので250入ったぞ」
お、おう……。
「見られるのがいやなのか? んん」
聖夜はにやにやして奴隷を見た。まるっきりドSな顔だ。
「そ、そんなことありません」
「ないのか? んん?」
「はい、ありませ――」
「靴を舐めろ」
最後まで言わせることなく命令を下す聖夜。
奴隷は涙しながら、それでもし聖夜の靴を舐めた。
聖夜はそれを見て、満足げな、ゆがんだ笑顔を浮かべる。
「くくく、やっぱりそうだ、見られると普段の3割くらいは増えるぞ。今ので300増えた」
「……もうその辺にしてやれ」
「なんだ、奴隷に同情か? そんなことじゃこの先やっていけないぞ」
「……」
「まあいい、またな」
聖夜は奴隷を連れて立ち去った、最後まで勝ち誇った顔で。
……なんだかなあ。
まあいい、さっさと毛を集めて帰ろう。
そう思ったおれだが、リーシャがじっと聖夜達の後ろ姿を見つめている事に気づいた。
その目はさっきとちょっと違った。さっきのは悲しそうだったけど、今はどちらかというと羨ましそうな目をしてる。
オモチャ売り場で他の子供がオモチャを買ってもらうのをじっと見ている子供のような目だ。
「リーシャ」
「え? ごめんなさいご主人様。すぐ素材を集めます」
「それはいいけど、なんで彼らをみてたんだ?」
「え? そ、それは……」
リーシャはもじもじして、言いにくそうにした。
「く、首輪が」
「首輪?」
「首輪、いいなあ、って」
「……首輪がほしいのか」
「はい……」
頷いて、そのままうつむいてしまうリーシャ。
言ってから恥ずかしくなった、そんな顔で。
本当にほしがってるみたいだ。
「本当にほしいのなら作ってやるぞ」
「本当ですか!」
顔をパッとあげて、きらきらした目で見つめてきた。
これはもう……聞くまでもないな。
メニューを開いて、首輪を選んで魔法陣を作る。
「じゃ――」
「ああ、リーシャはここで待ってろ」
「え?」
「せっかくだからおれが作ってやる」
そこにリーシャを待たせて、おれは矢印がしめす方向に向かって走り出した。
素材は三つ、ビクってモンスターの皮と、宝石の原石、そして白毛虫の毛。
素材を揃えて、魔法陣に投入して、首輪ができた。
真ん中に宝石がはめ込まれてる、ちょっと豪華な感じの首輪だ。
それをリーシャにつけてやると、彼女は嬉しそうに、愛しげにそれを撫でた。
「ありがとうございますご主人様!」
首輪をつけたリーシャは、対照的な笑顔で大いに喜んだ。
――魔力が10000チャージされました。
聖夜より、大分多くチャージした。