結婚首輪
――魔力を1,000,000チャージしました。
「本当なの!?」
リリヤと入れ替わりに戻ってきたミラが食いついた。
「ああ本当だ。お前の子供もおれの奴隷にしてやる。不満か?」
聞き返したが、我ながらわざとらしかった。
既にミラから返事はもらってる。かくしようのない心からの返事。
案の定、強い肯定が返ってきた。
「ううん! そうしてほしい! わたしの娘もご主人様の奴隷にして!」
何度聞いても危ない字面だな、彼女達エターナルスレイブの台詞は。
だが、悪くない。むしろ――いい。
それがいい、とおれは思う。
「……」
ミラがぽかーんとなった。
どうしたんだろう、と思って顔をのぞき込んでると。
「……うへ、うへへへ」
「ミラ?」
「子供も奴隷、ご主人様の奴隷、親子二代で奴隷」
顔を押さえて、ニヤニヤし出した。
「うへへへ……」
よっぽど嬉しいんだろうか、ミラは全力でにやけてる。
正直街中でみたらちょっと引くくらいのにやけっぷりだ。
ま、自分の事だから悪い気はしない。
「そうだ!」
我に返って、おれに詰め寄る。
「ご主人様、他のみんなは?」
「他のみんな?」
「他のみんなだよ!」
強く訴えてくるミラ。
首輪と、輝く水色の宝石が目に入った。
ああ、みんなか。
「もちろん同じようにする」
「本当に!?」
「みんなおれの奴隷なんだ、当たり前だろ?」
――魔力を2,000,000チャージしました。
「やった」
「お前らっていいな」
「え?」
「いやこっちの話」
「……うん」
わからないけど、とにかくわかった、って顔をするミラ。
「そっか、みんな一緒かあ」
「ああ、リーシャにユーリア、それとリリヤ。これから賑やかになるな」
一気に増える奴隷達を想像して、結構楽しくなってきた。
「え?」
「え? どうした」
ミラがまた唖然となった。
目を見張っておれをじっと見つめてる。
「ねえご主人様。いま……なんて言ったの?」
「賑やかになる?」
「その前……」
「その前? リーシャにユーリアにリリヤ、三人の名前を挙げたところか?」
「うん……」
ちょっと落ち込むミラ。
もしかして自分の名前が出てない事におちこんでるだろうか。
いや話の流れからしてミラプラス三人ってのはわかるはずなんだが。
「ねえ、ご主人様」
「なんだ? 言っとくけどお前も入ってるぞ」
「そうじゃなくて」
魔力はチャージされなかった、ミラは真顔でおれを見つめた。
「ライサは?」
……ああ。
そういうことか。
☆
夕方、おれは浜辺で海を眺めていた。
静かな波を眺めながら、ライサの事を思う。
ライサ、暫定で五人目の奴隷。
彼女に関してはちょっと難しかった。
「メニューオープン」
DORECAを出して、メニューを開く。
ステータスにある奴隷は5人、魔力は一秒に1ずつ増えてる。
普通に考えると、ライサも立派なおれの奴隷だ。
それが今まで意識の外に置いてきた。
聖夜の奴隷だった、と言うことでそうした。
首輪も与えず、気持ちでは一時的に預かってるに感覚だった。
魔力の量をみた。
エターナルスレイブの娘もエターナルスレイブ。
奴隷の娘も……奴隷にする。
その約束だけで魔力が四百万も増えた。
笑顔で魔力チャージ。
奴隷達は喜べば喜ぶほど魔力をチャージする。
魔力ってあるけど、おれの目には「好感度」も同然だ。
エターナルスレイブはそれを喜ぶ。
ご主人様からの命令なら過労すら名誉になる。
娘と一緒に奴隷になるのは更に名誉と感じる。
それは――ライサも一緒だろう。
聖夜の元にいたときのライサを思い出す。
数百程度しかチャージされない魔力。
そうやって魔力を絞って、ぼろぼろにされて、挙げ句の果てには捨てられた。
むかむかしてきた、ものすごくむかむかしてきた。
聖夜にむかついた。
「ミラ、リリヤ」
いつの間にか背後に感じた二つの気配に呼びかける。
「うん!」
「はいですの」
DORECAを持ったまま、魔法陣を出す。
「首輪の素材、今すぐ集まるか?」
「うん!」
「もちろんですの」
「やれ」
――魔力を100,000チャージしました。
――魔力を100,000チャージしました。
遠ざかっていく足音、チャージされた魔力。
「悪いな、聖夜」
静かな波を眺めながら、おれは全てを奪う宣言をする。
「お前より、おれの方がご主人様としてふさわしいみたいだ」




