思いやり奴隷
「自爆スイッチの生産が間に合ってない」
執務室の中、ユーリアがおれに報告してきた。
「自爆スイッチ?」
「そう。DORECAで確認する」
DORECAを取り出して、メニューを開けて作成リストをチェック。
ユーリアが言った『自爆スイッチ』と言うのをすぐに見つけた。
動画がその横に流れる。
ドクロマークが入ったスイッチ付きの箱だ。
「ああ、ニーナが開発したあれか」
動画の中でスイッチが押されて、巨大な建物が一瞬にして消え去った。
自爆って言うか、なんていうか。
だが、話はわかった。
「これの生産が追いついてないんだな」
ユーリアは頷く。
「どれくらい足りないんだ?」
「これくらい」
チョークで黒板に書いた。
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衣 ■■■□□
食 ■■■■□
住 ■■□□□
爆 ■■■■■■■■■■
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わかりやすく足りなかった!
五段階がマックスなところをぶち抜いての十段階需要だ。
「相当足りてないんだな」
「一家に一台、だから」
「……ああ、確かに」
自爆スイッチという名前らしからぬ言い方だが、確かにその通りだ。
消火器扱いのものだから、理想を言えばおれが作った全部の建物にそれをつけたい。
そりゃ需要もウナギ登りだ。
「で、必要素材は……げっ、なんだこりゃ」
驚いた、ついでにげんなりした。
自爆スイッチ、それが要求してきた素材はちょっとひどかった。
サソリのしっぽ×1
エルーカーの毛×
ラーバの魂×1
「オールスターかよ」
今までに使った素材の中でも比較的レアなものばかりだ。
それらは取りにくく、在庫も少ない。
「なるほど、生産が追いつかないってのはこれが理由だったのか」
おれは納得した。
DORECAと奴隷カードを使った生産は基本的に追いつかない事はないんだ。
魔力を使って魔法陣はって、そこに必要素材をぶち込めばノータイムでできあがる。
魔力は無限にある。
奴隷を愛でてれば魔力は泉の様に沸いてくる。
ネックは、素材の不足しかない。
「よし、じゃあ狩りに行くか」
そう言って、剣に手を伸ばした。
素材が足りないのなら狩ればいい。
今までそうしてきたし、これからもそうしていく。
「それなら、大丈夫」
「うん? 大丈夫ってどういう事だ?」
「ラーバは親衛隊が討伐に行った」
「マイヤたちが?」
「さそりはカザンに大量にある、今はこんでもらってる」
「普段から狩ってるのか、あいつら。流石戦闘民族だな」
「エルーカーは、リグレットたちが『買ってくれ』って言ってきた」
「外貨目当てか」
頷くおれ。
あれ? って事は……。
「おれがする事ってもうないのか?」
ちょっとがっくりきた。
いやまあ、こういうものなのかもしれない。
国の運営が上手く行ってる、いちいちおれが動かなくてもいい。
そういうステージに入ってるんだな。
嬉しいような、寂しいような気分だ。
「ご主人様ができること、ある」
「うん? なんだ」
今の話で、おれが動く余地なんてあったっけ?
☆
自作のビーチ、ホテル代わりの建物の最上階におれはいた。
窓から外を眺める。そこから見える海は前に来たときと変わらない。
いやむしろ、南国感が増して、より一層バカンス気分が味わえる場所になったように思える。
「ご主人様!」
「おにーちゃん」
ドアを開けて、ミラとリリヤが入ってきた。
奴隷の二人は褒めて欲しそうな顔でおれのところにやってきた。
「イリヤの泉作ってきたよ」
「おにーちゃんの言うとおりにしましたの。景観を損なわないようにいろいろカモフラージュもつけましたの」
「そうか、よくやった」
二人を褒めて、頭を撫でてやった。
――魔力を8,000チャージしました。
――魔力を10,000チャージしました。
おれの仕事、それはここで二人を可愛がる事だった。
「建物分の自爆スイッチだと、魔力が足りない」
とユーリアに言われたからだ。
確かにそうだ。
今までに作った建物に行き渡るほどの自爆スイッチを作るっていうのは、今までに使ったのと同等くらいの魔力が必要ってことだ。
魔力を増やすのはものすごく重要な仕事で、こっちはおれにしかできない仕事だった。
そしておれに可愛がられる役目はミラとリリヤに決まった。
「順番だから」
というのはユーリアがいった理由。
リーシャは既にきた、順番的にはこの二人が妥当だと言うこと。
第二奴隷ミラ。
第四奴隷リリヤ。
自分をすっ飛ばしたのはいかにもユーリアらしかった。
彼女は魔力のチャージが難しい。感情が昂ぶることが少ないからか、まったくチャージしないか、一遍にどーんとチャージされるかのどっちかだ。
つまりはばくちだ。
その性質を自分で把握してるみたいだ。
今は確実に魔力が欲しい、それで自分をはずした。
そんなユーリアが愛しくてたまらない。奴隷らしい健気さがたまらない。
「どうしたのご主人様?」
「どこかお加減が悪いんですの?」
ユーリアの事を考えて黙り込んでると、二人が不思議そうにおれの顔をのぞき込んできた。
「ミラ、リリヤ」
「はい?」
「何ですの?」
「これからしばらくここでバカンスを楽しむが、一つ命令を先に言い渡しとく」
「「はい」」」
声を揃えて頷く二人。
おれはそんな二人に言った。
「戻ったとき、ユーリアが喜ぶなにかを考えておくこと」
二人は驚いたが、それが徐々に喜びに変わる。
「お土産でもいい、土産話でもいい。なんでもいい、とにかくユーリアが喜ぶものだ。それを考えとけ」
「――はい!」
「わかりましたの!」
――魔力を20,000チャージしました。
――魔力を30,000チャージしました。
「ご主人様すごいなぁ、ここにいない奴隷の事も気にかけてくれるなんて」
「流石ですの、世界一のご主人様ですの」
そんな事を話す二人の奴隷だが、おれからすれば二人の方が流石だった。
魔力のチャージ量。
二人とも、自分の事よりもユーリアの事を喜んでくれた。
それが健気で、かわいかった。
「お前らってかわいいよな」
――魔力を5,000チャージしました。
――魔力を5,000チャージしました。
本当、かわいい奴隷達だった。




