鼻血の錬金術師
リベックの町、最初に作った公園。
そこに、待ち合わせの相手が既に来ていた。
「会いたかったです王様プーー」
おれの顔をみるなり小走りでやってきたニーナが途中で鼻血を吹いて、そのままの勢いでヘッドスライディングした。
いきなりの事で反応できなかった、鼻血を出して顔から地面に突っ込むニーナを見て困った。
「えっと……」
「らいひょうふれふおうはま!」
「いや大丈夫じゃないだろ……とりあえずこれ飲んどけ」
常備してる万能薬をニーナに渡した。
受け取って、ごくごくと一気に飲み干す。
怪我や病気をあっという間に直してしまう魔法アイテム、万能薬。
それはもちろんニーナにも効いた。
「ありがとうございまプーーーー」
直った直後からまた鼻血を吹く、クジラの潮吹きの如く大量に赤い血をまき散らした。
「ごめんなさい王様、ボク王様と会うの久しぶりだったからつい」
「いいからいいから、とりあえず落ち着け、な」
「うん!」
また鼻血を吹いた、わかってない。
「とりあえず深呼吸してみろ」
「わかりました!」
スーハースーハーと深呼吸した。
「……落ち着いたか」
「はい!」
全然落ち着いてなさそうだが、鼻血は止まったしとりあえず良しとするか。
「それで、ミラから話を聞いたけど、消火用のアイテムを開発したみたいだな」
「はい!」
「どんなのだ?」
「これです!」
ニーナからそれをもらった。
小さな四角い箱、その上に乗っかってる丸くて赤いボタン。
そして、どくろマーク。
「……これは?」
「それが消火用のアイテムです」
「いやこれってどう見ても」
……アレだよな。
「これをこうするんです」
ニーナはそれを受け取って、近くの民家に駆けていった。
ノックをして、出てきた住民に何かをいう。
おれの方をさして何か言ってる。
住民は頷く、何かを受け入れたのか?
ニーナは隣の家にもノックして、同じように出てきた住民に交渉した。
何をするつもりなんだ?
しばらくして、ニーナが戻ってくる。
「交渉終わりました王様」
「交渉? 何をするつもりなんだ」
「みててください」
ニーナが再び戻っていき、交渉した二軒の家のうち、片方にさっきのスイッチつきの箱を取り付けた。
そしてもう片方の家に――火をつけた!
そして戻ってくるニーナ。
「おいおい、何をするつもりなんだ?」
「消火です、実際に試した方がわかりやすいと思います」
「そりゃそうだが」
ニーナが交渉した住民達をみる。
目が合った苦笑いをされてしまった。
そりゃ……苦笑いもするよな。
後で建て直してやらんと。
そうしてるうちに火がますます燃え上がった。つけた方の家はもう手の施しようがないくらい炎上してる。
もう片方の家にも延焼する勢いだ。
「やりますね」
「ああ」
ニーナが取り付けた装置の方に向かっていった。
さて、そのスイッチを押したらどうなるんだ?
ちょっと期待して、それを見守った。
ニーナがスイッチを押す。
次の瞬間、家が砕け散った。
光の粒子になって立ち上っていき、元から存在してなかったかのように綺麗さっぱりなくなった。
立ち退きされた住民達がそれを見て「おお」と歓声を上げた。
ニーナが戻ってくる。
「どうですか王様! ボクが見つけた王様のアイテム」
「えっと、どういうことだ?」
「ほら! あれで燃え移らないですよ」
得意げになって燃えてる家を指す。
ああ、なるほど、破壊消火か。
「第二奴隷様から聞きました、もし火事になったとき王様か、奴隷様のどっちかいないと対処できないって」
「……ああ、そんな事いったな」
「なのでこれがあれば大丈夫です! 色々試して見ました、これは王様たちが作ったものだけを壊すアイテムです! 他の物は壊れません! これを大量につくって皆さんに配れば火事の心配がなくなります!」
「……」
おれは苦笑いした。
なるほど、そういうアイテムで、そういう用途か。
アイテムの外観も、いきさつも全部わかった。
それでも苦笑いを禁じ得ない。予想、期待してた物と違うからだ。
「どうですか王様!」
ニーナはキラキラした目でおれを見つめた。
ボクガンバったよね、褒めて褒めて、っていう目だ。
とりあえず、これはこれですごい、そして便利で使いでのあるアイテムだから、発明ニーナを褒めてやることにした。
「よくやったなニーナ」
「ボク、王様のお役に立てた?」
「ああ、よくやった」
「――やったぁ、王様のお役に立てたプーー」
興奮してまた鼻血を吹いた。
ヘタに褒めちゃだめな子だな、ニーナは。
ニーナは手慣れた様子で止血して、更に話しかけてきた。
「あの、王様」
もじもじして、おれを見あげるように言ってくる。
「どうした」
「ボク、頑張ったよね。お役にたてたよね」
「ああ」
それは間違いない。
「じゃ、じゃあ……」
「うん?」
「王様のメダル……ボクも欲しいな」
「メダル?」
「うん、ご褒美のメダル……」
消え入りそうな声でいう。
「これの事か?」
何個か常備するようになった折り紙のメダルを取りだした。
瞬間、目を輝かせるニーナ。
「それです!」
……こんなのでいいのか?
「じゃあ、ほら」
ニーナに渡す。
「やったあああ!」
ものすごく喜んだ。折り紙のメダルを抱えて踊り出した。
そんなに嬉しい物なのか、それ。
「ありがとうございます! 王様。これ、ボクの家宝にしますね!」
「お、おう」
そこまで喜ばれるとちょっと困る。
大したものじゃないのに。
……でも、悪い気はしない。
「家宝にしなくていい」
「えー、でも――」
「その代わり、もっと色々発明してくれ。いいものができたらまたくれてやる」
「――うん!」
ニーナが頷く、満面の笑顔で頷いた。
「ボク、もっともっと、もっともっと頑張るプ――」
興奮しすぎてまた鼻血が出た。
なんか、鼻血吹いてる姿の方がかわいく見えてきた。




