表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔で魔力チャージ~無限の魔力で異世界再生  作者: 三木なずな
第十章 ブラックとノーマル
84/172

わたしたちは水が足りない

「だれかいないか」


 執務室から外に呼びかけた。


 奴隷五人の内誰かが入ってくるかと待ってたが、いっこうに誰も入ってこない。


「おーい、誰もいないのか?」


 もう一度呼んでみた、やっぱり誰も来ない。


 珍しいな。普段は呼べば誰かしら来るんだが。


 ドアを開けて、廊下に出た。


 もう一度呼んだ、返事はやっぱりない。


 ……。


 いや、気配は感じる。


 一人だけど、宮殿の中に確かに奴隷の気配を感じる。


「寝てるのか?」


 やって欲しい仕事があるから、おれはそいつを探しに行った。


 気配をたよりに廊下を進む。


 やってきたのは建物の端っこ、太陽の光がほとんど届かない薄暗いところだった。


 そこに気配を感じる、誰かがもそもそやってるのを感じる。


 目をこらして、じっと見つめる。


「……ライサか」


「――!」


 その奴隷はびくっとした。


 振り向く、やっぱりライサだ。


 奴隷の中で一人だけまだ首輪をつけてないライサだ。


「んぐ――」


 こっちを振り向いたかと思えば、ライサはいきなり苦しみだした。


「おいどうしたっ」


 喉を押さえて、胸をトントン叩く。


 何かが喉につまった様子だ。


 よく見ると、彼女の足元にプシニーがおちてる。


 それでか。


「メニューオープン」


 取りに行くよりもこの場で作った。


 水はないから、ジュースを魔力で緊急生産。出来たそれをライサに渡す。


 受け取ったライサ、苦しそうな顔のまま迷う。


「いいから飲め」


 強めに命令してやると、ようやくおずおずとジュースを飲んだ。


「――ぷはぁ!」


 喉につまったのを流し込んで、ようやく人心地って感じのライサ。


「ごめんなさい……」


「かまわん。というかこっちがいきなり背後から声をかけたんだからな。お前は悪くない。ていうか……」


 落ち着いたから、改めて状況を見た。


 ライサの足元にプシニーが転がってるが、よく見れば食べかけの一つの他に、5つが転がってる。


「なんでそんなにあるんだ?」


「……」


 ライサの顔が赤くなった。ゆでた蛸のように一気に赤くなった。


 恥ずかしいのか? ……もしや。


「た、食べるから」


「……全部か?」


「はい……」


「5つもか?」


「いいえ」


 申し訳なさそうな顔のまま首を横に振った。


「もう……半分食べてます」


「十個もか!?」


 盛大に驚くおれ、それでライサはますますうつむいてしまった。


 プシニー。


 魔力で作られるものの中でもっとも代表的な物、おれの中じゃ戦略物資認定してるほどの物だ。


 味がまったくしないほどまずいが、超低コストで生産できる上、一個で人間一人の一食をまかなえる程腹が膨らむのが特徴だ。


 少なくとも、今まで食べて「まずい!」っていう人はいても、「足りない」っていうのはいなかった。


「ごめんなさい、ご主人様のカードで勝手に作って食べてました」


「うん? ああそれは別にいい」


 奴隷カードで自分で作ったのか。


 そんなの、魔力10しか消費してないし、まったく問題はない。


「……とりあえず、それ持ってついてこい」


「……はい」


 歩き出すおれ、ライサは残ったプシニーを持ってついてきた。


 来た道を引き返して、応接室に入る。ソファーに座って、ライサにいう。


「そこに座れよ」


 無言でおれの向かいに座るライサ。


 悪いことをして見つかった子供のような顔をしてる。


「メニューオープン」


 ジュースをもう一回作って、テーブルの上に置く。


「ほら」


「え?」


「それ飲みながらゆっくり食え、喉つまらせないように気をつけろ」


「いいんですか?」


「いいから食え」


 ライサはおずおず頷き、食べかけのプシニーを食べ出した。


 ジュースを飲もうとしない、遠慮してる。


「ジュースも飲め」


「でも……」


「奴隷なのに命令に逆らうのか? んん?」


 ちょっと強い口調で言った。


 もちろん怒ってはない、こんなので怒る訳がない。


 むしろちょっと楽しい、遠慮する奴隷を無理矢理愛でてやる事に楽しさを覚えてる。


 案の定、「命令」って言われたライサはさっきとは違う表情をした。


「は、はい!」


 といって、慌ててジュースを取って、一気に飲み干した。


 おれは笑いをこらえた。


 一気に飲んでしまったんじゃ意味ないだろ。


「飲みました」


「……残りも食べろよ」


「は、はい! ――んぐっ!」


 慌てて食べる、案の定また喉をつまらせた。


 DORECAを出して、三杯目のジュースを作る。


 それをライサの前に置いてやる。


 ためらいは一瞬、今度は言われる前に取って、飲んだ。


「ぷはぁ……」


 落ち着くライサ。


 プシニーとジュース、そしておれ。交互に見比べて、泣きそうな顔をした。


 やばい、なんか楽しい。


 DORECAを取り出して、魔法陣を張った。


「ライサ、これを今すぐ作れ」


「はい!」


 ライサは立ち上がり、慌てて駆け出した。


 応接室から出て行く瞬間にちらっと見えた横顔はほっとしたような、嬉しそうなものだった。


 エターナルスレイブによくある、命令されて嬉しそうにするって顔だ。


 しばらくそこで待った、ライサが素材を取ってきた。


 それを魔法陣に入れる――物ができあがる。


「これって……ケーキ?」


「ああ」


 ケーキがテーブルを埋め尽くした。ちょっとしたケーキバイキング状態だ。


 きょとんとするライサ。


 おれは彼女が食べかけたプシニーを取り上げて、ケーキを指した。


「ほら、こっちを食えよ」


「で、でも」


「ご主人様の?」


「は、はい!」


 ライサは慌てて、座って、ケーキを食べ出した。


 ケーキはかなりの量だ。


 残ったプシニーは4つ、ケーキは四人前で作った。


 ライサはそれを食べながら、ちらっちらおれの事を気にしてる。


 申し訳なさそうな顔だ。


 おれはDORECAをだして、ステータスを確認。


 普段は一秒につき1チャージしていく魔力が、一秒ごとに3くらいのペースになった。


 よしよし、喜んでるな。


 表情は申し訳なさそうだけど、しっかり嬉しがってるみたいだ。


 奴隷は愛でるもの。彼女の喜ぶポイントが少しは見えてきたみたいだ。


「あっ、ここにいたんだご主人様!」


 ドアを開け放ってミラが入ってくる。


 焦った顔だ。


「ライサは食ってろ。どうした」


 立ち上がって、ミラに向かっていく。


「火事です! 町の方で火事が」


「火事だと?」


 確かに大変だ。


「状況は?」


「えっと、住んでる人は逃げたんだけど、家が密集しすぎてるところでまわりに燃え移りそうな勢いなの。どうしようご主人様」


「そうだな……おれがお前を真・エターナルスレイブに取り込んで――ああいや」


 水の剣の力を使おうと思ったが、別の方法を思いついた。


「お前が消してこい」


「え? でもわたし――」


「『解体』を使え。住民は全て避難してるな? 燃えてる建物のまわりも」


「うん!」


「ならそのまわりを解体したらそれ以上の延焼はなくなる。それで火が消えるはずだ。消えたら作り直せ」


「そっか! うん、いってくる!」


 奴隷カードを駆使した破壊消火を理解したミラが戻ってきた時と同じ勢いで走り出した。


 火事か、今回はそのやり方でいいけど、なんか違う方法をこれから考えていかないとな。


 おれはそんな事を考えつつ、振り向いた。


 そこに見えた光景に言葉を失う。


 ケーキを一掃したライサが、なんとまた喉をつまらせて、物音をたてないように胸をトントン叩いていた。


 手に持ってるのはプシニー。


「おいおい……」


 ジュースを緊急生産して、渡す。


 ライサは受け取って、飲む。一息つく。


「ご、ごめんなさい!」


「いいけど、足りなかったのか?」


「そうじゃないんですけど……」


 もじもじして、口籠もるライサ。


 じろっと睨んでやると、観念したように話し出す。


「ご飯は別腹だから……」


「……ぷっ」


 こらえず、吹き出した。


 五人目の奴隷、ライサ。どうやら結構面白いヤツのようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ