支援or侵略?
「ふう、これで三匹目、と」
町から相当離れた荒野、ドラゴンの巨体が崩れ落ちていく。
真・エターナルスレイブから、念のために連れてきたユーリアを解放する。
「す、すごい……」
背後からスベトラーナの驚嘆する声が聞こえてきた。
念のため、というのは彼女の事だ。
どうしてもついてくると聞かないから、いざって時なんとかできるようにユーリアを連れてきた。
ユーリアが真・エターナルスレイブの中にあれば色々と先読みできる。
まわりの人間を守るのに適した能力だ。
「それで、これをどうするのだ?」
「まってろ」
ドラゴンを解体して、竜の血を手に入れる。
DORECAを取り出して、魔法陣を張って、竜の血を投入。
すると、札束ができた。
単位を「エン」にした、おれの国で流通してるお金だ。
「すごい……」
またまた驚嘆するスベトラーナ。
「そんなにいちいち驚いてたらキリがないぞ。
「いや、しかし」
「それよりも、ほれ」
札束を一つ取って、彼女に放り投げる。
慌ててキャッチする。
「それが欲しかったんだろ」
「あ、ああ」
頷くスベトラーナ。
「しかし……これは、うーん」
スベトラーナは困っていた。
「どうした」
「頼んでおいてなんだが、これはものすごく貴重なものではないのか? その、ドラゴンで作るのだから」
「なるほど」
スベトラーナの言いたいことはわかった。
彼女が持ってきた女王の親書は交易を頼む物だが、その理由は国内の貨幣事情にあった。
どうやら国を作った後貨幣を造ったらしい。
それも中世の様な、銅貨、銀貨、金貨という形でだ。
それを作ったのはいいが、そもそも再生途上のこの世界で、普通の手段で硬貨を作るとかなりのコストがつく。
銅貨でさえ――一枚当たりおれの国での一万円以上の価値を持つ。
大口の取引にしか使われなくて、ほとんどが国民の家に眠ったまま。
高いコストを払って採掘して、鋳造までしたのに使い物にならない。なるには更にコストをかけて大量に生産しないと行けない。
そんな余力が国のどこにもない。
そこで聞きつけたのが、おれの国のお金だ。
今、世界で唯一潤沢に流通して、貨幣経済が成り立ってるのがおれの国。
「気にするな、見ての通りドラゴンは問題なく狩れる。それよりもこれであんたらからものをかえばいいんだな」
「そうだ……」
交易というのも方便で、自分の国におれの「エン」を導入したい。
そういう「懇願」だ。
「ありがとう。たすかる」
「交易だろ。こっちが金をだす、そっちは品物をくれる。それだけの話だ」
「ああ、ありがとう」
それでもお礼を言われる。
☆
翌日、リベックの宮殿、執務室の中。
リリヤが部屋に入ってきて、報告をした。
「おにーちゃん、あの女が帰ったですの」
「スベトラーナか」
「はいですの、おにーちゃんの命令通り親衛隊を護衛につけましたの」
「それでいい。一億エン渡したからな、何かあったら大変だ」
「……」
リリヤがおれをじっと見つめてくる」
「なんだ?」
「おにーちゃんはあのお金で何を買うつもりですの?」
「まだ決まってないな」
「決まってないんですの? なのに前払いしちゃうなんて……正気の沙汰じゃありませんの」
「そう思うか?」
「はいですの。おにーちゃんはお人好しですの」
「……そうでもないぞ」
「はいですの?」
きょとんと小首を傾げるリリヤ。
彼女はわかっていないようだ、国にとって、貨幣を自前で生産できないのがどれだけまずい事なのかを。
その気になれば実質侵略する事もできる。
というか……そうなればいいかなと思ってる。
「なんでもない。まっ、食糧か衣類を輸入すればいいと思ってる」
「衣食住なんですの? なるほどいつものおにーちゃんですの。少しは安心しましたの」
「それか」
「それか?」
「金で侵略するか、国ごとかってしまうか、という選択肢もあるな」
リリヤは一瞬きょとんとしてから。
「それがいいです!」
と、食いついてきた。
「おにーちゃんの国民になった方が向こうの人も幸せですの! うん、まちがいないの」
おれが苦笑いするほど、リリヤはそれに食いついてきた。




