援助の要請
「いくつか国ができそう」
執務室の中、ユーリアが報告してきた。
「それはおれの町の話か?」
「ううん、ご主人様と関係ないところの話」
「そうか」
反乱が起きる話かと思ったが、そうじゃなかった。
「まあそういうこともあるだろうな」
マラートとかマクシムのことを思い出した。
あんな風に人間をまとめ上げるカリスマを持ったヤツが他にもいるだろう。
それが搾取とか略奪とかじゃなくて、ちゃんと領地を運営してくつもりのある人間がやれば、いずれは国になっていくのが当然の流れ。
「マイヤが言ってた、最近、シュレービジュが他にも狩られてるって」
「なるほど、サルを倒せば人間に解放できることが知れ渡ってるのか」
「どうする?」
「うん? 別にどうもしないぞ。いいことだろ? それでもっと多くの人間が解放されれば」
「わかった、何もしないでおく」
おれがなんかいったら何かをするつもりだったのか。
ユーリアの報告をうけつつ、黒板の需要グラフを見る。
ちょっと前に難民が流れ込んで需要が爆増したベルミも大分落ち着いて、他の町と同じ水準になった。
国の運営は順調。
「情報だけは集めとけよ」
おれが命令すると、ユーリアは静かにうなずいた。
☆
次の日、使者がやってきた。
ユーリアから聞いて、宮殿に入ることを許可して、応接間に通す。
そうして応接間にやってきたおれは驚いた。
そこにいたのは女だった。
銀色の髪、尖った耳、褐色の肌。
美しくも好戦的な目鼻立ち。全身から醸し出してる雰囲気。
「ダークエルフ?」
思わず声に出してしまった。
エターナルスレイブがまるっきりエルフなら、目の前にいるその女はどう見てもダークエルフだ。
女は立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
「初にお目にかかる、国王陛下。わたしの名はスベトラーナという。以後、お見知りおきを」
「あ、ああ。よろしく」
ダークエルフっぽい女に驚き、ちょっとうろたえてしまった。
「ま、まあ、座ってくれ」
「失礼する」
テーブルを挟んで、向き直って座った。
「失礼します」
ドアが開いて、リーシャが入ってきた。
おれとスベトラーナにお茶を出す。
「……」
リーシャはじろじろとスベトラーナを見た。
興味あるような、それでいて怯えてるような。
そんな顔だ。
リーシャが出て行ったあと、彼女に謝った。
「すまない、奴隷のしつけがなってなかった」
「いや、見られるのは当然だ。わたしもそうしただろう」
「うん? どういうことだ」
なんか意味深な言い方をされた。
「もしかしてご存じないのか? 我々リグレットは元々エターナルスレイブであることを」
「……へえ」
驚きを抑えるので精一杯だった。
「初耳だ。もっと詳しく聞いても?」
「有名なはなしだ」
遠回しに「気にするな」と前置きをされた。
「エターナルスレイブは主に仕える生き物。仕える主に巡り会えればよし、さもなくばある程度の歳になると変化する。このような姿にな」
「そうだったのか。つまりあんた、元はエターナルスレイブなのか」
「そうだ。こうして変化した後は『リグレット』と呼ばれる。まあ有名な話だ」
話を頭の中で再整理した。
エルフとしてうまれて、ご主人様がいないまま年を取ってしまうとダークエルフになる訳か。
……なんというか、見た目からして「堕ちた」って感じだな。
「すまなかった、いやなことを聞いて」
「いや、構わない」
スベトラーナは首を振った。
毅然とした顔は本当に気にしてない様に見える。
ならその話には触れないようことにした。
奴隷が五人もいるんだ、後で彼女達からゆっくり聞けばいい。
「それより、おれに会いに来たのは?」
「我々の女王から親書を預かってきた」
そういって、懐から封筒を取り出した。
蝋の上に印が押されてちゃんと封されてる、やたらと丁重なものだ。
「女王。国ができたのか」
「はい」
はっきり頷く。
ユーリアの話だとできそうだったが、もうできてるみたいだな。
あとで色々調べさせよう。
「そうか。それで用件は」
「我々は、貴国との交易を望んでいる」
スベトラーナはまっすぐをおれを見た。
その目は懇願に近かった。
まるで「助けてくれ!」と、言われてるようにみえた。




